第23話:フェリー殺人事件 前編
京一と聡美はフェリーに乗船していた。これから北海道に向かう途中である。
「うー……気持ち悪い」
京一は船酔いをしていた。
「大丈夫? 吐かないでね」
「そこまでじゃないけど」
酔い止めもらってくる──京一はそう言って客室から廊下へ出る。
「きゃああああ!」
突如聞こえる悲鳴。
聡美が部屋から出て来る。
「今、悲鳴のようなのが聞こえたけど」
「行ってみるか」
京一と聡美は悲鳴の元へ駆け付けた。
二人が辿り着いたのは、女性用トイレで、個室の中で女性が亡くなっていた。
京一は発見者と思しき女性に警察手帳を見せた。
「警察です。少しお話を」
だが女性は気が動転しているのか、京一には気付いていなかった。
「聡美、船員呼んできて」
「わかったわ」
聡美は船員を呼びに向かった。
京一は遺体を調べる。
首に索条痕があることから、縊死だと考えられる。
凶器は犯人が持ち去ったのか、現場には見当たらない。
「京一さん、船員さんたち連れてきたよ!」
京一が廊下に出て船員に手帳を見せた。
「こういう者ですが、乗客の一人がお亡くなりになられました」
「え?」
「殺人事件だと考えられます」
「そんな!」
「それで、船長さんは?」
「私です」
年配の男性が名乗り出る。
「では、貴方には捜査の指揮をお願いします」
「分かりました」
「京一さん、どうして民間人に捜査の指揮を?」
「客船などの大型船の船長には司法警察権があるんだ。拳銃は持てないけどね」
「そうなんだ」
「では、船員は乗客から聞き込みをしてくれ」
船員は、了解、と答えて散らばっていく。
「京一さん、私たちは?」
「現場検証かな」
京一はトイレの中へ入って行く。聡美も後に続いた。
「遺体はさっきちらっと見たんだけど、扼殺っぽいね」
「凶器は持ち去ったのかしら?」
「ここには見当たらないからね。持ち去ったかも。それかもしくはあの窓から……」
京一は窓を調べるが、固定されているのか、開くことはなかった。
「さて……」
二人は廊下に戻る。
「すみません」
京一は発見者の女性に声をかけた。
「はい?」
「気分は落ち着かれました?」
「ええ、まあ……」
京一は発見者の女性に警察手帳を見せる。
「警察です。少々ご協力下さい」
「はい」
「遺体を発見したとき何か気付きませんでした? 例えば、トイレから走って出ていった人がいたとか」
「いえ、特には……」
「そうですか」
「すみません……」
「京一さん」
「何?」
「ところで、気持ち悪いの治ったの?」
「酔いなんて事件で覚めたよ」
「そっか」
「あなたの名前、伺ってもいいですか?」
「水澄 京香です」
「また話を聞くこともあるかも知れないので部屋を教えていただけますか?」
「一一〇五です」
「ありがとうございます」
「刑事さん」
船長が声をかける。
「遺体はどうすればいいでしょうか? 何分、船内で殺人に遭遇するのは初めてなもので……」
「取り敢えず、救護室に保管しましょう」
「分かりました」
京一たちは遺体を救護室に運び込んだ。
遺留品の中から遺体の身元が判った。
木崎 紀子、二十五歳。職業は不明。死亡推定時刻は発見者の悲鳴が聞こえたころだ。殺されて間もない。
遺体の首筋にはスタンガンの痕がある。スタンガンで気絶させられて首を紐のようなもので絞められて死に至ったと推測する京一。




