13・卒業試験に出掛けましょうか
前回は最初から最後まで「彼女語り」でございました。
名前を出さないと言うのが楽しゅうございました。
まあ、形容も出来ていないから名前が出てきても書いてる方も読んでる方も意味ない気がしますが…。
これからは一気に行くぜ!と書き始めた筈なのですが…。
こいつらマイペースすぎる…。
13
森を抜けたら……そこは異世界でした。
いや、森の中も異世界だけど。
そう言えば、この世界は俺にとって異世界だし。ここに存在している人達……アレクやカールも俺にとっては異世界人だけど、この世界に来た時点で俺の方が異世界人になるのかなあ?
とか言って現実逃避してみるけど、別に突拍子もないものがあったわけではない。
普通にあったよ、平原とか。道はないけど。
砂漠ってほどじゃない事は確かだけど、流石に森の中でマイナスイオンの森林浴を常時展開されていた身の上としては直射日光がちときつい。幾ら何でもUV化粧品使うにはまだ早いとは思う……って、別にそう言う趣味ないから。俺の世代だと日焼け止めとか割と必須アイテムだった……ちょっとばかりPTAと先生が顔を合わせると挙動不審だったりしたけど。
それはそれとして、どっかの国のお姫様っぽいアレクの王家の森とかってわけでもないらしい……実を言えば内心、いきなり森を出た所で兵士に囲まれてお姫様だかお嬢様だかを誘拐した犯人扱いされたらどうしようとはドキドキしてみた。勝手に。
「おかえり、シオ」
「お帰りなさいませ、シオ様」
「……ただいま」
ちなみに、現実逃避からと言いたいらしい。
間違ってないので、まあ良いんだけど。
と言うより……森を抜けたら地平線でしたってまた、何て言うか斬新な……。
「と言うわけで、これがこの森になります」
「この森は敬意と畏怖を込めてタピオニドムと呼ばれているわ、巨木と獣と言う意味ね」
「……この地図って、意味あんの?」
目の前で広げられたのは、地図だった。
地図とは言っても紙ではなくて、カールの掌に乗せられたカード状の物体から発せられた光が四角く広がっていたりする……そのほとんどが緑色で埋められていて、アレクの言葉に従ってなのかこちらの言葉らしい文字でタピオニドムと文字が加えられた。何故か、読める……と言うより、理解出来る? この体の体液提供者って、一体どんな人達なんだろうかと言う謎が、また深まってしまった。普通、もし農民とか職人系だと当然金はないし学もなくて体で覚える系なんだそうだ。流石に文字や計算を覚えるにはそれなりの商人以上の職に就かなければ覚える機会がそもそもないらしい。
しかし、アレクの国では近年で子供には簡単な読み書きと計算くらいは出来る様に教える機会を広げているのだそうだ。何て言うか漫画家アニメかと言いたくなるけど、国民の学習能力向上が回り回って国の発展につながる可能性を広げるのは小学生でも知ってる事だからなあと思ってコメントは止めて置いた。
……カールが怖いからじゃない、と言う事にしておく。
「一応はございます、この森でもこのあたり……」
ほとんどタブレットと同じ様な感じで、特定の箇所にカールが指で触れると自動的に拡大する……ちなみに、この地図は近年開発されたばかりで持っている人は少なく。特に国外に持ち出されたと言う話は今の所聞いていないから、この国で持っている者はいるかいないかと言う程度なんだそうだ。
「このあたりですと、この国でも住民がある筈です。この森、タピオニドム全土に支配権を持っている国ではありますが、ただ人が立ち入るともれなく命の保証が無い関係で進行は一定の規模と期間で行われておりますが、実際の成果としては微々たるものであります」
「……そうなの?」
思わず半分瞼が閉じる程度には、じっとアレクとカールを見つめてみる。
二人とも、特に何を気にする事もなく笑顔を崩す事がないのだが……これは心理戦で常勝無敗と言う感じだ。少なくとも100回やってお情けで引き分けてくれる程度でしか自信がない。
