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治癒術師の非日常─辺境の治癒術師と異世界の魔術師による運命物語─  作者: 物部 妖狐
第一章 【日常から非日常へ】

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第23話 束の間の休息

「ルードのことでさ、話したいことがあるんだ——」


 異形の存在へと成り果てた、継ぎ接ぎだらけの両親のアンデッドがただの死体へと戻った時、ルードはひどく取り乱していた。

何も感じない怪物なら、あんな反応はしない。


「だからさ、止めを刺す前に話を聞いてもいいんじゃないかな」

「……そうですか」


 アキが何かを考えるように眼鏡に軽く触れると、そのまま弓を構える。

次の瞬間、放たれた魔法の矢がルードの肩を射抜き、血の花が咲いた。


「アキさんっ! どうして!?」


 ルードは射抜かれた肩を押さえたまま、悲鳴も上げられずに崩れ落ちる。


「いいですか。これは仕事です。ルード・フェレスが何を考え、何を思ってこんなことをしたのかは関係ありません」

「だからって——」

「私とケイは、死人使いを討伐するためにここまできて、あなたたちは巻き込まれたとはいえ、協力者としてここにいる意味を理解していますよね?」

「……つまり、どんな事情があっても殺すと?」


 仕事だというのはわかっている。

けど……小さな子供に対して、どうしてここまで容赦のないことができるのか。


(……二人のことを嫌いになりそうだ)


 ぼくの考えが幼稚だと言われたら、そうなのだろう。

けど、例えそう思われたとしても、ぼくは自分の決断が間違ってはいないと信じている。


「……とはいえ、私も正直な気持ちを言いますと……子供が死ぬのは見たくないので、少々小細工をさせていただきました」

「小細工って、アキさん。あんた……何をしたん?」

「この端末の情報は、対象の生命反応が一定以下まで弱まると、死亡したものとして更新されます……こちらを見てください」


 アキが本の中から端末を取り出し、ぼくたちに向ける。

そこには【元Aランク冒険者 死人使い:ルード・フェレス 討伐完了】と表示されていた。


「……つまり、ルードはまだ生きているってこと?」

「はい。ですが、適切な処置をしなければ……後は言わなくても、あなたならわかりますよね?」

「レース、あの子を助けることって……できる?」

「とりあえず、できる限りのことはやってみるよ」


 ルードへと近づくと、長杖の先端を傷口へと当て魔力の波長を合わせていく。


(これくらいなら……すぐに治せる)


 けど、血を失い過ぎているから、傷を塞いだとしても輸血をしないと危ない。

自分の魔力を血液に変換して、危険な状態を脱するまで治療を続けていく。


「レース、大丈夫?」

「——なんとか」


 大量に魔力を消費したせいで眩暈に襲われ、その場に膝をつく。

でも、おかげでルードの顔色がだいぶ良くなって、容態がかなり落ち着いてきた。


「無事に処置が済んだようで安心しました」

「アキさんさぁ、こうするつもりやったんなら先に言うてくれても良かったんちゃうの?」

「……あの場で私の考えを口にして、相手を油断させる必要はないでしょう? あくまでこれは仕事。必要以上に私情を言葉にするわけにはいかないんですよ」

「だぁもう、うちはそんなめんどくさいん嫌いだから、勘弁してほしいわ」


 コルクの言葉にアキは困ったように笑みを浮かべるが、向こうで寝息を立てているケイを見ると、不快げにまゆをひそめる。


「……私とケイは栄花騎士団最高幹部の中でも、穏健派と呼ばれる側の人間なので、今回はこのような対応にしましたが。お兄ちゃ——いえ、ハスのように感情で動く相手でしたら、こうはなりませんでしたよ」

「へぇ、お兄ちゃんがおるんやねぇ」

「い、今はそんなことどうでもいいじゃないですか。それよりもコルクさん、死人使いに魔封じの魔導具をつけて、先にレースさんの診療所に向かってもらえますか?」

「なんでうちが? こういうのは空間魔術が使えるダーの方が得意やろ」

「いえ、それだと護衛隊隊長のグランツさんに勘ぐられると、こちらが不利になりますので。元冒険者のあなたを斥候として森の奥へ行かせた、ということにした方が自然でしょう?」


 確かにそれなら、仮に疑われたとしても理由としては自然だろう。

けれど、コルクはその考えに納得していないようで、すぐには頷かず、考え込むように視線を巡らせると——


「いんや、ダーがAランク冒険者だってことを町の奴らは知らんから、森を歩きなれていないせいで危険だった。だから、途中で帰したってことにした方が、状況的にはええんちゃう?」

「——それだと……いえ、確かにそれなら、死人使いの姿を誰かに見られることもないですね。すみませんが、ダートさん、お願いしてもよろしいですか?」

「う、うん。わかりました……レース、コーちゃん、またあとでね」


 ダートが静かに頷くと、指先に魔力の光を灯し、目の前の空間を切り裂いて、診療所へと続く道を作り出す。

そして、意識のないルードを背負い、その道を通っていく彼女を皆で見送った時だった。

場の緊張が解け、身体の力が抜けたのと同時に、ぼくの肩をコルクが何も言わずに掴んだ。


「疲れてるとこ悪いやけどさ。あの異形の化物に掴まれた時に、腕をやられたみたいでめっちゃ痛いんよ……だから、治してくれへんかな」


 魔力を使い過ぎたせいで、立っているのも辛いんだけど、と心の中でぼやきつつ、治癒術でコルクの傷を癒していく。

幸い、綺麗な折れ方をしていたおかげで、ぼくの負担は少なかったけど……今日はもう、疲れたから誰の治療もしたくない。


「ありがと、だいぶ楽になったわ」

「——うん」


 コルクのお礼に何とか返事を返すと、その場に座り込む。


「レースさん、おつかれさまです。とりあえずはそうですね……ケイが起きるまで」

「そうしてもらえると嬉しいよ」


 周りが死体に戻ったアンデッドばかりの場所で、気が休まるのかはわからないけど、座って休めるだけでもましだろう。

そう思って、二人と雑談をしているうちに、いつの間にか陽が暮れ始めていた。

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