ケツにネギをさした男
いつからだろう。
私は社会人になり、営業として各地を回ってはその都度多大なストレスを抱えて家路につく。
モヤモヤしつつも朝を迎えて会社に行けば、そこでも多大なストレスを浴びせられる。
休日も気分が晴れることはなく
車も買った、ただ乗り回しても気分が晴れない。
無論友人もいない。遊びに出ることもなく。余った金で遊郭へ遊びに行きもするがどうも気分が晴れないのだ。
そんな折り、私は風邪をこじらせた。
営業として毎週出張にでている私からしてみればあまりにも致命的だった。
看病をしてくれる人もおらず、会社では「体調管理ぐらいできないのか。」とお叱りを受ける。
俺は病人だぞ。なんなんだこいつらは、俺は売り上げを出すために働いているんだぞ。
心の内では強がってみるものの、私はいつもどおり「すみません・・・。」と平謝りを繰り返すのだ。
イラつきながらも
毎度のように残業をして、閉店前のスーパーへ行く。
風邪だし、食欲はない。そうも言ってられない。明日もまた平謝りを繰り返すのだ。
私は水炊き鍋を作ろうと野菜を買い漁り、
キノコ ネギ ニンジン ハクサイ、トーフやシラタキ
適当に煮詰めて食ってしまおうという、いわゆる手抜きだ。
どうせ、私一人しか食わない。あたため直せばまた食える。うどんもいれてしまおう。
会計をすませ自宅へ戻る。
家に付くと全裸になる癖があった。
開放感というやつだ。
そして買ってきたものはとりあえず玄関先に置き、冷蔵庫のビールに手を伸ばすのが習慣であった。
正直お酒には耐性がなく缶ビール一杯でも足元がふらついてしまう。
それすらも快楽の一つだった。
気持ちがよくなると、すかさず買ってきた野菜たちを鍋に放り込み煮込む。
出来上がるのを待ちながらまた一杯の缶ビールを開ける。
風邪でだるかった体もフワフワしてよくわからなくなっていた。
そんななかふとインターネットをいじりつつ、
「風邪 早く治したい」
と、心の本音をいつの間にか検索ワードに入力し検索していた。
すると
「ネギを首に巻くのが効果的です!」
「ショウガはのどに効きますよ!」
などと民間療法があげられていた。
迷信じみていたことは割と嫌いな性分で、都会育ちの私からしてみれば
「おばあちゃんの知恵袋」めいたことは一切興味がなかった。
ただ、なぜか酒気を帯び正気とは言えない今の自分ではいろいろ試したみたかった。
台所に戻り、野菜をあさる。
今日買ってきたものはほとんど鍋の中にいれてしまったので冷蔵庫をみた。
なかにはビール。ただビール。それだけである。
溜息をつきつつも冷凍庫を開けると、寿命を切らし化石化しつつある野菜などが放り込まれていた。
なぜか物を捨てる。という行為に罪悪感がある私としてはゴミ箱ではなく冷凍庫に入れる癖があった。
自分でもわからない。
その中にひときわ目立つのが完全に氷漬けとなった一本のネギだ。
しまった・・・冷凍ものがあるのなら今日買わなくてよかったなぁと後悔。
ただ私は別の考えも浮かんでいた。
「ネギを首に巻くと風邪が治る!」という先ほどネットでみた民間療法である。
あいにく、ここまで氷漬けだと首に巻くなんてできやしないだろう。
そう思いまた冷凍庫に戻そうとするが、
今の自分が全裸であるという事を思い出す。
ネギを巻くだけで効能があるのなら、直接体内に突っ込めば効くんじゃないか。
なぜこの発想に至ったかはわからない。
キンキンに冷えたネギ
初夏で火照った体。
私は自分の尻の穴へネギを突っ込んでみせた。
「ンンンンアアァアアアアアーッ!」
情けない叫び声をあげてしまった。
鍋がぐつぐつの煮えたぎる音に一抹の絶叫がとどろく。
あまりの冷たさに驚いたのか。
ネギという物体が尻の穴にあるという事実。
私は冷静さを失った。
「ンンアーッ!」
ただ私は手を止めることはなく、もう少し、もう少しだけ!とネギを奥に、さらに奥へとねじ込む。
不思議だ。快感なのである。止められない。最高に気分が晴れていく。
いつのまにか私は膝に力が入らず台所で横たわり、ネギをケツにねじ込む。という
今開発された民間療法を試みている。
台所の冷たい床、全裸で寝転がればそうもなろう。
しかしそれよりもさらに冷え切ったネギ。実に単純。爽快感。
私はこの快楽を知ってしまった以上はもう風邪どころではない。
気分的なものなのだろうが、酔いと微熱からきていた頭の曇りも冴えわたり晴天になっている。
空を飛ぶ鳥のようなイメージ。はばたく様を私は「ケツにさしたネギ」で操縦する。
「アッツゥゥゥ!!」
しかし一瞬にして大地に叩き付けられてしまった。
鍋を煮込んでいたのを忘れて、ゆであがり沸騰した鍋汁が私のふとももに滴となって落ちた。
すかさず火を止め、ケツのネギを抜き、正気を取り戻し、なんとなく手を洗った。
理性を取り戻したのか、箪笥からTシャツと下着、ハーフパンツをだし装備した。
アツアツの鍋を食卓へ運びまた一つ缶ビールを開け一息つく。
何もなかったのように、私はただ鍋をつついた。