11・締め切り1日を切って初めて実感する現実
地図が発展しなかった歴史としては、一部に「発展させなかった」と言うものがあるそうです。
戦略的にお役立ちだからだと言うのがあるからですね、そう言う意味からするとファンタジー世界に置ける大量虐殺魔法とか近代兵器は地形をどかどか変えさせてしまう地図好きーの天敵と言えるかも知れません。
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決意を新たにする。
流石に、こちらの感情を読み取れるらしい……雰囲気。空気だけだとは思うけど。
「シオ、何かありましたの?」
「お嬢様、口調が戻りかけておいでです」
「あ、あら……」
「そんなのはどうでも良い、一刻も早く行かないと……」
「シオ様?」
二人の頭には、今頃は疑問符が浮いていると思う。
それはそうだろう、まるで別人……と言う程でもないけど、自分でも判る程度に血の気が引いたんだから顔つきが変わっているだろう事は想像出来る。
現代日本人代表、平和ボケ万歳で生きて来たヘタレ少年と思われていたとは思うが……あ、なんか情けない気はする。否定はしないけど。
「アレク、カール……今から全力を尽くすつもりなんだ。二人は時間が限られていると思うけど、出来れば力を貸して欲しい」
歩みを進める足は止めない……まだ森から出てすらいない状態で、血界も張っていないし戸惑っている状態の二人では油断はしないと思うけど危険がないとも言い切れないから、その判断は正しいと思う。
実際、時々だけどちょっと大ぶりで夕飯でよく食べた大きさはでっかいネズミサイズのウサギとか。ちょっかいかけて来る事はある……本当に時々だけど。魔獣避けの魔術とかないのかな? あ、でも今のレベルだと効き目ないかも知れないけど。ステータスないから判らないけど、ゲームネタだけど。
あの魔法、レベルが低いとそうでもないけど高い時だと寂しくなるくらい遭遇しなくなるんだよな……。
「……シオったら、私。こう見えても一度拾ったら最後まで面倒見ようって、ずっと思ってたのよ?」
「ちなみに、それっていつくらいから?」
「最初に動物を拾う話を読んでからだから……もう、覚えていないくらい昔かしら?」
「お嬢様と小動物は、とても愛らしい組み合わせではあるのですが……直接世話をされていなくても寿命が短いものが多かった様で……」
「へ、へえ……」
あれ? なんだか、そこ疑ってかかる所じゃないかって本能が叫んでるんだけど?
き、気のせい……だよ、ね?
アレクの毒見役だったよ、なんて。そんなオチ無いよね?
「今も、時折給仕の者が入れ替わる事があるから……小動物が変わるのも当然かも知れないけどね?」
……無視だ、無視。
アレクに想像が付いていたとしても、こっちの想像が当たっていたとしても、それは確かめなければ事実かどうかは気にしない。関係ないし。
「カールは……」
「お嬢様の御命令とあらば」
「うん、もうカールはそのままで良いと思う」
「当然でございます」
「気にしたら負けだと思うわよ?」
「うん、そうだと思う」
だけど、とアレクは木の上からこちらを伺っている鳥の形をした生き物をした動物……飛べないんだけど、主食が木に住み着いている昆虫らしいが味の割に食べる所が少ない奴を気紛れか何か知らないが、木の幹を蹴っ飛ばして落とし、慌てる鳥っぽい奴を放置して先を進む。
こいつ、木の上から襲って来るだけで地面に落とされると途端に攻撃力が無くなると言うか。逃げ惑う事がメインになって戦う事を忘れると言う特徴がある。だから、落としただけで命を取らないのは森から出ると言うのもあるけど半分は暇つぶしなんだろう。
「いきなり、どうしてそう思ったの?」
「ああ……まあ、そう思うかな?」
とにもかくにも、この森で生活を始めてから欠片も「帰りたい」とは言わなかったし。そう言う意味で感情的になる事も全く無かった、だから人が変わったかの様に豹変したように見えたとしてもおかしくはない。
「生きる事に少し余裕が出来た、ってわけじゃないから」
