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6人の物語  作者: sanana
愛したい10のお題
6/26

一切れの其れを分けて

大変古いアニメに「名犬ジョリィ」と言うのがあって、

内容は全く覚えてませんが、主題歌だけはOPもEDも覚えていたり。

薔子と真理絵のガールズトーク?です。

また飲んでます。


お題は【Abandon】様よりお借りしております。

愛したい10のお題

http://haruka.saiin.net/~title/0/

● 一切れの其れを分けて


 いつもいつもあなたにどきどきしているなんて、

ちょっとかわいらしいことを私が言ったら、変、かしら・・・。

「まぁ、熱があるんじゃないかと思うわね、普通」

「真理ちゃん・・・、いつもながらひどすぎるよ・・・」


 職場近くのレストランで、今日は真理ちゃんと待ち合わせだ。

明日は休み、真理ちゃんも明日は午後から、ということで、

久しぶりに女同士しゃべり倒そう!というのが今夜のテーマ。

真理ちゃんは、大学が一緒、研究室も一緒、もちろん専攻が一緒ってことは

職業も一緒になり・・・、そう、私たち二人は監察医です・・・。

なので、二人で会うときは、絶対に仕事の話は厳禁、と決めています。

別に解剖の話をしながらご飯を食べることは、全く問題ないけれど、

一応秘密保持を定められている職業についている以上、情報漏えいはご法度。

というより、仕事についてはじめて会ったとき、あまりにも仕事の話で盛り上がり、

うるさい居酒屋だったのに、いつの間にか私たちの周りだけ席が空いてしまって、

お店の人に営業妨害だと怒られたからだったり・・・。

やっぱり解剖周りの話をしてしまったのがいけなかった・・・。


「あんたは、どうしてそう学習能力がないのかしら。」

「なによう、それ」

「いいこと?世の中の人が、佐伯薔子に持つ印象その1.

