第19話:誰でもよかった
非番。
京一は黒川探偵事務所でソファに座って寛いでいた。
扉が開き、女性が入ってくる。
椅子に座っている聡美が口を開く。
「ようこそ、黒川探偵事務所へ。ご用件を伺いましょう」
「この男を捜してちょうだい」
女性は一枚の写真を机に置いた。
聡美は写真の男を見る。
「この方は?」
「猫田 哲郎よ。私の夫で、先日行方不明になってしまって……」
「警察には出しましたか?」
京一が訊ねる。
「貴方は?」
「探偵さんの助手です」
「どうなんですか?」
「失踪届けは出したけど、事件性がなく動いてくれないのよ」
「そうですか」
「お願い、捜してくれない? お金なら幾らでも用意するわ」
「分かりました。では、調査に入らせていただきます。料金は後日請求させていただきますので、こちらに必要事項を記入して下さい」
聡美はそう言って、猫田に書類を渡した。
猫田は書類に名前、住所、その他を書いて聡美に返却する。
「猫田 裕美さんですね」
「じゃあ、よろしくね」
猫田はそう言って事務所を後にした。
「最後までため口だったな、あいつ」
「いいですよ、気にしてないですし」
「んじゃ、帰るわ」
「手伝ってくれないの?」
「非番の日くらいのんびりさせてくれ」
「のんびりしたいならなぜ事務所へ」
「君に会いたかったからだよ」
「姉さんにそっくりだから?」
「さーてと」
京一は事務所を出て行った。
聡美も後を追うように事務所を出た。
京一はもういない。
「速いわね」
聡美は事務所の扉に施錠した。
そして、猫田の自宅周辺に赴き、聞き込みを開始した。
それから小一時間が経過したころ、哲郎が行方不明になる前日の夜に、猫田夫人と口論になっている姿を見たという目撃情報が入った。
聡美は京一に電話で連絡を取った。
事情を話し、京一と合流して猫田家へ向かう。
ピンポン──インターホンを鳴らす聡美。
扉が開き、中から裕美が出て来る。
「夫が見付かったの?」
「いいえ。ただ、行方不明になる前日に貴方と口論している姿が目撃されてるんです」
「まさか、私が殺して山中に埋めたとでも!?」
「山中なんですか?」
「え? あ、いや……」
「怪しいですね」
その時、京一の携帯が鳴った。
その電話で、高尾山の山中で哲郎の遺体が発見されたことと、現場周辺の防犯カメラに裕美の車が映っていたことが判明した。
「高尾山に一体何の用が?」
「くっ……」
「哲郎さんを殺害しましたね?」
その場に崩れる裕美。
「殺害しておいて、なぜ捜索を依頼したんですか?」
「探偵や警察がどれだけ優秀か知りたかったのよ」
「殺害の動機は何ですか?」
「ないわ。誰でもよかったのよ。たまたま側に夫がいただけ」
「バカヤロー!」
京一は裕美の胸ぐらを掴み、その体を持ち上げて顔面を殴りつけた。
「猫田 裕美、夫殺害容疑で逮捕する!」
京一は裕美に手錠をかけて警視庁へ連行した。




