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6人の物語  作者: sanana
ふと気が付いた10のお題
21/26

貴方からの視線

ふと目を上げると、薔子と目が合う。

試験前の図書館は、人でいっぱい。

いや、普段も図書館派の人は結構いるけど、ここまでは混んでいない。

僕はレポートの真っ最中、薔子は明日の試験勉強中。

たまたま図書館に来たら、薔子の向かいが空いていた。

「誰か来るの?」と聞いたら、「いやー、誰も来ないよ」って言うので座ってる。

・・・なんで勉強中なのに、目が合うの?

「ご、ごめん・・・」

ちょっと首を傾げたんだろうか、薔子が謝る。

いや、謝らなくていいけど、勉強、はかどってる?

僕、邪魔だったかな。


クリスマスに無事デートをして、無事告白をして。

デートの誘いも告白も、薔子と同時だったことが微妙ではあるけど、

僕らは晴れて恋人同士というやつになった。

隆之がわざわざ気を使っていなくならない限り、僕らの過ごす時間は以前とそれほど変わらない。

別々に過ごしていた週末に、たまに二人で会うくらいだ。


僕だけが気がつかないうちに、僕は薔子を好きになっていた。

ほとんど会わない兄にまでばれていたところを見ると、重症だ。

でも、みんな喜んでくれたことが一番うれしかった。

みんな、喜んでいた、というか、いい加減どうにかならないものかと

イライラしていた、というのが正直なところらしいが。

あの、あまり何も言わない遠藤までが、うっすら笑みのようなものを浮かべて

「よかったな」と言ったのだ。

これで気づいていなかったら、いい加減真理さんあたりに力づくで

気付かされていたに違いない、と、内心冷や汗をかいている。


あ、何か難しい問題にぶつかったんだな、眉間にしわが寄ってる。

見るとはなしに薔子を見つめていると、ふと、目があった。

あ、今度は逆だね、僕が薔子を見つめていた。

なんだかいつまで見ていても見あきないから、つい見つめていた。

なんてことはこっぱずかしくてとても言えないから、

今度は僕が君のかわいい傾げた小首に答えるよ。

「ごめん。。。」



*************************************


屋上は大好きだ。

空が高く、雲は白く、街がどこまでも見渡せる。

遠くの山には手が届くようだし、少し先のあの木の根元に一足で行けるようだ。

雨の屋上だって好きだ。

傘の花が地面に咲き、天から降る涙は、やさしい大地に抱きしめられる。

とはいえ、大地はいまや、ほとんどが余計な厚化粧で息苦しいのかもしれない。

そんなことをぼんやり考えていると、気配に気づく。

振り向くと、貴方がいる。

「いつから?」

「ほんの少し前ですよ。いつ気づくかなぁ、と思って。」

「すみません、ぼーっとしてました。驚いたな、気付かないなんて。」

貴方が俺に向かって歩き出す。

「そうですね、いつもは階段を上っている辺りで気づいているでしょう?

