タップの場合
タップの場合
兄貴、またあいつら暴れてるらしいですよ
ん? いいんじゃないか? 僕だって暴れるときは暴れるさ。アドルフ、君だって自分のピンチのときは死に物狂いで生きようとするだろ?
まぁ、そうっすけど……それにしても【ロックさん】はどこにいるんですか?
ロックスの奴は調べごととかで忙しいんだよ。僕だってどこにいるか分からないよ。それに、あいつのことだからね、死んでるなんてことはありえないさ
それは俺だってわかりますよ兄貴……ロックさんが死ぬはずはない。けど、最近このあたりもまたひどくなった気がします
アドルフもそう思うか? 近々必ず何かがある。それよりも、ロックスの奴から頼まれた奴をとっととやっちまおう。
えっと確か【神樹】の捜索でしたっけ?
あぁ、なんだか分からないが危険なものらしい。僕らも危険な調査はしたくないんだけどね
俺達なら平気って思われてるんすかね?
さぁ? 少なくとも僕とロックスのコンビで組んでないってことは死ぬほど危険ではないってことだろ?
さらっと怖いこと言いましたね。大怪我は覚悟しろってことっすか?
この世界では怪我なら幸運だ。通常なら死だ……いや、幸運ではないのかもね
いえ、幸運ですよ。生きられてるっていうのは幸運でしかない。
アドルフはいいことを言う。とっとと聞き込みといこうか
『神樹? そんなものは知らんね。今度の仕事か? タップ君』
あぁ、悪魔のあんたに聞いても分からないということは魔界にはないものなのかな?
『神ってついてるものなんだから天使の方が知ってるんじゃねぇのか?』
いやぁ、そうしたかったんだけどあいつら栄養、栄養うるさいじゃない? 僕は天使より悪魔のほうが好きなんだよ
『それはありがたい、今度酒でも飲みに行かないか?』
いいですね、僕の仲間も呼んでいいかい?
『ほう、それはタップ君みたいなユニークな友達かい?』
そうですね、ユニークかの判断は任せるがあんたたちに匹敵するさ
『くくく、そいつはいい。大歓迎だ。そいつらに言っておいてくれ【化け物サイドへようこそって】』
はいよ
兄貴、大丈夫でしたか?
あいつらは大丈夫だ。僕の行きつけの酒場で仲良くなってね。その酒場には天使、悪魔、エルフにワービースト、ほかにもこの世界が生まれてから呼応する様に生まれた新種の【混合種】なんてのもいたよ。まぁ、相手は選ばないとすぐに戦闘だけどね?
それ平気じゃないですよね?
平気じゃないよ。ただの人間なら間違いなく死ぬ。僕みたいな奴だからなじめるところさ。アドルフは絶対に行くなよ?
行かないですし、そもそもそんな酒場がある自体驚きっすわ。絶対に戦闘になりますね
そうだね、確かになるが……さて、アドルフここからは僕一人で行くよ。
……いいんすか?
いいもなにも、ついてきたらたぶん死ぬよ?
ロックさんにそのことは?
伝えておいてくれ。僕も死にたくはないからね
はい、では……気をつけて。
【洞窟】
人間はこの洞窟に段階をつけて呼んでいる。
何の明かりは分からないが明るいところを5等分して第一区画。
一番明るいところを1-1と呼ぶ。
つまり、第一区画の最後は1-5だ。
そして、僕らはいま【3-5】まできていた。
ここまでは人間の目でもギリギリ捉えることのできるところだ。
しかし、これ以上は何も見えない。
ロックスの奴は前に最深部(10-5)に行ったという話をしていたが僕はいまだに信じられない。
そもそもこの洞窟が僕らの世界を奪った現況だ。
この洞窟から次々に異形の生命体が現れた。
これさえ破壊すればと何度思ったことか……しかし、ロックスが言うには「破壊? とんでもない、あれを破壊するととんでもないことが必ず起こる」とのことだ。
まったく、最深部とやらで何を見たんだか……
僕はそんなことを考えながら奥へ奥へと歩いていったよ。
もちろん見えないさ。
だが、分かるんだよ。
視力、聴覚、嗅覚、味覚その全ては私にとって平凡そのものだ。
しかし、最後の一つ……触覚だけは違う。
発達した触覚を極限まで高めることで自分の周囲のものをなんとなくで捉えられるようになった。
ただし、メートル単位でのものではない。自分の周囲頑張って50cmぐらいなら分かる。
その程度のものだ。
暗いところでここに何かがあるかもしれないと思うことがある。そして手を伸ばすと何かがある。その程度のものと考えてほしい。
よくそんな状態でここに来たな? 全くその通りだよ。
『他にはないのか?』
やはりいましたか。お名前を伺っても?
