第6章「ノアと秘密の書庫」
山から戻った翌日、リィナはちょっとした疲れを感じつつも、朝からハーブ園の見回りをしていた。
ミナトはいつも通り、足元でのんびりと日向ぼっこしている。
「……おはよう」
リィナが園に戻ると、ノアが一冊の本を手に立っていた。
「ちょうどよかった。リィナ、少し時間ある?」
「……うん。あるよ」
ノアはにこりと笑うと、リィナを裏の倉庫へ案内した。そこには古びた木の扉があり、ノアは懐から鍵を取り出して静かに開ける。
「ここ、ぼくしか使ってない“秘密の書庫”なんだ。あまりに古い文献ばかりだから、誰も読まないんだけど……リィナなら、興味あると思って」
中に入ると、そこは静かで、少しだけカビの匂いがする小さな部屋。
棚にはびっしりと本が並び、そのほとんどが手書きのものだった。
「……すごい」
リィナは、思わず声が漏れた。
ノアは少し照れながら笑い、手に持っていた本を差し出した。
「これ。薬草と魔力の関係について書かれた研究記録。古くて読みにくいけど、役に立つと思う。リィナは薬草の扱いがすごく丁寧だから、きっとわかると思ったんだ」
リィナは本を受け取り、ページをそっと開いた。
紙はところどころ破れていたけど、手書きの図や文字は温かみがあった。
「……ありがとう、ノア」
その目は真剣そのもの。集中モードのリィナだ。
ノアはそんな様子をじっと見ていたけど、ふと笑って言った。
「ほんと、夢中になると周り見えなくなるんだね。さっきから、ミナトが本の上に乗ってるよ」
「えっ……」
気づけば、ミナトがちゃっかり開いたページの上で丸くなっていた。
リィナはそっと猫をどかしながら、少しだけ笑った。
「ごめん、ミナト……」
「ふふ、そういうとこも含めて、なんかリィナらしいね」
ノアのその言葉に、リィナはちょっとだけ恥ずかしくなって、視線をそらした。
けど、ほんの少しだけ、胸の奥があたたかくなった。
――こんな時間が、もっと続けばいいのに。