 そんなに気配に敏感でないと、刑事さんというものはやっていられないんですか?」

そして俺のうしろに立つと、おもむろに背中に抱きつく。

ゆっくりと背中から抱きしめられ、俺は前に回された手に触れる。

いつも温かい手だ。

「いえ、俺が特殊なんです。」

小さい頃両親を亡くしてから、俺は気配に敏感になった。

初めの頃はちょっとした物音でも起きてしまい、寝不足のまま学校に行っていた。

そのうち気が付きはするものの、何とか眠れるようにはなっていたが、

根本的には眠りが浅い。

起きているときですら、気にしていないつもりでも、どこかで気にしている。

周りの人の動きを。

人が気付かない動きも気づいている場合があるらしく、それは仕事に役立った。


大学時代に一度、眠れない日々がしばらく続き、部活中に倒れたことがある。

その時、薔子と海が隣の和室に運んでくれ、ついていてくれたことがあった。

あのときは二人がいたが、2時間しっかり眠り続け、急に起きた。

なんとも言えない安心感があった。

そして、この人もまた、一緒だと深く眠れる。

無敵の安心感を与えられているらしい。

何も考えず、眠る。

時々、気配を感じない時もある。

少しぼんやりしているとき、何かを考えているときなんかだ。


「何を考えていたんですか?」

背中から声がする。

まさかこんなに安心感を与えてもらえるなんて思っていなかった。

こんなに見つめられていても気づかないくらいに安心している。

それに心から感謝しつつも、俺はあなたに何を返すことができるんだろう、

そんなことを考えてしまう。

とはいえ、そんなことを言えば、また貴方は心配するだけだから。

「今日の夕飯に何を食べようか考えていたんですよ。何かリクエストはありますか?」

そう答える。

貴方はクスクス笑う。

きっと俺が何か別のことを考えていたって気づいているんだろうけど、

そんなことは一言も言わず。

「そうですね、昨日からなぜかオムライスが食べたいんですけど。」

と、えらくかわいい回答だ。

「オムライスですか?」

「ええ、昨日食堂で最後の1つが目の前でさらわれてから。

 それほど食べたいと思っていたわけではなかったんですけど。」

こんなに大人なひとなのに、こんなにかわいいなんて反則だろう。

「じゃあ、今日はオムライスを作りましょう。」

卵の上に、でっかいハートマークをケチャップで書いて出したら、

貴方はなんて言うだろうか。

くるっとまわってあなたを腕の中に抱き込めて、額にキスをした。



*************************************


茶道部のお稽古は今日も順調に進んでいる。

4人同時に進めることはできるけれど、来てくださっている先生は2人。

いつも聖徳太子みたいだよね、って思ったりする。

副部長の隆之も海ちゃんも今日は来てくれているので、

みんなのフォローも先生への対応も超余裕。

「あら、佐伯さん、貴方今日はお稽古しないの?」

先生にいきなり言われた。

うーん、だいたいみんな一通り落ち着いてきたし、この後誰か来ても

あの2か所はじきに空くしなー。

「そうですねー、ではこの後お稽古させていただきます。」

「そうよ、ぜひなさい!」

私はこの元気なおばーちゃん先生が大好きでたまらない。

たまーに怖いんだけど、ちゃんとしていれば基本的に怖くない、って当たり前か。

さて準備しなくっちゃ。

台天目って、お茶碗を台の上に乗せるんだけど、初めて先輩がやっているのを見た時は、

うわー、時代劇っぽい!って思ったんだよねー。

なんかこう、お殿様が飲んでそう、とか。

「薔子、どうぞ。」

海ちゃんが声を掛けてくれた。

「おっけー。って、誰か私のお茶飲んでくれるかなぁ。」

「えっと、台天目か。じゃあ僕がいただこうかな。まだ飲んでないし。」

「ほんと?ありがとう、海ちゃん。じゃあ、お菓子から出すね。」


お稽古を始める。

始めたころは全くの初心者だったから、ちょっとした角度やら手順を追うので

手一杯だった。

でも、さすがに3年目。自然に動けるようになってきた、と思う。

お点前は楽しい。

どこか集中してるけど、どこか周りの空気も感じ取っている。

今日は特に穏やかな空気を感じる。何だろう。

先生が直してくださるところはもう一度ゆっくりやりなおし、そしてお茶を点てた。

海ちゃんの前に渡してもらうと、きれいな所作で飲んでくれる。

その時、わかった。

海ちゃんか。

いつも見ててくれるけど、今日はひとごこちついて私のお茶を飲んでくれるせいか、

すごくゆっくりお点前を見てくれていたんだ。

その視線が優しくて、私は居心地がよかったんだ。

ありがたいなー、と思いながら、お点前の後半に突入。

ほら、やっぱり優しい空気。

いつもこんな感じだったら、嬉しいな。

海ちゃんとだったら、いつでもこんな風に過ごしていけるのかな。

海ちゃんの彼女って、いいなぁ。


それは海ちゃんを好きだと思い知る、もう少し前の出来事。


これで「ふと気が付いた10のお題」終了。

最後なので3人分。

隆之のは「空の色」最後のあたりの場面です。


もともとこの3人、薔子、海、隆之の話で始まったのですが、

真理絵と遠藤くん、薫先生がどんどん気に入ってきてます。

こんなに出番がある予定じゃなかったんだけどなぁ。

最初の3人が霞まないように頑張ります(笑)


ではでは、次はまた新しいお題です。

引き続きご愛顧よろしくお願いいたしますm(__)m

お題は【Abandon】様よりお借りしております。

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