『君たち側からすると在来種。私の名前はハーベストだ』
ハーベストさん、あなたに一つ伺いたいことがある
『私の質問に答えてからだ』
他にはですか。僕の能力は他にもある。だが、言うわけにはいかない!
『なぜだね?』
能力は隠してこそだからさ
『……まぁいいだろう。ロックス君の知り合いだな? 名乗れ』
ロックスを知っているのか?
『彼と私は友人だよ。人間と呼んでもいいがそれだと君は嫌だろ?』
そうだな、僕の名前は……
そいつに名乗ってはいけない!
え!?
『ほぉ……君がここまで来るのは久しぶりじゃないか?』
私の仲間です。私がいないわけがないですよ
ロックス、どうしてここへ?
神樹の事を探してたんだろ? 私も別件で情報を集めていたんだ。しかし、そこでも神樹が必要になってね。私が調べた情報には神樹がこの世界を作ったとされていてね。しかし、今はそれとは違った解釈になっている。そこらへんを聞くのなら人間がいた世界とは別の【在来種】がいるここに来るのが手っ取り早いと思うのは当然のことだ。しかし、まさかあなたがいるとは思いませんでしたよ。ミスター・ハーベスト
『久しいな、友人』
えぇ、本当に久しぶりです。初めてお会いしたときは殺し合いに近かったですからね。
『それは君が無用心だったからだ』
そして、私の仲間を狙ったと?
『ふふふ、いいだろう。君がここに来ているということは話し合いだろ?』
いや、違う。ミスター・ハーベスト。どうしてあなたがこんな【下位層】にいるのかは知りませんが、ちょうどいいです。神樹という【薬物】を広めているのは間違いなくあなただ。私はあなたに捌きを与えに来た。
『断定できたか、果たしてそれは事実なのか?』
真実ではないのかもしれない。しかし、あなたが神樹を所有していることは知っています。そして、それを種族問わず無差別に配っているという情報もあります
『面白い、人間ごと気が私に勝てると?』
それはこちらの台詞です。――在来種ごときで私に太刀打ちできると?
『君の仲間も一緒に戦うのかい?』
悪いが今すぐ帰ってくれ。これから先、絶対にここで名前を名乗ってはいけない。そして、4日。4日私が帰ってこなければ私のことは忘れろ
まってくれ、意味が分からない。
だろうな、私も同じ立場なら意味が分からない。だが、全てアドルフに伝えてある。頼んだぞ
……必ず帰って来い。約束だ。
ふっ、善処しよう!
【地上】
僕は何もできなかった。
どうやら、ここに来るのはまだまだ早かったらしい。
完全無欠の馬鹿……ロックス・ベル・グランディスは僕の知らないところでとんでもないことをしている。
それだけは分かった。
『なんだ? 人間か?』
(なんだこいつら……見たことねぇ形だな)
『人間は高く売れるらしいからラッキだー』
(在来種かな。なんでもいいや、敵意があるなら……)殺すまでだ。
『あ?』
【不可の領域】
視えない、味がない、聴こえない、匂わない
全ての無をあわせたとき僕の技は生まれる。
全身に纏った感覚は切れ味を持ち、手刀であっても全てを斬れる。
ただのガードでも無傷で銃弾を防げる。
触覚を究めるということは【肉体強化】のことだ。
僕は斬った。
一筆書きのように滑らかに、かつスピーディに目の前の敵を斬り殺す。
そして誓う、必ずロックスの力になれる人間になると