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6人の物語  作者: sanana
ふと気が付いた10のお題
14/26

鍵、掛けたっけ?

大学時代、出会い編

大学生になった。

今日で授業開始から十日目。

でも、何もかもに期待はしていない。

高校時代の仲良しに言われた。

私は、初対面がものすごく感じが悪い、そうだ。

何度か話しても、その印象は変わらない。

1ヶ月くらい経って、ようやく「あれ、案外かわいいじゃない」と思える言動が出てくる。

だから、薔子の攻略には3ヶ月くらいかかるのよね、と。


無理だろう、それは。

友達できないだろう。

でも、そんなにつっけんどんな態度なんかしてない。

努めて穏やかに話しているつもりなのに。

ああ、今日も話しかけてくれた子は、どこかに行ってしまったか。

まあ、いいんだけど。

もう慣れちゃったんだけど。


人に頼ることか苦手だ。

依存症ではなくて、依存恐怖症、なのだと思う。

何でも自分でやりたい。誰かに迷惑かけるなんて耐えられない。

そんなのは、家族や親戚だからこそ甘えられること。

そして、今までは大抵のことはなんとかなっていたのだ。

天狗になってなんかない。

私は、怖いだけなのだ。


昼食を空き教室で終える。

今日はお弁当。

もちろん一人。

読みたかった本の続きをお供に。

読みかけの推理小説ほど、我を忘れさせるものはない。

が、学生の本分は勉強!

泣く泣く次の教室へ移動。

実験、だったか。


実験は、4人ずつに分かれてやるらしい。

出席番号順に、すでに班分けがされている。

私は、指定されている場所に座った。

うちの班の他のメンバーは、まだ来ていないらしい。

推理小説の続きを読もうと取り出した時だった。

「あ、佐伯さん。」

珍しく話しかけてきた子たちがいる。

確かこれの前の時間が一緒だった気がするけど、さっきは見かけなかった。

「こんにちは。」

嫌な予感がする。

当たるんだよなあ、私の嫌な予感。

「あの、さっきの授業、私たち出られなくて。ノート貸してもらえないかな。」

やっぱりか。


「悪いけど、私、人にノートを貸すの好きじゃないの。他をあたって。」

「え!どうして?」

わ、やっぱりすごい顔で睨まれた。

どうしてって言われてもなー、困ったなー。

「申し訳ないけど好きじゃないのよ。」

「そんな!

 別にくれって言ってるわけじゃないし、ちょっと貸してもらえれば。」

二人でちょっと泣きそうな顔をしている。

あくまでも泣きそうな、だ。

「じゃあ、聞くけれど。どうして出られなかったの?」

この辺でやめとけ、と、心の声が聞こえるが、止められない。

「え・・・。」

二人が顔を見合わせて、ちょっと不安そうな顔になる。

やっぱり。

「だって、サークルの先輩に校内を案内してもらったのよ。

 いろいろ学内のこと教えてもらったりして。」

「そんなの授業が終わってからやればいいじゃない。」

「そんな!先輩がせっかく言ってくれたのよ?

 断れるわけないじゃない!」

だんだん顔が変わってきた。

きっとカッコいい先輩だったんだろう。

そして、仲間外れになるのも、嫌だったんだろう。

わかるけど、でも。

でも、私の口は止まらない。

「午後は実験だから来たんでしょう?

 午前中は出席取らないからって、休んでいいと思ってるんだったら、

 その程度の授業、ノートだっていらないでしょう?」

「何ですって?」

わー、やっぱり怒ってるよねー。


私は、人にノートを貸すのが嫌いだ。

何故、自分の努力の結晶を、他人に無償提供しなければならないのだ。

体調が悪かった、とかならまだしも。

そもそもがあのすばらしい授業に出る気もないような人に、

なんで単位をとる手段としてのノートだけ貸さなければならないのだ。

本当にすばらしい授業だったのに!

でも、人は、正直に思った何かを言ってはいけないらしい。

でも、私は、それを言っちゃうんだなぁ、これが。


彼女たちと話していると、周りでひそひそ話している声がする。

あー、またやっちゃったなー。

「たった1回分のノートを貸してって言ってるだけなのに、

 何でそんなにいろいろ言われなくちゃいけないのよ!」

お、本気で怒ってきたなぁ。

さて、どうしようかな。

私の言い分は、多分一生かかって彼女たちには通用しないだろう。

黙って考えている私を見て、腹が立ったのだろう。

「ちょっと、何とか言ったらどうなの?」

声を荒げて近寄ってきた。

うーん、困ったな。

と思っていたところに、のんびりした声が聞こえる。

「あー、えーと、石橋、と、毛利だっけ?

 ちょっと悪いけど、そこ俺の席。」

結構背が高くて、こぎれいな感じの男の子が立っている。

誰だっけ?

「隆之くん!

