アダムとイヴの関係について解け
ものすごく久しぶりになりましたが。。。
薔子、落ち込み編です。
外からは自信たっぷりに見える人でも、多分すごく自身がなかったりすることもあるかな、ということで。
職業上の表現部分は、もはやファンタジーに近い、ねつ造です。
なので、「そんなことあるか!」と思わず、「へー」と、流してください。。。
ご都合主義で、よろしく!(笑)
今日はお使いで、海ちゃんの病院にやってきた。
うちのボスには、この病院に大学時代からの友人で、いまだに共同研究を続けている
人がいる。
夕方から明日1日は休みなので、その人へ書類を渡すお使いを買って出たのだ。
「えーと、海ちゃんは、と。」
部屋を出て、海ちゃんに連絡してもらおうと受付に向かう途中。
それは偶然目に入った。
見てしまった。
大急ぎで受付に向かった私は、すでに顔見知りになった受付のおばちゃんに
連絡をお願いしていた。
「すみません、小児科の石浜先生にご連絡していただけますか。
もしお時間があるようでしたら、お目にかかりたい、と。」
行先はもう1か所あるが、今の気分的にはこっちだろう、どう考えても。
「で、どうしたんですか、本当に。」
薫先生の部屋では、いつもインスタントではないちゃんとしたコーヒーが出てくる。
別にそれが目当てで来るわけではないけれど。
「やっぱり先生の淹れてくれるコーヒー、おいしいなぁ。」
そっと渡されたコーヒーを一口飲んで、ふーっと、息を吐く。
石浜薫先生は、海ちゃんと同じ、この病院の小児科の先生だ。
そして、大親友で今は刑事をやっている斉藤隆之の愛する人だ。
薫先生も、隆之の気持ちを受け止めてくれて、今は二人とも幸せそうだ。
ちなみに男性だが、どっちも。
まー、そういうことだ。
「また、榊原先生とけんかしたんですか?」
こちらを心配そうに見ながら先生が言う。
「違いますよ、けんかなんてしてませんよ。ただ・・・、目に入ったから。」
「何が?」
薫先生は小児科の先生だ。
だから、おとなのようにうまく自分の気持ちを伝えられない子供の相手も
たくさんしている。
そのせいだろうか、あまり結論を急がない。
話していても質問はしても追い詰めない。せかさない。
だから薫先生のところは居心地がいい。
そんな気がする。
もう一方の友達、遠藤君の所へ行ってもいいのだけれど、
何となくほっとしたいときは薫先生のところ、
少し馬鹿話をしたいときは遠藤君のところだ。
(ふつうにまじめで割と無口なのだが面白いのだ、遠藤君は。)
「廊下で、海ちゃんが人と話していたんです。」
「そりゃあ、人と話すこともあるでしょう。」
そりゃあそうだ。お医者さんだもん、患者さんと話したり、看護婦さんや
病院の関係者の皆さんとお話しするだろう。
でも、違う。
「きれいな女の人と、話してました。
育ちのよさそうな、淡いピンクのシャネルスーツみたいなの着た人。
黒髪のストレートで、お上品を絵にかいたような、淡いバラみたいな人。」
そうなのだ、また見てしまったのだ。
これで何度目だろう、しかも全部別の女性だが。
みんな一様にお嬢様の雰囲気を醸し出している。
「ああ・・・・・。」
薫先生にも何か思い当ることがあったのだろうか。
そのまま口を閉ざしてしまった。
私の大好きな人は、この病院の外科医だが、
腕もよくて見かけも悪くなくて、性格もいい。
私が言うのもなんだが、なんでこんなにいい人が私の彼氏なのかと、たまに思う。
ノロケではなく、ある種の恐怖感とともに。
そしてそんな人はもちろん上司や教授の覚えもめでたい。
将来有望ってやつだ。
ということは当然、婿候補に挙げられまくるわけで。
お嬢さん方も、いやいや変なやつのところに行くのに比べて、
性格いいし見かけもいいし将来有望とくれば、ほおっておかない。
このチャンスを逃したら、見かけはよくて将来有望だけど、
全く誠実さのかけらもない男と結婚させられるかもしれない現実もあるわけだ。
その点、かなりのお勧め物件というわけで、毎月婚約者候補がひきもきらない。
勝手に見合いさせられてることもある。
もっとも海ちゃん本人は見合いだと気付かず、あとからすごい驚いているのだが。
「いつもね、思うんですよ。」
私は机に突っ伏しながらつぶやく。
「私は海ちゃんといつまで一緒にいられるのかなぁ、って。」
薫先生が、え、とかすかにつぶやくのが聞こえた。
そうか、真理ちゃんにはしょっちゅう言ってるけど、先生には初めてかな?
