電話の音
うわあ。気が付いたら随分久しぶりになってしまった。
今回は小ネタ2個、って感じです。
携帯電話が鳴ったような、気がした。
音は、なぜかどこかの鐘の音みたいなんだけど。
気がつくと、ポケットになかった。
しまった、着替えた時に上着のポケットに入れっぱなしだった。
音は切ってあるから、誰にも迷惑はかけていないと思うけど。
個人用の携帯電話は、いつも問題ない範囲では、何も反応しない状態でポケットに入れている。
音もならない、震えない。
本当に緊急の知らせは、職場の電話にかかってくるから大丈夫。
友人たちも、出ないときは出られない時、と思っているので、
適当にメールを入れたり留守電を入れたり、その反応も様々だ。
まぁいい、後でタイミングを見計らって取りに行こう。
あまりの空腹感にピークを過ぎた食堂に行ったら、遠藤がいた。
その手元のものは…、小山じゃなくて、特盛りカツカレーか?
「これから昼か?」
「そう、って遠藤も?お疲れ様。」
190センチくらいあって、堂々たる体格の遠藤。
大学時代のアメフトではもちろんディフェンスでバリバリのプロテクターも付けていたから、
試合の時は本気で巨大な冷蔵庫みたいだったなぁ。
話さないわけじゃないけど、割と無口で、若干強面。
案外小さい子供は、その優しい内面を察知して寄ってくるが、逆に大人に一瞬驚かれている。
もう慣れっこみたいで、必ず初めて患者さんと接するときは、一人ではしない。
外来でも、看護士さんに案内してもらっている。
本当に優しいのになー。
たわいもない話をしながら食事をしていると、また電話が鳴ったような気がした。
「どうした?」
「あー。何でもないわ。ところで来週、バッカスのマスターの誕生日らしいよ。
なんかお祝いしないとね。」
「そうだな、世話になってるからな。」
楽しい休憩時間はあっという間に過ぎ、まずい、時間がなくなった。
携帯電話、またあとで。
「ふう」
仕事が一息ついた。
ああ、もうこんな時間か。
今日はそろそろ帰るか。
着替えようとロッカーに向かうと、またも遠藤に出会う。
しかもなぜか薫先生までいた。
「お疲れ様です。…遠藤とは今日はよく会うな。」
ほんの少し笑った雰囲気を見せながら遠藤が言う。
「珍しくよく会うな。
…ああ、そうだ、これからバッカスに行こうと話していたんだが、榊原もどうだ?」
「ああ、そうだね、いこうかな。」
着替えながら、携帯を確認すると、あ、着信。
「ごめん、ちょっと待って、留守電。」
これは、電話の音がした、と思った頃の時間帯だなぁ。
君から電話がかかってくると、なんだかわかるようになってきた、気がする。
しかも、鐘の音が毎回聞こえる。
どこの鐘だろう、まぁ、いいか。
留守電を聞くと、きれいな君の声。
バッカスに寄るって、そりゃちょうどいい。
「薔子も寄るって留守電入ってた。
せっかくだから真理さんとか隆之も来られればいいのにね。」
真理さんと隆之の名前を出した途端、笑顔が返ってくる。
「ああ、真理絵も来るって言ってたぞ。」
「偶然ですね、斉藤さんも来るって言ってましたよ。」
「勢揃いだね、楽しみだ。」
いつか、君と、あの鐘の音を聞くことがあるんだろうか。
それよりもまずは今夜君に会えるのがうれしい。
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どこからかヴィバルディの四季、第一楽章「春」の冒頭が聞こえる。
初めて聞いたのは小学校の頃だったろうか。
好きだなぁ、この曲。
と、思っていると、
「だー、もう、これ、どうにかしてくれよ!!!
はい、捜査一課です!」
という叫び声が。
あ、そうか。
徹夜の仕事明け、少し仮眠をとって書類を作ってから帰ろうと、
俺は仕事部屋の片隅で、毛布にくるまって丸くなっていたのだった。
そしてヴィバルディの四季は、電話の音。
数日前から、なぜか捜査一課の電話の音が変わった。
誰かのいたずらだろうが、直し方がわからない。
わかりそうなやつを連れてくるのを忘れたまま、早数日。
電話と気づくのに遅れ、何回か怒鳴られている。。。
「いい加減に直さないとなぁ。。。」
そう思いながら、ふと考えた。
この電話、あの人の病院のと同じものだなぁ。
ってことは、あの人の部屋の電話の音も変えられるってことか。
俺は帰りがけに、電話の音の変え方がわかるやつを捕まえようと心に決める。
でもまだ捜査一課の電話の音は変えない。
そしてそのままほんの少しだけ、あの人の病院に行こう。
…数日くらい、電話の音がおそろいでも、許してもらえるだろう?