第19章「ノア、昔の知り合いに会う」
晴れた日の午後。
リィナたちは、町の広場で開かれる小さな市に出かけていた。
ハーブの苗を見たり、カナリアが屋台で焼き菓子を買って喜んだり。
それぞれに楽しんでいた、そのとき――
「……あれ、ノア……?」
背後からかけられた声に、ノアの肩がピクリと動いた。
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振り向くと、そこには立派な服を着た青年が一人。
赤毛に金の縁のマント、腰には細身の剣。
「やっぱりお前だよな。……“ノア・セルヴァン”」
青年の言葉に、カナリアは「え?」と首をかしげ、
リィナはそっとノアの横顔を見た。
ノアは、無表情のまま口を開いた。
「……久しいな、レオン」
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その青年――レオンは、王都の騎士団に所属しているという。
「ずっと行方がわからなかったんだぞ。あれだけの腕前のやつが、突然姿を消して……」
「……俺には、こっちの方が合ってると思っただけさ」
レオンが眉をひそめる。
「でもお前、本当にこんな場所で何してるんだ? こんな田舎で薬師の手伝い? もったいないよ」
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その言葉に、リィナが小さく反応した。
でも、何も言わず、ただノアの背中をじっと見つめていた。
ノアは少しだけリィナを振り返り――
「……もったいないとは思わない。今の暮らしは……俺にとって、意味があるから」
「へぇ……変わったんだな、お前。じゃあ、またな」
レオンは軽く手を挙げ、去っていった。
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沈黙の中、カナリアがぽつり。
「な、なんかすごくカッコよかったけど、誰だったの……?」
ノアはため息をついて、帽子を目深にかぶった。
「昔の……同僚、みたいなもんだ。王都の、な」
「やっぱりすごい人だったんだ……」
リィナがぽつりとつぶやいた時、ノアは少しだけ照れくさそうに笑った。
「……今は、ただの護衛兼、掃除係さ。……それでいい」
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帰り道、リィナはノアの隣にそっと寄った。
「……ありがとう、いてくれて」
「……こっちの台詞だよ」




