9・爆発しろと叫んだ対象者に己が含まれている場合
前回に出て来た「魔導書」理論を先日別枠で思いついて、以前に思いついた筈なのに思い出せないー!とジタバタしていました。
まさかこんな所にいたとは……。
気分としては「貴様ぁっ!」と言う感じです。
と言うわけで「魔導書理論」はいずれ他作品でも出てきます。
大雑把に言うと、精霊との契約とかそんな感じが近いですねってネタバレ。
09
と、ここまでがさっきまでの一連の流れです。
と言うわけで、再びお帰りなさい。今度は初めましてじゃなから始めました。
アレク曰く「水のある場所で使った方がやりやすい」と言うので使った、文字通り「水鏡の魔術」って奴だった。文字? 読めませんけど理解したのはカール曰く「魂ではなく肉体の記憶ではないかと思われます」と言う事だから、基礎知識的なものくらいは肉体に組み込まれてるのではないかって話。何で予測系なのかと言えば、二人とも基礎的な「そう言う技術がある」と言う事は読んだけど、そう言う方面って言うのは学術書でも基本的な所までしか載ってないらしい。
例えて言うと、ホットケーキミックスに何を混ぜてどうすればホットケーキになるかは説明書に書いてあるけど、粉の配合量だとか粉を使ってドーナツやマフィンの作り方、デコレーションの仕方までは載ってないって事だと言えば近いかも知れない。
アレクやカールが魔術を使えるかどうかまでは知らない(魔力を集中させる事で魔獣を蹴散らしているのは見たけど)から、嘘か本当かは判らない。
あの二人が、元の世界の姿を知るわけはないんだから。わざと言わなかった、なんて可能性がないと言う事も判ってる。こっちも言わなかったし、ある程度は人造人間としての素材が「魂によって変化する」事はあると言うのも聞いていた……誰も悪くない。
ついでに言えば、これは良くない傾向だ。
何たって、アレクの真似だ。家出だ。いや、家はないし絶賛異世界に家出中……拉致されてるわけだから家出ではないか? まあ良いけど帰れないのは変わらないし。
別人28号って、何かで聞いた気がする。
無意識で、目の前に黒い鏡を呼び出していた。
さっき術書が目の前で燃え上がってしまい、緊張している間にデカい鏡が出たものだと思い、その装飾に目を奪われ、ついでに見た。
それは、知らない天じょ……じゃない。知らない者だった。
人の形はしている、間違いではない。
アレクやカールと同じ、腕が二本に足が二本、頭は一個。
配置も変わらず目が二個、眉毛二本(?)にまつ毛もある。口も鼻も一個ずつで鼻の穴は二個。耳も二つに一つでワンセット!
……現実逃避くらいさせて下さい。
だって仕方ないじゃないか! 今までぜんっぜん知らなかったんだよ!
「誰だこれ誰だこれ誰だコレ……こんな奴知らない……」
項垂れたくもなると言うもので、別に元の世界の自分自身と全く違うと言うわけでもない。まあ、肉付きのあたりはかなり違う気もするが、それはここ暫くの野営生活のおかげだろうと言う気はする。
鍛えたつもりはない、単に生き残っただけ。的な?
どちらかと言えば、問題は顔だ。まあ精悍な顔にはなったと思う、別に肥満体じゃない……とは、思うけど。影が出た感じ? ただ、その部位……部品? 何かどちも剥ぎ取られそうで怖いな。
その、配置が何と言うか……「絶妙な位置」なんだ。
つまり、イケメンである。照れると言うより「武士の情けだ死なせてくれ!」と言う意味的に。
まさか自分が、人生で一度たりとも自分自身をイケメンだと認識する日が来るなんて……首吊りたい。腹に穴を空けるでも良い。どんだけ勘違いだよ! と言えるなら言いたい、でも言ったら別の意味で周囲から睨まれる気がする。知らない間に事務所に書類送られるレベルだろう、コレ! 泣きたい! 今なら恥ずかしさだけで元の世界に帰れる気がして帰れない!
しかも……髪の毛真っ白の眼球真っ赤って何っ! どこの厨二病だよ!
