第22話:ストーカー
その日、非番の京一は聡美に呼ばれ、黒川探偵事務所にやってきた。
「京一さん、いらっしゃい。待ってたわ」
「何の用なんだ?」
「今関わってる案件で失踪した人物がいてね、何か事件に巻き込まれてないか確認したいのよ。名前は佐藤 孝三郎よ」
「佐藤 孝三郎? どこかで聞いたような……あ!」
一昨日、所轄管内で他殺体で発見された人物だ!──と、思い出す京一。
「被害者になってたのね。各地を回って捜索したけど見付からなかったのよ」
「その事件、私たちで調べない?」
「でも、あの事件は所轄が犯人逮捕したって情報が入ってるけど?」
「その犯人って?」
「被害者孝三郎の妻だって」
「自分で殺して捜索を依頼するかしら?」
「分かった。調べよう」
聡美は京一と一緒に事務所を出て事件を解決した所轄署を訪ねた。
「その事件はもう解決したんだがね」
職員が嫌々と捜査資料を用意する。
「拝見を」
二人は捜査資料を開いて読む。
事件が発生したのは昨夜の十一時ごろ。第一発見者の通報で署員が駆け付け、遺体を調べたところ死後一週間が経っており、死因は腹部を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死であることが判っている。
発見場所はあまり人が通らない殺風景な場所のためか、発見が遅れたと思われている。
捜査の結果、被害者は二歳上の妻に殺害されたということで、所轄署は妻を殺人と死体遺棄で通常逮捕した。
妻は取り調べで犯行を認めており、検察に送検されている。
「行ってみるか」
京一と聡美は妻が拘留されている拘置所を訪れた。
窓越しに被害者の妻が言う。
「私じゃないんです。取り調べで認めたのは刑事さんが怖かったからです。お願いです。私をここから出して下さい。どうか真犯人を見付けて下さい」
涙を落とす被害者の妻。
京一と聡美は拘置所を出た。
「全面否認か」
「やっぱり真犯人がいるのよ」
「孝三郎の仕事って何?」
「東都新聞の記者」
二人は東都新聞を訪ねた。
「驚きましたよ。まさか佐藤さんが殺されるなんて」
そう言うのは佐藤の上司の皆川 健介だ。役職は編集長。
「彼に恨みを持つ人物に心当たりはありますか?」
「いや、分からないですね」
あ!──と、皆川が何かを思い出す。
「そう言えば、佐藤さんに言い寄ってた女性がいました。名前までは分かりませんが」
「言い寄ってた女性? それはつまりストーカーというものでしょうか」
「多分そうだと思いますよ。家まで押し掛けて来たそうです」
「そうですか。では、また」
京一と聡美は新聞社を出た。
「所轄はストーカーを見落としてたのね」
「ああ」
二人は拘置所に戻った。
「こうちゃんに言い寄ってた女性ですか?……もしかすると、北村 佳子のことだと思います。家にまで来てこうちゃんと別れろってしつこくてしつこくて」
「ご主人は警察には相談されたのでしょうか?」
「行動がエスカレートして殺されたくないからしてないって言ってました」
「そうですか」
「で、その北村 佳子がこうちゃんを殺したんですか?」
「それはこれから調べます。では」
二人は拘置所を後に、北村の家を訪れた。
京一がインターホンを鳴らすと、お世辞にも綺麗とは言えないほどの女性が出て来た。
京一が警察手帳を見せる。
「北村 佳子さんですね? 警視庁捜査一課の高岩です」
「私立探偵の黒川です」
「警察が何の用よ?」
「貴方、佐藤 孝三郎をストーキングしていたそうですね」
「待って。私は殺してないわよ。付きまといも何かの誤解だわ」
「まだストーカーのことしか聞いてませんが……殺したんですか?」
「だから殺してないって」
「そうですか。ストーカーに関して証言してる方がいるのですが、佐藤さんへの付きまとい行為、間違いありませんね?」
「私はやってないわよ!」
「嘘吐くな! 殺されたなんて一言も言ってないのに何で分かったんだ? あんたが殺したからだろ?」
「……………………」
「北村 佳子さん、貴方を佐藤 孝三郎殺害容疑で署まで同行させます」
「……任意、だよね?」
「同行してもらいます」
「嫌だ。任意なんでしょ? だったら拒否するわ。連れて行きたければ令状を持ってくることね」
「分かりました。ではそうします」
「無理だと思うけど」
京一は聡美と別れて警視庁へ向かった。
捜査一課で京一が課長に事情を説明すると、直ぐに令状が申請され、京一の手元に届いた。そして、そのまま北村宅へ移動した。
「お望み通り逮捕状を持ってきたぞ」
京一は北村に手錠をはめ、彼女を警視庁に連行した。
その後の捜査で北村の自宅から佐藤を殺した血塗れ凶器が発見された。それが決め手となり、北村は拘留された。
そして、佐藤の妻は誤認逮捕という形で釈放されたという。