「だってあんなにいい人が、なんで私と一緒にいるんだろうって思うんです。
だから、いつかお別れして、海ちゃんはもっと素敵な人と一緒に
どこかに行っちゃうのかなぁ、って。
でも、私馬鹿だから、全然そういう心の準備ができなくて、
見かけてはショックでたまらなくなって、バッカスで飲んだくれたり、
家で豪華料理作りまくってやけ食いしたり、いろいろしてるんです。」
「ああ、貴方と初めて会った時も、やけ酒飲んでましたね。」
ちょっと笑って薫先生が言う。
そう、薫先生が隆之に連れられてバッカスという私たちが常連になっているバーに
初めて来たとき、軽く挨拶はした。
だって、隆之が好きな人なんだろう、ってすぐにわかったから。
でも、なんでこんなになついているかというと、
やけ酒を飲んでいるときにやさしくしてもらったからだ。
それは、隆之はまだ告白していなくて、ため息ばかりついて考え事をしていて、
薫先生はバッカスが気に入って、一人でも来たりし始めたころだった。
やっぱり海ちゃんが駐車場のところできれいなお嬢さんと話しているのを見て、
いてもたってもいられなくてダッシュでバッカスに駆け込み、飲んだ。
私はお酒は弱い方ではないと思うが、だいたい仲間たちのだれかと飲むと
必ずつぶされて寝ている。
しかし、ひとりで飲んでいる、もしくは仲間たち以外の人と飲んでいるときは、
決してむちゃな飲み方はしない。
でも、その時は違った。
なぜなら1ヶ月で3人目だったからだ。。。
いずれ劣らずきれいなお上品な女性たちで、育ちのよさそうな高そうなお召し物と
いかにもな立ち居振る舞いに、私はノックアウトされていた。
いやー、なんて私とは大違い。。。
なじみの店という安心感も手伝って、いつもより相当早いスピードで、飲んだ。
私の酒量を把握しているマスターが少し心配し始めたころ、薫先生がやってきた。
すでにご機嫌になっていた私は、早速なれなれしく彼と飲み始め、
すっかり楽しくなって、そしていつの間にか眠ってしまった。
『薔子さん、薔子さん、起きれますか?』
『えっ!』
気が付いたら、そっと薫先生に肩を揺すられていた。
げっ、私、寝ていた??
『具合は悪くありませんか?そろそろ閉店のようなのですが。』
『あっ、だ、大丈夫ですっ。元気です!あ、あの・・・すみません、私。』
なんてことだ、まだ何度かしかあったことない人と飲んでいたのに、
うっかり寝てしまうなんて。
酔いではなくその事実に青ざめながら、ぐるぐると悩みこんで謝ると、
『いえ、大丈夫ですよ。静かに眠っていらっしゃいましたし、
マスターもそのうち起きますよ、とおっしゃっていたので。
かわいらしい寝顔を見ながら、おいしいお酒をいただいてましたから、
役得ですかね。』
そう、にっこり笑ってくれたのだ。
それ以来、何かあった時の避難場所が、一か所増えた。
「そうですねぇ、確かに榊原先生はもてるかもしれませんね。」
にこにこと薫先生は言う。
うう、そうなんだもん、もてるんだもん。
大学時代だって、本人がうっかりだっただけで、かなり周りには海ちゃんを
好きだった子もたくさんいたんだもの。
「でも、だいたいあなたが見かけているのは教授たちのお嬢さんでしょう?
