5.
4時前に身支度を終え、歩き出した。
オーウェンが先に準備万端!といった様子で待ち構えていて、あとをついてくる。
「それで、リサさんはどこのギアを使ってます?!
よければもっと見せてもらえませんか。僕のは……」
話しが止まらない。リサがほとんど相手をしないから、大きな独り言みたい。
騒がしいのが好きじゃないリサには正直うるさかった。
しばらくするとオーウェンは静かになり、地図を片手に歩いて行った。
昨夜は日が落ちていたこともあり、探索をほとんどしていなかった。
ふくらはぎくらいの水深の池はいくつか点在していて、よく観察してみると小さなマスのような魚が泳いでいる。
「はっ!……よっ……と」
素手で捕まえようとしたが、なかなか素早くて簡単じゃない。
『とりすぎはやめてよ?』
イネスがいたら、見かねて言うかも。ちゃんと、加減はしたと思う。
つづいて料理もしておく。
木の棒に刺して、塩だけで焼く。
熱々を食べると体力がぐんと回復した感じがした。
試しにスープも。粉末の調味料を入れると、より効果が高くなる。
刻んだイラクサの若葉で風味が良くなり、ほんのりと甘みが付いた。
料理に熱心なオーウェンに影響されたのかもしれない。
まだ明るい。歩いていくと、長いつり橋のかかった光景が見えてきた。
「……落ちたりしないよね?」
風が吹くたび、不安定に揺れるつり橋。リサはなるべく速度を緩めずに渡った。
立つのがやっとの狭い足場から見上げてみる。
風雨にさらされ、所々に茶色い苔のむした岩肌に作られた人工的な感じのする造形。柱や壁、そして部屋につながる扉のない入り口。
それらがそびえ、高層ビルほどの高さはゆうにあるだろうか。
ここに至るまでも、岩壁を長方形に切り取った入り口や通路、奥に部屋のような空間、無骨な形の石柱といったさまざまな物を目にした。
扉のない入り口をくぐると、内部には水場や寝台のようなものもある。
「へえ、なかなかいいアパルトマン」
外は小雨がパラつき、横風も吹いている。
灯りを頼りに歩き回り、自生しているキノコを少し見つけた。
毒があったら大変。慎重に判定して、スープにいれてみよう。
壁にはところどころ、子どもの落書きのようなものがある。
日記、または天気を記録しているようだ。
食事を少し多めに取り、水分も補給しておく。
まだ暗い中、垂直の壁をよじ登り始めた。
「古くって助かった」
風雨にさらされたことで、クラックや沢山の溝ができている。
こうでなければとても上には行けなかっただろう。
2メートルほど登った位置で、腕の震えを感じた。
「ピピピ」
ドローンがいち早く、知らせてくる。
ピトンを打ち、カラビナをつけ、ザイルをかける。
___間に合った。これで滑落に備えることができた。
気を抜くとすぐに手足が滑るし、吹き付ける突風に早くも体力を奪われている。
そのうえ、斜め横に移動しなくては次の足場までいけない。
(これは相当、時間がかかる。きちんと補給もしていかないと)
手足に力が戻った感触。すぐさま、さらに上を目指す。
____________
たどり着いた。
扉のない入り口の向こうには、寝室のような部屋や下に抜けている大きな穴。
……そして、鉱石を掘る人?がいた。
岩で行き止まりの通路で耳を澄ましたとき、カーン、カーンと聞えていた音の正体だ。
ひげが顔の大半を覆い、おまけに目も作業用ゴーグルでガードしているから、人相はさっぱり分からない。
ぶっきらぼうにしゃべりつつ、鉱石を掘る手は止まらないようだ。
おまけに何語なのかも分からなかった。
ほんの少し言葉を交わすと、彼?は完全にリサを無視しだす。
高い位置の鉱石が目について、付近で探し集める。
ドローンも珍しいのか、岩壁に点在する鉱石をつついている。
「ねえ、これは?」
「……」
気のない返事とともに、リサの手から鉱石をもぎ取る。
少しの間も掘る手を止めようとせず、呆れるくらいに貪欲だ。
背中に背負ったカゴいっぱいに鉱石がつまっているというのに。
どうやって山を下りるんだろう?
ちゃんと食べてるんだろうか。
ずんぐりとした固太りだ。
重たい鉱石を持ったまま、無事に降りられるとは思えない。
ザイルが切れるか、自重を手で支えきれない可能性もある。
___鉱石や、おカネに、取りつかれてる?
背筋が少し冷たくなった。
忘れよう。リサは、クライミングに戻ることにした。
___________
とにかく懸命に、集中、集中。
垂直の岩壁でふと我に返ると、辺りは暗闇だった。
あいにくのチョーク切れで滑落し、何度かやり直しをしている。
大きなケガがないのは救いだけど、体力的にはマズい。
(こう暗いと、ルートの確認も満足にできない……)
ライトも近くの岩壁を照らすだけだ。
追い打ちのように、叩きつける突風。
身体の冷えと疲労のせいか、焦りが募る。
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