第5話 シャッターの向こう側
昼下がりの商店街は、静かすぎた。
半分以上の店がシャッターを下ろし、風だけが通り抜けている。
今川昇太はキャリーバッグを引きながら、アーケードを歩いた。
看板は古いが、手入れはされている。
——終わってはいない。
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今回の依頼主は、商店街振興組合。
名ばかりの会長が、申し訳なさそうに頭を下げた。
「イベントも、補助金も、全部やりました」
「それで、続かなかった」
昇太はうなずく。
「“やる理由”がなかったんですね」
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昇太は三日間、商店街に通った。
何も提案せず、ただ歩く。
惣菜屋の婆さんは、昼になると弁当を三つだけ作る。
靴屋の親父は、毎朝シャッターを拭く。
誰も見ていなくても。
「なぜ、続けてるんですか」
昇太が聞くと、二人とも同じ答えをした。
「ここしか、知らないから」
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最終日。
昇太は組合員を集め、たった一つだけ言った。
「商店街を、立て直す必要はありません」
ざわめき。
「一軒だけ、残しましょう」
「毎日、必ず開く店を」
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それは、惣菜屋だった。
毎日三つの弁当を作る店。
「売れなくても、開ける」
「それが、街の呼吸になります」
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一週間後。
誰かが、その弁当を買った。
さらに次の日、別の店がシャッターを上げた。
数字にはならない変化。
だが、確実な変化。
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駅へ向かう道。
昇太は振り返らずに言った。
「続ける理由が、先にあれば」
「人は、あとから戻ってきます」
夕暮れのアーケードに、
小さな灯りが一つ、残っていた。




