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{3}



ひとりぼっちって、結構辛い。

しかもそれでクリスマスを過ごすっていうのは、もっと辛い。


なんだか知らないけれど、いつにもまして今日はよく話しかけられる。

そう思いながら周りを見渡すと、さっきのお姉さんも、カイロをくれたおばあちゃんもいなくなっていた。


それにしても、さっきのお姉さんがとってもうらやましかった。

あれほどの恋愛を、私はまだ経験していない。


お兄ちゃん、はやく迎えに来てくれないかなぁ……。

せっかく、家族ぶんのケーキを買ってきたのに。早くお祝いして、食べたいのにさ。


カップルや家族連れが急ぐ、街の喧騒の中で、ぼーっとする。

意外と、新鮮な体験だ。


だから、その少年を見つけるのは必然のことだったかもしれない。


通りを挟んで、彼はこちらのツリーの灯りを眺めていた。

服装や容姿は、とくに珍しいものでもなかった。

でも、人混みの中で立ち止まって、同年代くらいの少年は、ただツリーを見上げていた。


しばらくして、ふと少年は目をそらして……。

ばっちり、私と視線が合う。


「っ!?」


急激に恥ずかしくなって、私はすぐに下を向いた。

なんで私はずっと彼のほうを見ていたんだろう。

気付かれたかもしれない。とりあえず、ものすごく恥ずかしくて、なんともいえない気持ちだ。

おそるおそる彼がいた方向を見ると、もうそこにはいなかった。


「あのー……」


突然横から聞こえた声に、私の心臓は止まりそうになった。

いつのまにか、少年は私のところまで移動していたらしい。


男子への免疫なんてあるわけない私は、とてつもなく困惑する。

よし、ここは。


「な、ナンパですかっ!?」


え、と今度は少年の方がフリーズする。

そして、いやいやと手を振りながら不満と戸惑いを如実に表しつつ、反論してくる。


「あ、あなたがこっちを見てたから、声かけただけじゃないですかっ」

「め、目が合っただけで声かけるんですか!? まったく、これだから男は……」


強気で彼を拒絶してしまう。

しかし彼はまだ怯まない。


「もしかして知り合いとかいたっけな、とかいうんだったらどうするんですか!? まあ、幸いにして違うようですけど」

「そういう手口もあるんですか、勉強になりました」

「冷静に酷いっ! そもそも見ていたのはあなたであって」

「私がっ!? 私はナンパなんてしませんっ」

「まったく、これだから女子は……」


なんか変な空気。

考えても見れば、男子(しかも、全然関係のない初対面の)とケンカするなんて、初めての経験だ。


「……それ、ケーキですか?」


急にトーンも話題も変えられて、驚愕する。


「そ、そうだけど、なにか!?」

「家族のぶんも?」


うぐ、と一呼吸詰まってから、私は、だからなんですかっていうの! と返してしまった。


そこで、彼の表情から怒りのオーラが消えて、複雑な感情がにじみ出ているのに気がついた。


「僕、家族いないんだよね」

「……え?」

「ついでに言うと、兄弟や彼女もいないし」

「…………」


突然、何を言い出すかと思えば。



でも。

私も、同じだから。




――――




私が両親を亡くしたのは、小学校に上がってすぐだった。

すごく悲しかったし、生活もいきなり大変になった。

でも、おじさん夫婦の助けとか、6つ上のお兄ちゃんの頼もしさもあって、なんとかここまで育ててもらった。


だから、今日のケーキは、私と、お兄ちゃんと、おじさん夫婦と、両親(2人で1つってことで我慢してもらうけど)の3つ。

ささやかなクリスマスパーティー、そしてお兄ちゃんの少し早い成人祝いでも開こうということになったのだ。




――――




ここまで話し終えると、なぜか彼は慌てている。


「ちょ……ごめん、思い出させちゃった……?」

「……え?」


気がつくと、視界がちょっとだけぼやけていた。


やっぱり、ね。

私だって、寂しいんだよ?


「僕も……寂しいのは、一人だけじゃないから」


え……っ?

まさか、ここまで心を読まれていたとは。


でも、そういう彼は、今は優しい表情をしていた。

それもまた、私の頬を紅く染める原因。


さっきの憎たらしい少年とは、違う。

今はとても優しくて、暖かい。


ふと、向こうからお迎えに来たお兄ちゃんの車が見えてきた。


「ねぇ」


私は思わず、初めてだけど、彼に声をかけていた。


「今日、私の家に来ない?」

「……?」

「クリスマスパーティー、やるんだけど」


そりゃ、困るのも当たり前だ。

赤の他人、それもさっきまで口論していた関係だ。


でも、今は、なぜかとても身近な存在に思えていた。


――お父さん、お母さん。

今年のケーキは、悪いけど我慢してね。


キョトンとしている彼の服を、引っ張った。




こんな出会いが、あってもいいよね?









――――――――









聖夜の下。


雪のちらつく寒さは、様々なドラマを持つ人々を導き、結びつける。



クリスマスツリーのあなたのもとに、

サンタクロースは、どんな贈り物をくれるのだろうか。







Fin。




2011年のクリスマス小説を、私のpixiv・ブログから再編集なく再投稿したものです。なので誤字等そのままかも……

「阪急電車」リスペクトなので相当似ているかもしれませんが←

無事、完結いたしました!3話通して、いかがでしたでしょうか?

さて次回は、4部作の短編集の"あれ"か、もしくははたまた"あれ"なのか。。。

お楽しみに。

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