けど、初日から踏破の仕方がすごいと言うか出鱈目と言うか。この詳しい地図はタピオニドムに入ってから書き上げたとカールが言っていたからそうらしいけど、完全踏破までは行かなかったらしいけど8割方は詳しい地図が描き上がっている。様に見える。
「それも仕方がないのかも知れないわね、元は隣国の領土で持て余していたのだけれど。褒美を兼ねて目の上のたん瘤だった英雄上がりの貴族の独立を認めてしまったのだから、使える領地としてほとんど使い物にはなっていないのよね」
上手い手とは言い難いと言うアレクに言わせると、元はこの森の外側にある国の領土の一つだったらしい、しかし、歴史上でこの森タピオニドムは流刑の場所として使われていたのだそうだ。どっかの樹海的と言うか、樹海そのものなんだが。肉食の獣とか存在するから、始末が面倒だと思われる受刑者を捨てる場所として重宝していたらしいのだが、何でも国そのものが荒れてわざわざ逃げ出す者も割とあったそうだ。
次第に逃げる者も増えたし、国の荒れも収まったけれど英雄とは戦争でもしていない限りは邪魔以外のナニモノでもない存在だが殺すわけにもいかず。さりとて、取り込むにしても下手に高い地位を与えてしまうと国家転覆を目論まれても困る。そんな折に、誰かが英雄に領地を与えて独立をさせれば良いと囁いたものがあったらしい。
森に英雄ごと逃げ出した者が始末されれば幸い、仮に英雄が一念発起して森を開拓してしまえば独立した事など忘れて踏み込んで取り込めば良い。
そんな目論見に思い切り巻き込まれた英雄氏、領地貰って地位貰って万歳三唱しようと思ったら場所は流刑地として有名なタピオニドムだし。領地を与えられたと言うより、土地ごと切り離された様なものだしで踏んだり蹴ったり。しかも、場所が平気で肉食獣が出る様な場所なので開拓だのなんだのより最初に自衛手段を覚えなければならないと言うあたりで踏んだり蹴ったりと言う有様なのだそうだ。
「ちなみに、そのお隣であるこちらの国の特色が精霊魔術と言うものになります」
光に手をかざして操作をするカールに従い、比較するとちまっとした森より薄い緑色の場所が拡大された。
小さいながらも川とか山とかがあり、海に面しているから比較的貿易とかに重点を置けばそれなりに経済的には自立できるんじゃないかと思えば「強固に作られた港があれば話は異なりますが、全て砂浜ですので貿易を行うには手入れをしなければ難しいと思われます」とカールが『大変良い笑顔』で言ったのが何となく怖い……。
あれですか、何かありましたか?
「タピオニドムを切り離した分、この国の領土は馬鹿みたいに小さくなったわ。かと言って、元から手出し出来る環境では無かったから領土の広さよりも管理のしやすさを取ったと言う所なのでしょうね。
何しろ、領土として主張すると何とかしろって周囲から言われて何とかしなければならないと言う強制力が付いてくるもの。時に割り切って切り捨てるのも、間違いではないのよね……悪手だとは思うけれど。
何しろ、英雄と呼ばれる人物があるのだから使い道は幾らでもあった筈なんだけど……」
「英雄殿は平民でございます、平民としての価値観では貴族の中にあっても持て余す事となるでしょう」
「と、言うわけ。あと、本人は記憶喪失の上にこの大陸の人でもないらしいのよね」
流石に直接会った事はないらしいが、ずいぶんと二人とも詳しいよなあとか言うのは。
聞かない方が良いんだろうな、たぶん。
そう思って二人の顔を見てみると、やはり笑顔は変わらない。より強固になった気がしないでも無い。
ついでに、その人達にアレクとカールが。もしくはどっちかが手を貸せば、状況は全く違うものになるんだろうと言うのも思うけれど立場上とかで手が出せないのだろうなと言う気もする。
確かに、流石に国境越えちゃうとねえ?
