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今日は、いちだんと寒い。

一人だと、いつもより寒い。





『ごめん、やっぱ遅れるかも』


「ううん、大丈夫。忙しいの、わかってるもん」


『……ごめん』




彼氏からの電話。


やっぱ、来ないのかな……





私は、かれこれ1時間もつっ立っていた。

待ち合わせ場所は、電飾がまばゆい、駅前のおっきなクリスマスツリー。






……24日に、遅刻なんかしちゃうなんて。

こんな大事な日に、お仕事いっぱい入れられたなんて。





身体を温めるためのコーヒーも、もう全部飲んでしまった。


カップルや親子連れが楽しそうに歩く歩道のタイルを、私はぼけーっと見つめていた。








――――







『24日、空いとる?』


『うんっ!』


『どっか、出かけよか』




彼氏は年上の、社会人一年生。

とっても優しいけど、最近はお仕事が忙しいかなんかで、全然会えてなかった。



……だから、ものすごくうれしかったんだ。




『じゃぁ、7時に駅前のツリーの下で、いい?』


『了解。むっちゃ楽しみやわ』


『私もっ』




そういって、めでたく私達はクリスマスイヴにデートすることになったのだった。


『そういえば、24日って雪降るかもしんないんだって』


『ほんまに?』




はしゃぎながら言う私に、大人なあなたは、




『初雪は、絶対二人で見ような』




そう、耳元でささやいた。






――――






一年生、といっても彼は社会人、私は大学生、なワケで。

やっぱ、私以上に綺麗な人もいっぱいいるんだろうなぁ、とか思っちゃうのだ。





『……なに拗ねた顔しとんねん』


『だって、ひろくん、いっつも仕事だもん』





先々月くらいにデートしたとき、ついに不安が口をついて出てしまった。





『職場にも女の人とか、いるんでしょ?』


『なんや、そんなことか』


『だってぇ……』





愛するってことは、相手を信じるってこと。

そんなの、百も承知なのだ。





……でも。


ひろくんは、そこまで言って、突然私を抱きしめた。






『……?』


『あほ。お前やなかったら、喋ったり、抱きしめたり、せぇへん』





私の不安を溶かすような、甘いセリフ。


そっぽを向きながら言うあなたは、とても魅力的だった。







――――




私の隣には、同じく寒そうにつっ立っている少女がいた。


ちらっと見ると、彼女もこちらを遠慮深げに窺ってきた。


ちゃんと私を捉えた少女の瞳は、この上ないくらいに澄んでいて、とても綺麗で素直だった。




「お姉さんも、だれか待ってるんですか?」




纏っている雰囲気と同様、綺麗な声が聞こえてきた。




「うん、まあ」


「……彼氏さんですか?」


「……まあね」




またもや、しかし今度は多少いたずらっぽさも含んだ瞳で、そう彼女は言った。




絶対に、彼は来る。

そう、素直に信じてみようと思った。




少女は、今度は隣にいたおばあちゃんと会話を始める。

街は恋人と忙しいカップルばかりなのに、このツリーの下にいる人はなぜか、みんな暇人だ。





「あ」

「あ」






目の前を、白いものが落ちていった。



今年はホワイトクリスマスかぁ……。



そう思いながら、まわりを見わたす。

体がだんだんと冷えてきて、これから盛り上がるはずの気分も相変わらず低空飛行。





……二人で見るはずだった、天からの贈り物。







「~♪~♪」



突然、お気に入りの着メロが鳴りはじめた。





『俺やけど』


「やけど、じゃないっ」




えらくのんびりした、でも大好きな声が耳元で響く。





「いまどこよぉっ」


『ごめんな、雪降っとるところに一人でいさせて。寒かったやろ』


「え……?」





そう言ったか言わないうちに、私の身体は急にだれかによってぎゅうっと包まれた。







「ごめん、遅なった」


「……っ」





聞き間違えることなんて絶対ない、この声。

誰よりも愛しい、いつも私を暖かく包み込んでくれる身体。





「大丈夫。雪、ちゃあんと一緒に見とったで」


「……ばか」






そういって、何も言わずに、どんどんぎゅう、の力が強まっていく。












「そんな寂しかったん?」


「だって……ひろくん来ないかと思ったもん」






ごめんごめん、と彼は困ったような笑顔を浮かべる。

彼から離れた私が、黙ってまた俯いていると、





「そんなふうにしとったら……キスすんで」


「っ!?」





思わず前を向くと、七色に輝くツリーを仰ぎ見るひろくんがいた。





「きれいやなあ」





……そう言うけどね、ひろくん。


あなたの頬が、ちょっとだけいつもより紅いのは、この寒さのせいなのかな?






私は、ひろくんのこと、愛してる。

だから、あなたの気持ち、信じるよ?





「はやく、ケーキ食べに行こ?」



そう言ってやると、振り返ったあなた。


身長の差なんか、私が背伸びで埋めてやる。










私は彼に、不意打ちのように、口づけをした。







1・Fin






はい、今回からは3話短編のクリスマス小説です。

いかがでしたでしょうか?

2011年のクリスマス小説を、私のpixiv・ブログから再編集なく再投稿したものです。なので誤字等そのままかも……

「阪急電車」リスペクトなので相当似ているかもしれませんが←

2話ほど続きますので、これからもお付き合いくださいませ。

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