その点にだけは、出来れば安心して欲しい。何度も夢に出てきて魘されるんじゃないかってくらい、内心で鬱陶しさも感じたけど「油断だけはするな、常に考えろ」と二人が代わる代わる言ってくれたのは毎日の事で、挨拶の前に枕詞的に着くんじゃないかと思った。
「正直な所を申し上げれば、シオ様が御一人で生き抜くためにはまだまだ予断を許さぬ。そして若干の不足が否めないと申したく……いえ、実力が足りないのではなく足りないのは経験でございますね。それを補うかの様に勘が働いていらっしゃいますが、かと言って勘に頼り切るにも限度と言うものがございます」
「知ってる」
逃げる事、生き抜く事に関してはともかく、どうにも戦闘技術になるといまいち勘が働かないと言うか。「傷をつける」とか「命を奪う」と言う事に対してまだ恐怖心が捨てきれないと言う事なんだろう、平和ボケ大国なめんなよと言いたいが、そう言ってるとお陀仏になりかねないので気にしよう。
と言うのもだけど、元の世界に戻った時に反射的に攻撃しかけるとかしたらどうしようって不安感の方が絶対的に高いと思う。
「どっちかと言えば、逆」
「逆?」
「余裕の、逆。でございますか?」
そう、とばかりに首を縦に振って。ついでに、目についた草を採取して置く……確か、これ何かの薬草だった気がするな? なんだっけ?
「追いつめられておいでになる、と言う事ですか?」
「そんな感じ。これまでは、身の安全とか色々な意味で生命維持とか考えるの最優先だったからぎりぎり大丈夫だとは思うけど、考えるのが嫌なレベルで問題が大きくなると思う」
「……何だか、聞いたら面倒事になりそうな気がしますわ」
「確実に巻き込まれると思う。て言うか、多分すでにもう個人レベルじゃない所で巻き込まれると言うか巻き込まれたの俺だから、この場合は巻き込み返しになるのか? いや、それはそれとして出来れば神殿系とかは近づかない方が良いと思う……いや、先に行った方が良いのかな?」
今、確実にアレクとカールの顔が「嫌なものを見た」って感じになったけど……それでも美少女と美人は変わらないんだから美形ってずる……あれ、そう言えば今の顔は美形の部類だった様な気が……。
いや、今はそんな事は気にしない。気にしないったら気にしない!
「どう言う事か、伺っても?」
「巻き込まれたいなら止めないけど?
だから、もしかしたら復讐相手が消え失せている可能性がある……」
「消えるっ?」
はっきり言って、消え失せるで済めば良いけど。
しかも、それが自分自身が絡んでいるけど自分自身が原因じゃないと言う意味では……複雑だ。
「シオの今までの言葉だけでは、情報が少なくて判断が出来ないわ……」
溜息の憂い顔も美しい少女ってどうなんだろうね……とりあえず、どっかの聖地にいなくて良かったと思う。
少なくとも、問答無用で……最悪で拉致。とりあえず写メ、調子に乗ると声をかけて来てメルアド押し付けって所かな……カールもついてるから洩れなく男女ともにひっかかるか?
嫌な想像だな……思い切り巻き込まれてる自分自身が簡単に想像出来てすこぶるイヤだ。
「お嬢様、発言をお許しいただいても?」
「わざわざ許可を取ったっ? 今まで許可なんて一度も取らなかったのにっ?」
「シオ様をお相手させていただく際には許可を取りませんよ?」
「ああ……いや、うん。別にそれは良いけど」
「宜しくて……こほん、いいわよ」
別に、そこまで一生懸命やらなくても良いとは思うんだが……何か思う所でもあるんだろうか?
カールは鉄面皮に近いくらいの笑顔で固定されてるから、内心でどう思ってるんだろうかと言う気はするけど。流石に、腹の中で黒い笑顔で笑ってるって事はないと思いたい。
「恐れ入ります、お嬢様。
神殿に関わる事で、シオ様にとっては決して逃れる事が出来ない事と判断されますか?」
「……そうかも知れない?」
「はっきりしない答えねえ」
「自力で何とか出来る問題じゃないからなあ」
現在進行形で。
出来る事はやらないといけないけどさ、でないとリアルでゲームオーバーだ。
人生の。
「これは……頭を下げるべきかしら?」
「いや、アレクみたいな人は簡単に頭下げちゃダメでしょ」
ツッコミ入れておきますよ、一応。
空気を読みますよ、日本人だからね!
