Maguna Fool Story〜シークレット・メモリーズ〜
剣士グリコ
11月11日はポッキー&プリッツの日ですね!
そんなこと全然関係ないんですが、剣士グリコの物語です!
特に何もない平和な村。
大工の父と機織りの母を持つこの少年はここで生まれ育ってきた。グリコ、8歳。はねる黒髪を手櫛で撫でつけながら小丘にそびえたつ大木の木陰に腰かけていた。
「なんか面白いことないかな~。」
普段は父に作業場に連れて行かれ、木材運びを手伝わされたり、母に機織り舎に連れて行かれ、おばさんたちにかわいいかわいいと撫でまわされたりするのだが、今日はさっさと起きてここまで逃げ出してきたのだ。
「暇だー!!」
大きな声で叫んでみるが、何も起きるわけもなく。両親についていくのは嫌だが、暇なのも嫌だとわがままを言っても誰も聞いてくれない。
(そもそも、リンゴが遊びに来ないのが悪い。)
近所に住む子どもは少なく、リンゴは一つ年下の幼馴染であった。薬師をしている母親の手伝いをするとかでほとんど遊んでくれないのだ。ほかに子どもといえば、村長のところのクソ生意気なチャコと機織り舎であったカノンとかいうチビくらいだ。
「男友達とかいれば戦いごっことかして遊ぶんだけどなぁ〜。」
「そうか。じゃあ、俺が相手になってやろうか?」
急に背後から声が聞こえ、驚いたグリコは後ろを振り返った。
いい反応だなぁとか言ってガハハと笑う声の主はとてもがっしりとした体つきで短髪の黒髪にこんがりと焼けた肌、左頬にある3本の傷が印象的な男だった。擦り切れ、薄汚れたマントと腰に差した長剣から旅の剣士であることは子どものグリコでもわかった。
「おっちゃん、誰だ?」
旅人なんかほとんど来ないこの村で育ったグリコは目の前に現れた人物に警戒心をあらわにして尋ねた。男はグリコの様子を見てもう一度ガハハと笑うと陽気な笑顔で答えた。
「知らない人に気を許さないのも大事なことだよなぁ。俺は旅の剣士、略してタビケンだ!よろしくな、ぼうず!」
あ、よろしくお願いします。と言ってグリコは少し固まった。おい、ちょっと待て。
「なんだよ、タビケンって!名前じゃねぇだろ!本名名乗りたくなくてももう少しましなの名乗れよ!それから俺はぼうずじゃねぇ!グリコだ!」
タビケンはやっぱりガハハと笑う。目を吊り上げて突っ込みまくったグリコは子ども扱いされていることを感じ顔をしかめる。
「そうか、そうか。グリコっていうのか。いい名だな。」
そういわれてグリコは驚く。今まで機織り舎のおばさん方にグリちゃん、グリちゃんと呼ばれ、女の子みたいでいやな名前だと思っていた。
「なんで、いい名だと思うんだよ。」
どうせ、適当に言ってるだけだろと思い聞いてみた。
「ん?呼びやすくていいじゃないか。剣士グリコ。響きもカッコいい。」
満足げに言うタビケンの顔を見て、グリコは少しうれしくなった。しかし、それを顔に出したくなくて言い訳のように言葉を紡いだ。
「別に、そんな気に入ってなんかいないんだからな。…おい、タビケン、俺でも剣士になれるのかな?」
今度は笑わず、少し真剣な顔してタビケンは言った。
「あぁ、なれるさ。剣士は剣を使って戦うから剣士になるんじゃない。剣士である誇りを持って戦うから剣士なんだ。」
グリコは幼い頭で必死に理解しようとする。
「…ホコリ?なんかよくわかんねぇ。だけど、俺も剣士になりたい!なぁ、タビケン、どうやったら剣士になれるか教えてくれ!」
タビケンは近くに落ちていたまっすぐな木の棒を拾い、グリコに渡した。
「剣士になってどうするんだ?」
木の棒を受け取ったグリコは顔をうつむかせる。剣士グリコの響きがカッコいいって言われたから?タビケンみたいになりたいって思ったから?剣士になってどうしたいかという質問にグリコは答えを見つけられなかった。
そんな様子を見たタビケンは陽気に笑う。
「平和を守るとか、みんなを守るとか誰でも言いそうなことさえ言わないとは。面白いやつだな。」
気に入ったぞとグリコの頭を力強くなでる。近くにあった木の棒をもう一本拾って言った。
「その木の棒で打ってこい。特別に剣を教えてやる。」
その日から3日間、タビケンはグリコに剣の持ち方、戦い方、剣の種類や特徴など時間が許す限り叩き込んだ。グリコはとても吸収が早く、運動神経もよかったのでメキメキ上達した。
そして、3日目の夕方。
タビケンは旅支度を整え、村を出ようとしていた。
「タビケン、ほんとに行っちゃうのか?」
グリコは寂しそうに尋ねる。タビケンは相も変わらず陽気な顔で答えた。
「当たり前だろ。旅の剣士が旅をやめちまったらただの剣士になっちまう。そしたらタビケンじゃなくタダケンに改名しなきゃならねぇだろ。」
「名前の問題かよ!」
グリコの突っ込みにタビケンはガハハと笑う。そして、これが最後というように頭をポンポン叩いて言った。
「グリコ、強くなれよ。お前は磨けば光る原石だ。またどこかで会えたら勝負しような。」
約束だぞとグリコは言う。すぐに追いつくからあまり遠くに行くなと。
笑いながら手を振ってタビケンは歩いて行った。その背中がどんどん小さくなる。
と、急にタビケンが走って戻ってきた。
「何してんだよ、感動の別れが台無しじゃねぇか!」
出会って最初の突っ込みの時のように目を吊り上げてグリコは言う。
「悪い、グリコ。ひとつ伝え忘れてた。」
そういってタビケンはグリコを力強く抱きしめた。
「お前はもう立派な剣士だ。その力、自分のためじゃなく、傷つけるためじゃなく、人のために、大事な人のために使うんだぞ。」
それから8年。今は教わる側ではなく教える側になった。なかなか出来の悪い生徒ではあるが教えているこっちも学べることは多い。タビケン、もう少ししたら追いかけるからな。
タビケンと出会った木の下で空を見上げ、今日もグリコは剣を振る。