黒人も白人も見た事あるよ! でもアルビノ的色彩の奴なんて知らねえ上に周りに飛び回ってるの何だよ!
この世界に「小さき者達」がいるなんて、聞いてないんだけど!
いやもう……どこから、何にどう驚けば良いのか判らなかった。
無駄に恥ずかしい思いをした、判ったのはそれだけ。
髪の毛が白い? 短くて自力では見えませんでした。
顔の部品の配置が違う? 自分の顔を自分で本当に見る事は出来ないと思うんだ!
利点と言えば、思わず魔力を完璧に行使できるようになりました……多分だけど。体内の魔力を集中させて飛躍的に運動能力や耐久性を高めるって言うのは、術書が無くても出来るみたいだって言うのは判った。
でも恥ずかしい。物凄く恥ずかしい。
いや、あの二人の美意識がどうなっているのか知らないけど、だからどう思われているのかも知らないけど。
かと言って、戻らないと言う選択肢がないって言う事にも気づいた……夜が更け初めてからだったけど。
□■□
恐る恐る戻ってみて、アレクもカールも「居場所は判っていたから放っていた」と言ってくれた。
何でも、二人の様な存在から見ると「目立つ」らしい……しかも、無駄に。どう言う意味かと問えば、今度はカールが普通に鏡を取り出した。
内心では自画自賛したくないのにしたくなるなんて言う自己陶酔系に陥りたくないけど、見ろと言われたら見るしかない……あれ?
「さっきと違う?」
さっき、白い髪と赤い目だった。
今は、黒い髪に黄色……金色? と碧の、目?
カラフルにも程ってもんがないですかね?
「うぇぇぇぇぇぇぇいっ?」
そりゃ、奇声くらい出しますよ。
「では、こちらをお持ちくださり解放させて下さい。あ、開けなくても良いですよ?」
「……『解放』……って、コレなんですかあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
半泣きになりました。
いやだって、いきなりやれと言われてやったら手の中にショート・ソードが現れて。しかもいきなり黒い炎を発するとかどんだけ厨二病で、おまけに「熱くない」と来たらもう自我崩壊したくなるってもんでしょ? そうでしょ? お願いだからそうだと言って下さいぃぃぃぃぃぃぃ。
「まあまあ、落ち着いて下さいませ……そして、こちらをご覧ください」
「何で今度は黒髪に黒目なんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「ほら、剣は下に刺して構いま……いえ、構いますね。閉じて下さいますか?」
「えぐえぐ……『閉鎖』……色が変わったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「はいはい、そろそろ落ち着きましょうか……温かいお茶はいかがですか?」
ただでさえ頭が上がらないけど、それはそれは無茶苦茶なくらい幼児退行してスミマセンデシタと土下座位できる。何なら、五体投地くらいしたい所な程度恥ずかしい。
だが、考えても見てほしい。
これだけ次から次へと、自分の知らなかった自分の事が端から出て来たら精神が壊れるくらいしますって……いっそ気絶くらいしたかったけど、結局ソレやると何度か気絶する事になるし。気絶癖になっても困るから一度で済んで良かったと言われても悔しくはない……それでも。
ショックで気絶するのは、美少女ヒロインの特権だと言われたらぐうの音も出ないんだけど。
結果。基本は金髪碧眼でした……少女漫画かっ!
ちゃぶ台をひっくり返したい衝動にかられたけど、それは流石に我慢した。
だって、ここにはちゃぶ台ないし。テーブルセットだけだし。それも必要な時以外はしまってあるし?
