第13話:ハンバーグ屋殺人事件
夏のある日。
京一は聡子を連れて沖縄の那覇にやって来た。
「暑いな、沖縄」
「そうだね」
「取り敢えず昼食でも取るか」
京一と聡子はレストランを探すため歩き出した。
空港を離れること数分、Small boyというレストランを見付けた。
中に入る二人。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「はい、二名」
「お席はご自由となってますので、注文がお決まりましたらボタンでお呼び下さい」
京一と聡子が空席を選んでそこへ座る。
メニューを開く二人。
「私これ」
聡子が指差したのは、照焼ハンバーグだった。
「俺もそれにするわ」
京一はボタンを押して店員を呼び注文をした。
「照焼ハンバーグがお二つ。以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「畏まりました」
店員は歩き去る。
やがて二人の食事が届き、食べ始めようとした刹那、京一の右にいる男性がすっくと立ち上がり、首に手をあてがって苦しそうにし、直ぐに倒れて意識を失った。
「きゃああああ……!」
悲鳴を上げる連れの女。
京一は直ぐさま男性の首に手をあてて脈を測った。しかし、男性は既に事切れていた。
口元からはアーモンド臭がする。青酸系の毒物のようだ。
そこへ騒ぎを聞き付けた店員や野次馬たちがやってくる。
「お客様、どうなされました?」
「店員さん、警察を呼んで下さい」
「もしかしてお亡くなりに?」
「早く!」
「は、はい──っ!!」
店員が一一〇番通報をするために走り去る。
「皆さん、警察が来るまでこの店から出ないで下さい! これは殺人事件です!」
野次馬たちが、がやがや騒ぎだす。
京一は男性の連れの女に声をかける。
「お嬢さん、貴方はこの方とはどういうご関係で?」
「彼氏です」
「彼のお名前は?」
「三井 武彦です。まさか、武彦が毒殺されるなんて……」
「貴方のお名前は?」
「呉 應善。中国人です」
「呉さんですか」
そこへ沖縄県警那覇警察署の捜査員が野次馬の間を縫ってやってくる。
「那覇署の者だが」
捜査員の一人が警察手帳を見せる。
安川 啓介と書かれている。階級は警部補だ。
「刑事さん一人?」
京一の問いに安川は答えた。
「手の空いているのが私しかいなかったもので……。それより、遺体には触れてませんでしょうな?」
「脈を測るために触りました」
「それは別に咎めたりはしませんよ」
「あ、刑事さん」
「何ですか?」
「ちょっと来ていただけます?」
京一は安川を男子トイレに連れ込んだ。
「俺、こういう者なんだけど、捜査に協力させて下さい」
京一は安川に警察手帳を見せた。
「本庁の方でしたか」
「戻りましょう」
京一と安川は戻った。
「呉さん、貴方と被害者の間にトラブルはございませんでしたか?」
「いいえ……」
「では、三井さんに何か変わったこととかは?」
「そう言えば、何日か前にもうすぐ大金が入るって言てました」
「その大金の出所に心当たりは?」
「分かりません」
「この店に三井さんにお知り合いはいますか?」
「厨房に小島 康弘さんて方がいると思います」
「そうですか」
安川警部補──と、京一。「僕、厨房行って話聞いて来ますんで、客の中に容疑者がいないかチェックしてもらえます?」
「分かりました」
京一は厨房へ移動した。
「すみません、警視庁の者です。こちらに小島 康弘さんと言う方はいらっしゃいませんか?」
「ああ、あいつなら辞めたよ」
「辞めた?」
「昨日辞めました」
「そうですか……」
(小島はシロだな)
「失礼しました」
京一は被害者の所へ戻った。
「安川さん、見付かりましたか?」
「いや、容疑者は一人も……」
「呉さん、貴方の携帯を貸して下さい」
「いいですけど……」
京一は呉から携帯を借り、メールの内容を見た。
送受信履歴に怪しいものはない。
京一は受信したメールのヘッダを見るため、メールサーバへ接続した。
「携帯の契約時の暗証番号を教えていただけませんか?」
「一五二三です」
京一は暗証番号を入力してメールヘッダを確認した。
すると、一週間前の日付で、「別れよう」と書かれたメールのヘッダを見付けた。
「呉さん、三井さんを殺害したのは、貴方ですね?」
「な、何を言てるんですか!?」
「メールサーバにはね、メールヘッダというのが受信時に残りましてね、それを確認していたら、こんなメールを見付けたんですよ」
京一は例のヘッダを見せた。
「殺害の動機は別れ話です。別れ話を持ちかけた貴方は、毒薬を仕入れ、今日ここで話をして復縁が望めなかったために、その毒で殺害した……間違ってる所があれば訂正して下さい」
「……………………」
「何も言わないということは、お認めになるという事ですか?」
「请稍等! 为什么我必须杀?」
「殺したのは、貴方です」
「有我准备了氰化钾的证明吗?」
「おやおや。青酸カリだとよくお分かりになりましたね」
「あ……」
「安川さん、現逮」
安川が呉に手錠をはめ、連行した。