榊原先生は、そういうことでの出世はお望みのようには見えませんし、
毎回しっかりお断りされている様子ですよ。
こんなピラミッドの中で、断っても全く評価が落ちないのはある意味
すごいことですけどね。」
だいたい教授のお嬢さんとの結婚は、出世への近道だ。
それくらいは私にだってわかる。
そして、毎回断っている様子なことも。
「それにね、どんなにあなたが言うところの上品できれいなお嬢さんがいたとしても、
榊原先生にとって、意味のある人は一人だけだと思いますけどね。」
「意味がある?」
どういう意味だろう。海ちゃんにとって意味がある人?
「アダムとイヴはご存知ですよね。アダムは最初の人間、イヴはアダムと共に
暮らすために作られた女性。
まぁ、ジェンダーとかそういう問題はとりあえずおいといて、
アダムとイヴにとって、それぞれ一緒にいるべき相手はお互いしかいなかった。
まぁ、選択の余地はなかったわけです、とりあえずね。
現代、アダムとイヴの末裔たちはこんなにも増えて、相手はたくさんいる。
でも、そんな世の中だとしても、やっぱりアダムにとってイヴは一人なんだと
思いますよ。
一緒にいたいと、いるべきだと思う存在は一人なんですよ。」
まぁ、私たちの場合は、アダムとイヴの関係からちょっと外れてるかもしれませんけど、
本質はおんなじだと思います。
そう言って、また薫先生はニコッと笑う。
「つまり、榊原先生にとって、イヴは一人だけ、貴方だけってことでしょう?
貴方だけが居並ぶ女性たちの中で、榊原先生にとって意味のある存在なんですよ。」
・・・・・絶句した。
本当にそうだろうか。
本当にそうだといい。
だって、私にとっても、居並ぶ男性たちの中で、海ちゃんだけだ。
こんなにそばにいてほしいと思う人は。
女性たちに囲まれているのを見て、離れて行ってしまうことを思い、悲しいと思うのは。
「まずは、率直な気持ちをお話しされてみた方がいいと思いますよ。
榊原先生だって一方的に思われていても、困ってしまうでしょう?
説明する時間をあげるのは必要なことだと思いますよ。
それでももしうまくないのだとしたら、またやけ酒に誘ってください。
いくらでも付き合いますよ。
その間、榊原先生には斉藤さんを派遣しますから。」
今日はそのコーヒーを飲んだら帰りなさい、ね?
そう言って、夕陽を背に、薫先生がまたほほ笑む。
ここに来たときからほとんど笑顔を絶やさない先生だが、
今が一番にっこり笑ってくれた気がする。
私は言葉が出ず、こくんとうなずいてコーヒーを飲みほす。
まるで小さな子供のように、何も言わず。
病院を出たときには、あたりは少し薄暗くなり始めていた。
私は海ちゃんの携帯に電話をかける。
仕事中には出ないはずだから、問題ない。
呼び出し音が数回鳴って、留守番電話に変わる。
心を落ち着け、一気に話す。
「もしもし、薔子です。お仕事お疲れさま。
会いたいです。
バッカスに寄ってから、家に帰ります。」
ここまで言うと、留守番電話は終わってしまった。
いきなりこんなの残っていたら、海ちゃんはどう思うんだろう?
呆れながら、でも、来てくれるんだろうか。
お仕事、早く上がれるといいんだけど。
そう思いながら、私はバッカスに向かって歩き出した。
お題は【Abandon】様よりお借りしております。
愛したい10のお題
http://haruka.saiin.net/~title/0/