 『派手でおっかね~、ねーちゃんが現れたもんだぜ』」

「ひどいよ、真理ちゃん・・・」

「だって仕方ないじゃない、あんたおとなしくしてても、派手な美人なんだもん。

 よかったわね、バブルの時代だったら、どう考えてもボディコン着ないと

 違う意味で世間が許さなかったと思うわよ。」

「だから、派手な格好なんてちっともしてないじゃない。」

「あんたが着ると、白いシャツでも限りなく色っぽくなるんだから仕方ないじゃない。」

「真理ちゃんの意地悪・・・・・」

「そのくせ一生懸命になればなるほど、感じ悪い女になるからね。」

「そんなことないもん・・・」

「そんなことあります。それがいちいち正論だから、相手はむかつくわけよ。

 よかったわよね、あんたのお相手が市村警部とか、隆之で。」

「市村警部は、一回も私のこと怖いだのなんだの言ったことないわよ!」

「当たり前でしょう、「鬼の市村」がそんなこと言うわけないじゃない。」

「・・・・・ほんとにひどいよ、真理ちゃん・・・・・」

担当所轄の課長さんである市村警部は、それはそれは話のわかる人で、

部下からの信頼も厚く、また、うちの監察医務院のボス、

森山さんと大の仲良しなのだ。

そのおかげで、私も現場ではずいぶん助かっている。

そして、その市村警部のところにこの前配属されたのが、

大学時代からの親友、斉藤隆之なのだ。

医学部を卒業して、医師免許を持ちながら、何故か刑事の道を進み始め、

いわゆるエリートというやつで、すでに階級は警視というやつらしい。

あのすばらしい市村警部より上なんて、生意気すぎ。


「で、遠藤君は元気?」

「話をそらしたわね、まぁいいわ、元気よ。

 あの人も医局でいろいろ巻き込まれるの苦手だからね、居心地いいみたい。」

「そう、よかったわ。それにしても驚いた、海ちゃんと同じところに行くなんて。」

「まぁ、あそこは、うちの系列病院だからね、ありえない話ではないでしょ。

 それよりも、海君は大学にい続ける人だと思ってたわ。」

「私もそう思ってたんだけどね・・・。」


海ちゃんは、医師として働いている。

大学の系列だけど、大学病院ではないところに、早々に派遣されている。

そのまま大学病院からは離れる方向で考えているようだ。


「海君のうちって、お医者さんだったっけ?」

「うん、街の開業医さん。

 大きくはないけど、優しいお父さんがそれこそ街のみんなの家庭医って感じでね、

 すごく素敵だよ。」

「そういうのも大変だけど、すごい仕事よね。」

「海ちゃんのお兄さんは、研究肌だから、今アメリカに留学していて、

 ずっとそういう最先端の研究を続けたいと思っているみたい。」

「お姉さんは?」

「お姉さんは、理系だけど、地質学の教授だからね~。

 医者の仕事はどうでもよかったみたい。

 もう一人のお姉さんは小説家だし。」

「面白い家よね、海君のところ。」

「海ちゃんはお父さんの仕事のやり方は好きみたいだから、

 跡を継ぐことも考えてはいるみたい。」

「外科医としては、かなり腕がいいって、評判聞いたよ、遠藤君から。」

「うん、そうみたいだよね。私も聞いた。」


 海ちゃんは、まだまだ若手ながら、その器用さで将来有望な外科医だ。

外科医には繊細さと器用さ、そして力強さといったバランスが求められるが、

海ちゃんはそれをうまくコントロールしているらしい。

上司の石川先生は、華麗なる美人外科医だが、ずいぶん海ちゃんのことを

高く評価している。


「たまにね、すご~くたまにね、思うことがあるの。」

「何を?」

「いつまで海ちゃんといてもいいのかなぁ、って。」

「はぁ?何よそれは?」

「いつか、お別れしないといけないときが来るのかなぁ、って。」

「それは死に別れるとかそういうこと?」

「いや、もっと手前のことなんですけど。」

「もっと手前って・・・?」

「今は海ちゃんと一緒にいられるでしょう?