てか、カールが微動だにしないって……。
「問題ございません、シオ様。
シオ様はこちらの世界のお生まれではない、異世界の御方。そして、お嬢様について何一つご存じのない御方でもございます。
何より、森の中は下手に王きゅ……いえ、この森の中に関係者は愚か我々以外の知能者は存在しておりません。余程の能力者でもない限りは、他の誰かに知られる可能性は全く無いと判断しました。
これが他の誰かもしくは何かが存在しているのであれば、お嬢様の軽率な行動に関してはお停めしなければなりません」
「軽率だなんて思っていなかったわ、この森の中にある限り今は他に誰かがあるわけではないもの。
何より、私にとって問題になる行動をしようとするのならばカールが反応しないなんてあるわけがないわ」
「……信用度高いんだな?」
「当然の事とお応えします」
「ふふ、そうでもないかも知れないけどね?」
どう言う意味かは判らないけど、少なくともアレクにとってカールは信頼している人だって言う事に違いはないだろう……もしかしたら、これから先に変わる事があるのかも知れないけれど。それは無関係でありたい所の話なわけだし、そもそも二人の事は見たまま以外で何も知らないわけだし。
出来れば、このままでありたい気はしないでもないが。それって、無理難題って可能性もある。
圧倒的に足りない知識、経験値……補う為には何が必要だ?
「少なくとも、私だって一人で行動しなければならない事は少なからずあるもの。今が異常ってくらい身近にあるって言うだけでね、だから私だってある程度は一人でこなせるのよ?」
そりゃあ、ここ数日で素敵な御足による打撃行動に関しては目が丸くなる程度は拝見しましたよ……はい。
本当に心の底から思うんだが、出来れば一生食らいたくない。
そこいらにある大木くらいなら、蹴り一発で倒れるのを間近で見たんだから本心。だからって、別に顔の綺麗さにつられて鼻の下が伸びるなんて事はない、これも事実。本音。
だって……。
「そうそう、そんな事よりもシオの事よね?」
「然様でございます、お嬢様。
シオ様の御霊が異世界より召喚されてしまった以上、そこに界を超えると言う点で必ず何らかの関与がある筈です。仮にシオ様が神の寵愛を受けている可能性も否定する事は出来かねます」
「近いけど……それ、違うから
「近いの?」
「違いますか?」
この話、元の世界では誰にも言う事は出来なかった。家族にもだ。
言っても信じないとか、馬鹿にされるとか、そんなのもあったのだろうと思う。本家と違って血が薄まった家は珍しくなかったし、見えない判らない感じ取れないと言う三種類を完全制覇している場合は、変わり者でもない限り興味は持たない……そこで研究職に進んだりする奴らも部門として存在するらしいけど、詳しい事は知らない。これから関わる事もあるかもって言う程度ならばともかく、何しろ本業は学生なもんで。
言えるとすれば、本家に行った時に彼女や彼女の家族とくらい。他にも本家の人達は存在するし、確かに可愛がっては貰っていたとは思うけど。だからと言って、その事についてぺらぺらしゃべる必要はない。
監視役兼助言者の本家からの配属された人も、慣れあいはしても基本的に仕事の話はしない……普通は逆じゃないかと言われそうだが、実際にそうだったのだから仕方がない。あちらさんも、本家での生活に溜め込んでいたって事なんだろう。多分。
とは言っても、言わなくて苦痛とかは思った事が無かった。流石に、幼稚園や小学校低学年くらいの時は言いたくなった事もゼロではないけど、今はそんな事はない。
信じる信じないと言うのもあるけど、それは。
「俺じゃなくて、彼女が元の世界の神の愛し子なんだ。
俺の彼女は、元の世界の神の愛し子なんだ」
他人事だからってわけじゃなくて、他人事でもなくて。
体感時間的に数日ぶりに開けた森の向こう側は、まるで。
これからを予言しているんじゃないかと言う気さえ、した。
続きます。




