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第8話 妙なことはしちゃダメ
ジモジとして手を挙げる。
「芝崎さん……どうしたの?」
「その……お、お手洗い借りてもいいかしら?」
「もちろん。そこね」
「ありがとうっ……」
そのまま小走りでトイレに行ってしまった芝崎さん。
見ればコップに入れたお茶を飲み干していた。
緊張で喉が乾いていたのかもしれない。
そういう経験は俺にもあり、気持ちはよくわかる。
しかし、トイレをきっちり掃除できていたかだけが心配だ。
そんなことを考えていると、犬鳴さんと目が合う。
彼女はかなりオロオロとしていた。
会話を先導してくれていた芝崎さんがいなくなり、不安になっているのだろう。
俺も緊張するが、ここは部長としての頑張りどころ。
芝崎さんが返ってくるまで、犬鳴さんとの二人っきりの時間が始まった。