 でも、いつか海ちゃんは新しい誰かを見つけて、どこかに行っちゃうんじゃないかなぁ、

 って」

「何をバカなことを考えているわけ?薔子さんは?」

「バカなことなんて百も承知だもん。

 でも、海ちゃんは優しいし素敵だし、どこの誰が好きになったっておかしくないもん。」

「それは、激しく、のろけているのかしら?」

「いや、そういうわけじゃ」

「そうよね・・・、ああ、だいぶこのバカに慣れてきてたと思ってたけど、

 まだまだアタシも甘かったわ・・・」

「真理ちゃん・・・、ひどいよ、バカバカ言って・・・」

「ほんとにバカじゃないの?本気で言ってるところがバカなのよねぇ・・・。

 もうわかった、許さないわよ、飲みなさい、ほら」

「うえ~ん、真理ちゃ~ん・・・」

「うえ~ん、じゃないわよ、このばか。」


「ほんとに大バカなのよねぇ・・・。本気で海君が他の女に手を出すと

 思ってるのかしら?」

散々飲ませてつぶした薔子を横目で見ながら、真理絵はマティーニをあおる。

食事をしていたレストランでワインを2本空け、その後このバーに来た。

すばらしい居心地のバーだ。

真理絵と薔子、海、隆之、そして真理絵の最愛の遠藤君は、

大酒飲みだが騒がしくしないせいか、このバーではマスターをはじめ全ての人に

好感を持って迎えてもらえているのだった。

いつも酔いつぶれるのは薔子だけでしかもすやすや眠りこけるだけ、

それにも慣れているため、かなりの頻度で誰かはやってきているのだった。

「薔子さん、寝ちゃったんですね。」

そっと薔子の肩にショールをかけてくれながら、バーテンの一人が言う。

「すみません、いつも。」

いつも眠りこける薔子のために、ショールを置いてくれているのだった。

「いいえ、こちらが見ていてもいつも楽しいですからね、皆さんは。」

「今日はねぇ、ちょっと意識的につぶしてやったもので、早かったの。」

「つぶしたんですか。おやまあ。」

カウンターの中にいるマスターが、驚いた顔をする。

「あんまりバカなこと言ってるものだから。いいの、この人明日お休みなんです。」

「そうですか、それなら安心ですね。そういう真理絵さんは明日は?」

「明日は昼からなので、やっぱりゆっくりです。

 ちょっとだけ電話してきますので、薔子このままにしておいてもいいですか?」

「ええ、かまいませんよ、ごゆっくり。」

「ありがとう。」

真理絵はスツールを降りると、ゆっくり店の外に出た。

居心地のいいお店で、電話をするのは嫌いなのだ。


電話は2本。1本は遠藤君への電話だった。

「と、いうわけで、薔子をつぶしてしまったので、これから行ってもいい?」

「というわけで、って、何の説明もしてない気がするが・・・。」

「まぁまぁ、堅いこと言わない。遠藤君明日は早いの?」

「真理絵と同じく昼からだから大丈夫。一人で来られるのか?」

「うん、タクシーで行くから大丈夫。じゃあ、また後で。」

「ああ、気をつけて。」

そしてもう1本はもちろん・・・。

「今、バッカスにいるので、お迎えよろしくね。」

「って、真理さん、また薔子つぶしたの?」

「もちろん!」

「・・・・・そうですか・・・・・」

「薔子がバカなこと言ってたわよ、また。」

「バカなことって?」

「聞きたかったら、早く来てください。」

「・・・・・ハイ。」


席に戻っても、薔子はすやすや眠っている。

「私、もう1杯いただこうかな。」

「じゃあ、チェリー・ブロッサムなんていかがですか?」

「いいですね、そろそろ咲きそうだし。」

「では、お作りしましょう。」

全く、と思う。

こんなに皆に愛されていると言うのに、何が不安なのだろう。

まぁ、これで幸せの上にあぐらをかいたら薔子ではないのだろう。

見かけによらない繊細さと、見かけどおりの気の強さを持つ、かわいい友達。

誤解も受けやすい彼女と、なぜかここまで友情が続いているのは、

一重に薔子の素直さが理由だろう。

潔いほどの素直さに、時々いけない大人になった自分と比べてしまう気持ちが

出てくる。

しかしそんな時には、この人に負けない自分でいようと思うのだ。

彼女が誇りに思える友達でいようと。

「子供の頃に見たアニメのエンディングの歌がね、すごいんですよ。」

「すごい歌ですか・・・。どんな?」

「なんでも飼っている犬と半分こ、って歌。ビスケットもいいことも悲しみも。

 多分パンも一切れあったら、分け合うの。」

「それがすごい、ですか?」

「だって、犬なんですよ。犬なんだけど大切な友達で、何かいいことが起こっても、

 その気持ちをわけあうんです。なんて純粋なんだろう、って。」

「純粋、ですか。」

「そう、どっかの誰かさんがいいそうなことなんですよねぇ。

 でも私はいい加減オトナなもので、ついむかついてつぶしちゃうんです。

 いいから独り占めしときなさい、って。」

「そんな真理絵さんも、素敵だと思いますよ。純粋だって思いますけどね。」

「そんなことないんです、私は。」

「まぁ、自分でそうはおっしゃらないでしょうね。」

マスターはそういいながら、そっとピンク色のカクテルを置いてくれた。

一口飲むと、去年の春を思い出す。

「また今年も、お花見の後、ここに来てもいいですか?」

「ええ。どうぞ、大歓迎ですよ。」

「よかった、皆でまた伺います。そのとき、またこれを飲ませてくださいね。

 私、これを飲まないと、桜が咲いた気分にならないんですよ。」

「うれしいですね、ぜひお越しください。」

「はい。」


あの歌は、犬と半分こだったけど、薔子は海君と半分こにすればいい。

一切れのパンがあったら、二人で分けていけばいい。

喜びも、悲しみも、恐れも不安も、一人だけが持つものじゃないから。

皆が持っているものだから、二人で考えればいいのだ。


カランカラン・・・

「ようやくナイトのご登場ですわね。」

「おまたせいたしました、姫。っていうか、つぶすなよ、毎回。

 ああ、すみません、僕車なのでシャーリーテンプルください。」

シャーリーテンプルはノンアルコールのカクテル。

最近の海君のお気に入りだ。

「しょうがないでしょう、つぶれるんだから。」

「まぁねぇ。ほんとに真理さんと飲むとつぶれるね。安心しきってるんだなぁ。」

「お仕置きよ、今日は。『いつまで海ちゃんといられるかなぁ』、

 なんて言ってたわよ。」

わざと薔子の真似をして言ってみると、海君は嫌そうな顔をする。

「・・・なんだ、それ。」

「だから、お仕置き。ちゃんと持って帰って頂戴ね。」

「持って帰れって・・・、ある意味すごいよね。」

「信頼してますから、私。」

「はぁ、胸に刻んでおきますよ。

 っと、真理さんはどこ帰るの?遠藤のところなら、送るよ?」

「うん、そうなんだけど、もう1杯だけ飲んで行きたいから、先に帰って?」

「・・・わかった。じゃぁ、お先に。飲み過ぎないようにね、

 ってもう遅いけど。」

「余計なお世話よ。じゃあね。」


海君が薔子を抱き上げて、帰っていった。

送ってもらえば楽なのだが、なんとなくそんな気分ではなかったのだ。

気づけばチェリー・ブロッサムもなくなっていた。

「ああ、最後は何にしようかなぁ・・・。」

「じゃあ、ホワイトレディにでもしておいたら?」

後ろから、急に知っている声がして驚く。

「遠藤君・・・」

「俺はビターソーダをお願いします。」

「どうして?」

「なんとなく。」

遠藤君は元アメフト部で、割と無口でかなりごつい見かけだが、

薔子と同じくらい繊細だ。

私が何か考え込んでいると、すぐに心配してくれてしまう。

今日、ふと思ったことを持ち越さないために、もう一杯飲んでこの人のところに

行こうとしたのに、本人が来てしまった。

「いつも言っているけど。

 考えてないで、早く俺のところに来い。」

「へ?」

「考え込むと、いい結果出さないから、真理絵は。

 そんな風に時間を無駄にするくらいなら、俺の顔見て酒を飲め。」

「遠藤君の顔を見てお酒を飲むと、考え込まないの?」

「少なくとも、俺のことだけ考えるだろ?」

・・・・・笑える・・・・・。大爆笑だ・・・・・。

声も出せずに笑っている私の頭を、ぽんぽんとたたいて、遠藤君が続ける。

「笑っててもいいけどな、ちょっと恥ずかしいからな、あんまり言わせないように。」

「ごめんごめん・・・。でも、すごい自信だね・・・。」

「当たり前。そのくらいの自信がないと、お前と付き合っていられないだろう?」

!!

薔子、ここに私と一つの幸せを分け合ってくれる人がいるみたい。

きっとそうだって、信じていたけど。

やっぱりそうだ、って、うれしいことだね。

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