本当、どうやって出し入れしてるんだろう? どこにしまってるんだろう? ステータスはないって言ってたけど、アイテムボックスとかイベントリとかはあるんじゃないか? 聞いた覚えないけど。空間魔術になると思うけど、魔力と魔道書を繋げて魔法を物理法則の世界に取りだしているんだから魔術って事らしいけど……考えたら落ち着いて来た。
「シオ、ごめんなさい」
「アレク……え、なんで?」
「私、いいえ。私達は、シオの記憶が戻る事が魂が器に定着して慣れて来た事だと思っていたの。実際、普通の場合はそうらしいのね。でも、まだ早かったみたいで……」
時々(別の意味で)忘れたくなる時もあるんだけど、アレクは美少女だ。
美少女が憂いの顔をして、こちらに謝って来る……普通はどうだか知らないが、こっちはたまったものじゃない。別にカールはその点については何も言わない(それもそれで怖い)が、だからと言ってアレクが罪悪感にからえる必要なんて思い当らない。
「見極めも出来ないなんて、私もまだまだよね……その為に、シオの精神を危険な状態にさせてしまったわ……」
「や、それは……アレクのせいじゃないんじゃないかな? 元は」
アレクが召喚したとか、依頼主とか言うのならまだしも。ねえ?
そう思い目に力を込めてカールを見ると、どうやら意味が判ったみたいで今にも吹き出すんじゃないかと言いたくなるような笑みを浮かべている……うん、別の意味で怖いです。
「仕方がありませんよ、お嬢様にとってシオ様は『初めての子育て』みたいなものなのですから」
「……子育てって、言うにことかいて」
思わず、半目になって見つめるのは仕方ないと思うんだ。
「愛玩動物じゃないんだから……」
「いえ、そう言う意味ではありませんよ?」
「ごめんなさい、でもそう言う意味ではないの」
何でも、アレクは生まれも育ちも下手な小動物とかを気軽に身近に置ける立場には無かったらしく(何でも毒見役が要る程度には危険らしい。今は毒見役が必要ないらしいが、「どう言う意味」でなのかは知らない)今も簡単に動物を側に置くのは出来ないらしい。主に世話の関係で。
今回、偶然とは言え「お世話」が出来ると言うので思い切り……暴走したと言うべきなのだろう。はしゃぐにも程があると言う事なんだが、己よりもでかい人間を「お世話」って……。
とは言っても、ホムンクルスの児童書とか育て方とか操作マニュアルがあるわけじゃない中で、しかも異世界の魂入りなんて斜めに貫くにも程がある条件ではよくやってた方だとは思うが……これって簡単に許すべき? それとも、当分は怒るべき? いや、そんな怒ってないけど。
てか、止めろよカール!
「記憶が完全に戻るまで、待つべきでしたわ……」
「ですが、それでは故国で問題が大きくなります」
「ええ……時間切れが間近なので気が急いてしまったのでしょう。でも、その結果がこれでは……。
下手をすれば、これはシオの命に係わる問題になりかねました言うまでもありません。少しずつ、現状のシオの事を耳に入れた上で、自覚させるべきでした」
命って……そんな大げさな、とは言いたかったが。
何となく、あのまま暴走したら体を魔力が突き抜けたりしたって事なのかなあ? と言う気はする。
多分だけど、やろうと思ったら出来るんじゃないか?
……怖っ! それ危険な気がする、滅茶苦茶アラーム鳴ってる、脳内だけど!
と言う事を肯定したいのか、思わずカールの方を見れば静かにうなずく……あの笑顔が基本だからいまいち信用したくない。出来ないんじゃなくて、したくないけど。
そう言う事にして置いて下さい。
「帰るの?」
「ええ……流石に、そろそろ陛……父にもカールが言い訳をするのが難しいらしくて。一応は事の次第を伝えてはある様なのですけど」
「毎日城に戻りまして、お嬢様は蓄積された過度な疲労と先日のパーティで『どなたか』に連れ出された為に熱を出された、と言う事にしてございます。事実、興奮状態のお嬢様を発見した時は大変驚きました」
何があったか知らないけど、カールは出会う直前までのアレコレでかなり溜まっていたらしい。
溜まっていたのは主人であるアレクも御同様で、消えたアレクを追って見つけた時には本人曰く「信じる事は致しかねました。世界を」と言われて「そこまでかっ!」と答えたのは間違っていないと思う。
日頃、どこの彼女だと言いたくなったが営業スマイルが身についた身分の為に侮られる事も年齢のせいだけではなくあるらしく、それが仕事に響く事も日常的だった事もあって不満は危険水域にまで達していたそうだ。しかし、どんな天の采配か突然の休暇で大はしゃぎって。
続きます。




