髪に触れれば、君が自分に気が付いた
海ちゃん視点。短か目です。
お題は【Abandon】様よりお借りしております。
愛したい10のお題
http://haruka.saiin.net/~title/0/
思わず、触れていたんだ、君の髪に。
「ん・・・・・。あ、海ちゃん?」
「おはよう、薔子。」
「おはよう、おはようって、え、あ、あ!!」
「そうです、お休みでした、もう長いこと。」
「ご、ごめんなさい・・・・・。」
無理やり休みを合わせて、軽井沢に向かうことにしたのは、
最近ゆっくり会っていなかったからだ。
薔子も僕もなぜか仕事が立て込んで、会う約束の日に会えないばかりか、
前はなんとなくお互い絶妙なタイミングでお互いの家に行っていて、
それで会えたりしていたのが、全く会えないことが続いた。
医者と監察医の仕事が立て込むのって、あまりめでたいことではないので、
商売繁盛で喜ぶわけにもいかないし、多分。
「これはいけないと思うのよ。」
という、よくわからない薔子の一言で、ちょっとした旅行が決まった。
どうせまた、真理さんか隆之に何か言われたに違いない。
とはいえ、僕もゆっくり君の事を独り占めできる時間は、大歓迎だから。
場所は前から薔子が行きたいと言っていた軽井沢のホテルになった。
そこで二泊三日、だらだらしようというコンセプトだ。
どこに行くか、何をするかは何も決めずに。
以前こんな旅行をしたときは、お互いはまっていた小説に夢中で、
バカみたいに本を読みふけっていたっけ。
軽井沢へ向かう新幹線の中、ずっと話していたのに、いつの間にか隣の君が眠っていた。
今朝まで働いていたことを知っているから、僕はそっと起こさないようにしようと思う。
上着をかけて、窓の外を見ると、雪がちらほらしている。
右肩に君の重さを感じながら、本の続きを読むとしようか・・・。
あと10分くらいで軽井沢に着く、という頃になっても、
薔子は一向に起きる気配がない。
そっと君の髪に触れる。
はじめて会ったとき、ショートカットだったのに、今はこんなに長い。
「なんとなく切って、なんとなく伸ばしているだけ。
切るのにも伸ばすのにも、理由はないのよ。
だから、またそのうち、ばっさり切っちゃうかもね。」
僕はショートカットの君も、長い髪の君も両方大好きだけど。
いつでも、君の髪に触れられるところにいられますように。
そう願ってしまう自分がいるんだ、たまにね。
髪に触れた気配で起きてしまった君は、
新幹線の中でほったらかしだった僕にひたすら謝る。
「もう、なんでそんなににこにこしてるのよっ!」
って、君は言うけど、だって仕方ないだろう?
君のそばにいられる自分が、幸せだから。
でもそういうと君は照れて怒り出すから、内緒にしておくよ。
「ほら、もうすぐ着くよ。」
「話をそらして。いつも海ちゃんはそうなんだか・・・、あ、雪だわ!」
「そう、ずっとちらついていたんだけど。」
「結構本格的に降っているのね、明日の朝は真っ白かしら?」
「帰れなくなるかもしれないよ。」
帰れなくなったら、君ともう一日一緒にいられるのかな。
それはかなり魅力的なシチュエーションだ。
「そのときはそのときだわ。
・・・・・そうしたら。」
「?そうしたら?」
「もっと長く海ちゃんを独り占めできるもの。」
にっこりと笑いながら、そうつぶやく君。
・・・・・完敗です。
ああ、降りなくちゃ、しまっちゃうよ。
全く、心臓に悪いことを、電車を降りるぎりぎりのところで言わないでくれよ。
頼むから。
想定しているお宿は、軽井沢の「星のや」さんです。
ちなみに私は真冬の平日、ピーク時の半額くらいの値段で泊りにいったことがあります。
明け方にお風呂に行ったら、瞑想風呂は薄暗くて、誰もいなくて怖かった。。。
まぁ、明け方に行った私がバカなんですが。
個人的に大々的な贅沢ですが、またダラダラしに行きたいなー。