ああ、居たんだ。
薔子視点。短めです。
平日にお互いの休みが合った木曜日、海ちゃんと美術館に出かけた。
それは私がずっと見たいと思っていたある絵画展で、その美術館自体は2度目。
前回、できたてのその美術館の展示が、すごく見やすかったのを覚えている。
平日の午前中ということで、もっと空いていることを予想していたけれど、
意外と人はいた。
それでも人で絵が見えない、ということはほとんどなくて。
それは作品の大きさによるところも大きいと思うのだけど。
そう、その作品は、ものすごく大きいものが多かった。
アボリジニの彼女は、80歳を過ぎてから初めて絵を始めた。
地面に板を置き、そこに描いていったため、展示方法はどの向きでもいい、
という、非常なるおおらかさに、また驚く。
極彩色の色づかいから、モノトーンの絵にいたるまで、
すべてからあふれる何かに圧倒されつつ、ゆっくりと見て歩く。
こういう展示を見に来たとき、海ちゃんと私は自然と自分たちのスピードで見始める。
初めは隣にいたのが、だんだんと離れていき、追い越し、追い越される。
私はなんとなく海ちゃんの存在を感じながら、絵と一対一になる。
私が先に見終わったときは、なんとなく海ちゃんの隣に立つ。
自分も見たこの作品を、この人はどんなふうに見ているのかな、って思いながら。
でも、あんまり近づいたりジロジロ見ていると、海ちゃんの邪魔をしそうで、
そっと隣に立つ。
しかも進行方向の逆側に、邪魔をしないように。
もちろん、声はかけない。
それでもいくつかを見ているうちに、海ちゃんがふと気づいてくれることがある。
「ああ、居たんだ。」
って、ふっと微笑んで言ってくれる。
私はその瞬間が大好きで、どうしても海ちゃんより先に見終わりたくて、
最後の方はちょっと急いで見てしまっている。
だから、一緒にもう一回見直してちょうどいいくらい。
いつ気づいてくれるかな。
今日も邪魔をしないように、そっと、そっと、隣に立つ。
あなたに気づいて欲しくて。
お題は【Abandon】様よりお借りしております。
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