第2章「神様とハーブと新しい名前」
……ふわふわと、どこか宙に浮いてるような感覚だった。
体も重くないし、目も開けてないのに、なぜか明るいのがわかる。
「ようやく目が覚めたかね、リィナ」
誰かの声がした。
ゆったりとした、ちょっとおじいちゃんっぽい声。でも、なんか聞き覚えは……ない。
ゆっくりと目を開けると、目の前に広がっていたのは――
白い花が咲き乱れる、草原のような場所だった。
空は深い青で、太陽が近くに見えるのに、暑くない。不思議な場所だった。
「……え、ここ、どこ?」
自分の声が、前より高い。軽い。
そして手を見ると、細くて小さい……まるで子どものような手だった。
「まずは自己紹介じゃな。わしはこの世界を管理してる神様みたいなもんじゃよ。おぬしを呼んだのは、ほかでもない。第二の人生を歩んでもらうためじゃ」
神様は、白い髭をゆらしてニコニコしている。
「第二の……人生?」
「うむ。このまま絶望のまま終わってしまうのは、わしとしても見てられんかったからの。せめて、おぬしの『好きなこと』を活かせる世界に送ってやりたいと思ったんじゃ」
「好きな……こと……?」
言われて、思い出した。
昔、一人暮らしのベランダで、ハーブを育てていた。
ローズマリーやカモミールの香りに、ほんの少しだけ救われた日々。
あのときだけは、心が落ち着いた。
「その“感覚”を大切にするとええ。新しい世界では、おぬしは“薬師”として生きてもらう。ハーブや薬草を扱うことに、特別な才能を授けておいたぞ」
「……わたし、そんな……できるかな」
「できるさ。心配なら仲間もできるようにしておいた。あ、あと猫も連れていってやろうか?」
「……えっ?」
神様が指をパチンと鳴らすと、わたしの腕の中に、あの黒い猫が現れた。
毛並みもふっくらしてて、眠たそうにしている。名前を呼ぼうとして、口が自然に動いた。
「ミナト……」
猫は「にゃあ」と短く鳴いて、わたしの胸元に顔をうずめた。
その温もりが、確かに生きているって教えてくれた。
「さあ、行きなされ。新しい名前は……“リィナ”。リィナ・アーベルじゃ」
――そうして、わたしは新しい世界へと落ちていった。
白い光の中、ふわりと浮かぶようにして、草と土の匂いがする“生きてる世界”へ――