 ねえ、聞いてよー。

 佐伯さんってばノート貸してくれないのよー。

 たった1回分なのに、ひどいと思わない?」

彼女たちの態度が豹変する。

明らかに甘えた態度。

それはひどいなぁ、と、言ってもらいたいんだろう。

今度は3人を相手か、と思ったら、意外な答えが返ってきた。

「へー、そうなんだ。

 今日の授業、すげーよかったのになー。

 お前ら、出なかったんだー。

 今日でなかったら、もうわかんねーよ、あのすごさは!」

「え?」

「いやー、ほんと今日の授業、よかったよ。

 俺、マジで大学はいってよかった!って思ったもん!」

隆之くん、とやらは、さっきの授業にいたのか。

そして、すげーよかった、と思っているのか。

…同感だ…。


だが、彼女たちはひるまない。

「えー、だったら隆之くんのノート貸してよ。

 明日のお昼ごちそうするよ!」

「なんならお弁当作ってくるから、一緒に食べようよ!」

…涙ぐましいねぇ。

ノートをダシに、隆之くんも手に入れようとしているのか。

「あ、無理。

 だって俺、ノート取らないから。」

「え?」

「あー、必要ないんだよなー。

 一回聞いたこと、忘れないからさー。

 書くフリが必要な時しか使わないんだ。」

う、うらやましい!

そして、おもしろすぎる!


彼女たちが唖然としていると、また後ろで声がする。

「あの、そこいいかな。」

今度はひょろっとした、メガネの男の子が、ニコニコ立っている。

「あ、海くん!」

「海くん!ちょっと聞いてよ!」

また、なんか人気者の登場なのか?

面倒だな。

当然、彼女たちは、同じ話をしだす。

すると、海くんとやらは、にっこり笑って答えた。

「そうなんだ。

 でも、僕も人にノートを貸すのってあんまり好きじゃないな。

 いろんな考え方があるし、それを無理強いするのもおかしいし。

 あきらめたらどうかな?

 それに僕のノート貸しても、僕しかわからないと思うしなぁ。」

「え?」

「僕、キーワードしか書いてないから、見ても意味ないと思うよ?

 たいていそうだから、意味ないってよく言われる。

 僕には十分なんだけど。」

ほら、と開いたノートには、本当に今日のエッセンスたる単語しかない。

「それにしても今日の授業、素晴らしかったのに、出なかったの残念だったね。」

それを聞いて、さきほどの隆之くんとやらが、ものすごいうれしそうな顔をする。

「そうだよなー、今日を見逃してたら、一生後悔するよな!」

…だんだん彼女たちが、ちょっと気の毒になってきた。


するとまた後ろで声が。

「ちょっと、授業始まるわよ!邪魔だからどいてよ!」

かわいい感じの女の子なのに、目は鋭い。

そして声がちょっと低めで、すごくいい響き。

「真理絵ー。」

「真理絵、お願い、さっきの授業のノート貸してよ!

 さっきからみんなひどいのよ!」

お、私だけじゃなくて、連帯責任になってきた。

それにしても、彼女たち、よくみんなのこと知ってるなぁ。

「え?さっきの授業出てないの?

 あのサイコーの授業を?

 ありえなーい!

 私なんて、嬉しくなって油断して、英語でノート取っちゃったのに!」


…フルフルと肩がふるえる。

彼女たちは真っ赤な顔をして。

隆之くんとやらと、海くん、そして私は、笑いをこらえるのに必死で。

「もういいわ!

 なんなの、あなたたち!

 いみわかんない!」

怒って彼女たちは自分たちの席に戻って行った。


「いやー、面白かったな。

 それにしても、さっきの授業最高だったよな!」

「あんな授業が毎回なのかと思うと、楽しみだよね。」

「あれが毎回だったら、私そのうち倒れるわ!

 もう本当に最高だわよ!」

私の周りの3人が、心から嬉しそうに話しはじめる。

だから、つい我慢できなくなったのだろう。

「わた、わたしも。」

「え?」

3人が私を見る。

「私も、本当に素晴らしいと思ったの!」

3人が互いを見つめたかと思ったら、私を見てにっこり笑う。

「おう、そうだよな!」

「あんな幸運なこと、めったにないよね!」

「大学に入って本当によかったと思ったよね!」


心が、コトリと音を立てる。

ふと気付くと、彼らとの話に夢中になっている自分がいた。

ふと気付く。

心に鍵、掛けたっけ?

掛けたよね?

一人でもさみしくない。

一人でも問題ない。

一人の方がせいせいする。

そんな気持ちで塗り固めた私の心。

しっかり鍵をかけて、心が折れないようにしたはずなのに。


こんなに人と話していて、居心地がいい、なんて、知らなかった。

鍵を、掛けたはず、なのに。

いつの間にか、鍵が、なくなっていた。

鍵そのものが。

心が、いつの間にか、開いていた。


大学時代に、期待なんてしていなかった。

期待していなかったからこそ、最高の友人たちを得られたということ、

何年も実感し続けることになるなんて気がつかなかった、そんなあの頃。


薔子ほど否定しませんが、ノートを貸すのって、私も好きじゃありません。

ほとんど話したこともないクラスの人に頼まれて、

しかもなかなか返してもらえなくてすごくムカついた思い出とかがあって。

薔子のかたくなな感じを出したかっただけなのに、妙な方向に(^_^;)

薔子のこころのカギは、この一件でふと気づいたら解除されてましたとさ★


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