プロローグ
おはよう諸君。
私の名前はエリナ・シュライド。
フランスの中堅貴族「シュライド家」の長女である。
―――――チュンチュンッ
季節は春。
桜がはらはらと散る並木通りに、小鳥のさえずる声が聞こえる。
……私は今、四条学園高校に登校中だ。
ぴちぴちの16歳、今から輝かしい青春がはじまる。
「……フッ」
いきなりでアレだが私、エリナ・シュライドは完璧に近い存在だと思う。
学園の成績を首席で突破し、得意の剣術ではフランス代表になった。
容姿にも自信がある。
今まで告白された回数は数えていないが、ざっと三桁は超える。
ダークシルバーの長髪はあまり手入れしておらず、化粧は面倒なのでしていないのだが……
きっと私の容姿は異性を魅了するに十分な力があるのだろう。
「……フフッ」
体付きにも自信がある。
食事の栄養分は全て胸と尻に回っていている。
中学時代は剣術の修練に明け暮れていたため、出るところは出た体つきになった。
「……フハハッ」
入学前から勝っている。
何に? 学園中の女狐どもにだよ!
文武両道・才色兼備のこの私が、島国の田舎娘どもに負けるはずが無い。
……クックックッ、私に嫉妬するがいい。
惨めに陰口を叩き、悔しそうハンカチを噛みしめるといい。
それが私にとっての愉悦なのだ!
わーっはっはっはっは!!
「ねぇねぇお母さん、あの人笑ってるよ?」
「見ちゃだめよ!」
……こほん。
感情が昂ぶり過ぎた。
いや、四条学園に入学できた事がそれほど嬉しいんだ。
過保護な両親の反対を振り切って入学してきたからな。
「……ふぅ」
私が入学した四条学園は「特別な生徒」を育てる学校だ。
入学前にある検査を行い、適正があるか判断する。
もし適正があった場合、学園への入学が許可される。
その適正とは……
―――――ギャオオオオン!!
頭上を5mほどの巨大生物が通過する。
トカゲのような顔、鋭利な爪と牙、屈強な肉体。
雄々しく咆哮したそれは、春の青空に飛びあがる。
…………龍だ。
「……ッ」
私は生唾を飲み込む。
……龍
遥か昔から世界の頂点に君臨する、最強の生物。
「生で見るのは初めてだ……」
野性のドラゴンなら報道で何度も見た。
しかし、教育されたドラゴンは初めて見る。
「……」
刻は2013年。
ドラゴンは近代世界でも、食物連鎖の頂点に立っていた。
つまり、私たち人間よりも上位の存在である。
それはライオンとかクマとか、そんな柔なものじゃない。
絶対的捕食者。
どんなに人類が進歩しようとも、彼らには勝てない。
岩を豆腐のように切り裂く爪牙、砲弾を弾き返す強靭な肉体。
コンピューターなみに高度な頭脳。
……もう一度言おう、人類は勝てない。
いかに知恵を振り絞ろうとも、武力をもって抗おうとも。
勝てないのだ。
超常現象を、自然の驚異を体現した彼らに。
彼らからすれば、ライオンもクマも子犬同然だろう。
それより弱い人間は、群がる蟻程度の認識か?
……この世界、人類はドラゴンよりも下等な生物なのだ。
「……クククッ」
しかし、例外はある。
極稀に、あのドラゴンを使役できる人間がいる。
犯罪者を駆逐し、野性のドラゴンたちと戦う。
人類にとってある意味、英雄のような存在。
「竜騎士」
人々は敬意を払いそう呼ぶ。
ドラゴンを使役し、自らも戦場に立つ彼らのことを。
……そして、私がこれから通う四条学園。
この学園こそ、竜騎士を育成する学校。
四条学園は世界に四つしかない竜騎士育成機関の1つなのだ。
「……ふむ」
ドラゴンの研究の最先端を走っているのはここ、日本だ。
太古の昔より、日本はドラゴンと友好な関係を築いてきた。
それは今も変わらず、ドラゴンに関しては日本に勝てる国は存在しない。
大昔は海を渡って侵略してきたドラゴンたちを協力して退かせたという逸話もある。
…………私は、この逸話が大好きだ。
いや、ここに出てくる剣士が好きなんだ。
日本の剣士「侍」
私はこのサムライが大好きだ。
ひとたび戦場になれば、ドラゴンにも引けをとらない獅子奮迅の活躍を見せる剣の鬼たち。
「……ッ」
私は彼らに憧れた。
サムライのような剣士になりたかったから、幼少の頃は剣術に明け暮れていた。
武士道についても色々勉強した。(……あまり理解できなかったが)
そんな私が竜騎士育成機関である四条学園に入学したいと思ったのは、
ある意味当然だったのかもしれない。
しかし、両親は反対した。
長男(でくの坊)がいるので家は大丈夫なのだが……
両親はただ単純に、私が心配だったみたいで……
両親が心配した理由は単純だ。
竜騎士育成機関(通称D・S)は、四つとも日本にある。
もしもの事があれば、フランスからじゃ駆けつけられない。
過保護な両親は四条学園の入学を……いや、日本に行くことを潔しとしなかった。
しか~し、数ヶ月に渡る熱烈な交渉の末に両親は入学を許可してくださった。
フッ、その日の夜は嬉しすぎて眠れなかったよ。
「……」
そうして今の私はここにいる。
四条学園は男女共学、創立は5年目。
生徒数は3000人を超えるマンモス高だ。
男女の割合は4:6、女のほうが多め。
創立して間もないため、施設は新品かつ充実している。
校舎は3つ、それぞれに食堂や図書館などの設備が完備されている。
教室は冷房暖房完備、教員も超一流の者たちを揃えている。
体育館は4個、プールは5個、グラウンドは2つ。
サッカー場と野球場は個別に1個ずつある。
あとは……
「…………はぁ」
やめよう。
言い始めたらキリがない。
まぁ、四条学園がそれほど大きい学園だと理解していただければ嬉しい。
「……おお!」
ふと顔を上げると、大きな大きな校舎が目に入った。
ホワイトハウスのような校舎は、四条学園のほんの一部分なのだろう。
上層部しか見えないが、かなりの大きさだった。
……あれが四条学園かッ
「……よし!」
私が竜騎士育成機関(四条学園)に入った目的。
それは侍のような立派な剣士になることだ。
そしてあわよくば、可愛いドラゴンともふもふムフフな展開に………
うむ、うむ! 非常に楽しみだ!!
「よ~し!!」
私は大きな期待を胸に、桜並木の道を走る。
……この後、人生の転機になる事態が起こるとも知らずに。
エリナ・シュライド
本作の主人公、容姿端麗文武両道だが中身が残念すぎる16歳。
日本のサムライに憧れて、四条学園に入学した。
おはこんにちわ、テンちゃんと申します。
作家初心者、緊張します。
この世界は現代世界+ドラゴンという学園ファンタジー……なのかな?
設定はややこいと思います(作者本人談)
だからゆっくりと、丁寧に仕上げたいと思います。
今日の単語は竜騎士と龍
竜騎士の育成機関、四条学園と学園都市。
少し頭に入れてもらえれば、嬉しいです。