つり橋を渡れ
黄色い鳥に連れられて蒼太と星流は、図書館の裏に広がる霧の立ち込めた川に来ていた。川は、白波が立つ程荒れていた。
「お城の山に入るには、このつり橋を渡れば行けるわ」
黄色い鳥は、軽々しく言った。
つり橋の前に来ると高いところが苦手な蒼太は、足がすくんで動けなかった。
「蒼太、できると思えばできるってば」
星流がたくましく蒼太の手を引いた。蒼太は、星流のふくよかな腕に必死に掴まった。
「怖いと思うから怖いのよ。いい?これは、恋愛心理学でいうリアルつり橋効果よ。ドキドキでお互い好きになっちゃうんだから」
星流の頬がほのかに赤かった。
「星流は、それでいいの」
「ばっか、あくまでつり橋効果は勘違いの現象よ。兎に角、蒼太はくだらないこと妄想でいっつも考えてるんだから、その妄想の実力を今発揮しなさいよ」
「くだらないことって?」
「いやっあの、こんな物理的距離感近いけど蒼太は今ズボン履いてないんだからね」
星流は、益々顔を赤くして下を向いて恥ずかしそうだった。
「星流でそういうこと考えたことないよ」
「ああっ、急に純粋ぶるんじゃないわよ。私が変態みたいじゃない」
そんな会話で二人が橋の中央まで来た頃、「きゃあ」星流が何者かに足を引っ張られ叫んだ。
よく見ると、川からは無数の手が出てきていた。
「これは、貴方達の世界の貴方達への嫉妬の数だけ足を引っ張ろうとする嫉妬千手よ」
黄色い鳥は、切羽詰まった声で説明した。
星流は、持ち前の運動神経でなんとか手を交わし橋を渡りきった。蒼太は橋を恐る恐る渡りきる間、悲しいかな足を一回も引っ張られなかったのだった。
「さあ、川を渡り切った事だし気を取り直して行きましょ」
(僕、誰にも嫉妬されてない)と少し落ち込む蒼太を尻目に黄色い鳥と星流は、山の入口へと入って行った。