「そう言えば、一つ聞いて良いかな?」
はい、と手を上げると「どうぞ」とカールが応えたので遠慮なく。
「これから、どこに行くの?」
「そう言えば言っていなかったわね……精霊魔術の国とタピオニドムの国境付近よ」
「何でまた?」
「伝説によると、そこには『人形姫の城』があったとされてるの。もしかしたら、その辺りに何かのヒントがあるんじゃないかと思うのよね」
伝説ですかあ……これまた、何か大きな話出て来た感じ?
確かに、この世界には魔法あるけど。いや、魔術だっけ?
いやもう……そりゃね、召喚された身の上ですけど。しかも、魂だけ召喚された話って三回くらい聞いたけど……正確には7回でした。最後の7回目がこの間のアレ(第1話参照)でした。
きっと、意識が現実を拒絶していたからに違いない。
聞いてなかっただけ、とか言うのは無かった事にしよう。
「お城そのものはございますよ、ただ……何しろ血生臭い伝説のある城ですので住み着く者が滅多に居ないと言うのが実情です。仮に住み着いたとしても、数か月も住み続けていられないと言う噂でございます」
「血生臭い伝説……」
「大した話ではないのよ? ただ、そこには昔。二人の召喚の女神があったと言われているわ」
アレクの話を簡潔にまとめてみた所、どうやらこんな話になるらしい。
かつて、二人の異世界人が召喚された。
それは今回の様に魔物が活発になった時期があったとかで、その調査に出る者を選ぶ為に神の力を貸してくれる存在を随行させると言う事になったそうだ。
所が、呼んだ筈の人物は一人なのに現れたのは二人。しかも、一人はものすごく動きもヤバ気な感じで顔色が悪くてと言う有様。もう一人は、この国の基準でなかなかの美(?)人だったらしい。言動を聞くと中学生前後くらいじゃないかと思われるのだが、ヤバ気な方はその夜にも早々に出奔してもう一人の方と国が選んだ人達で旅に出る事になったそうだ。
当時の国が選んだ巫女的な存在を中心とした10人前後を一つのチームとして、各地にある神殿に出向いて結界を強くすると言う。一種のゲーム感覚で行っていたらしい。
所が、旅をしていた召喚者……仮にA美ちゃんは地道に旅を続けていたんだが他所のチームから妨害を受けたりをしていたんだと。国の代表者として旅をしているから、神殿は治外法権的により神殿を巡って力を広げた者が勝ちで後の外交に有利に働くとか。大人って汚い。
しかし、そこへ出奔した筈のB子ちゃんが現れて邪魔をする。どこの国に属しているわけでもないらしいB子ちゃん、どんな恨みからかは知らないけれどちょっかいを出してする邪魔が何て言うか邪魔と言う程度に邪魔。本気で邪魔する気あるのか疑問になる程度の邪魔だったらしい……って、どんな邪魔だよ?
途中はすっ飛ばすとして、A美ちゃんチームは見事各地の神殿をより多く力を示して最後の神殿でのやり取りも終わり、まずは国に帰った所でA美ちゃん達が見たのは陥落した王国。王都なんてものじゃなくて王国そのものが陥落していた。て言うか、なんでそんな話が旅の途中とは言えA美ちゃんに伝わらなかったのか謎。
犯人はB子ちゃん、なんでも彼女はこの国に連れ込まれたその時にはすでに死んでいたそうだ。肉体的には。それから、色々なものに魂を移してこの国に復讐を果たした。この国を欲しいと思う国には早い者勝ちで奪い取る様に言ってあるから好きに生きろと言ったそうだ。
そんなB子ちゃんが、歴史上で最後に住んでいたのが『人形姫の城』と呼ばれている所で森と隣国の境目としてちょうど良いと言う事で配置したままで放って置いてるそうだ。近づかなければオブジェとして置いていても気になるほどでもないらしいし国境としては非常に判りやすいとかで
「面白い事に、犯罪者の温床にはするには向かないそうです」
「なにそれ?」
続きます。




