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【改稿版】治癒術師の非日常─辺境の治癒術師と異世界の魔術師による運命物語─  作者: 物部 妖狐
第一章 【日常から非日常へ】

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第22話 治癒術師としての本領

 異形の腕とケイの大剣がぶつかり、金属音が深い森に響き渡る。

ダートの空間魔術で作られた不可視の障壁が、残る攻撃を音もなく受け止めていく。


「これは……うちが入っても足手まといになりそうやね」


 ケイの攻撃の隙間を縫うように、アキの矢が異形に突き刺さる。

一瞬だけ動きが鈍る。けど次の瞬間、四本の腕が暴力の嵐となって、ぼくたちに向かって降り注ぐ。


(……このままだと、どんどん不利になるだけだ)


 ぼくにできることを必死に探す。

けど、ここでぼくが前に出たらケイの邪魔をすることになる。

コルクみたいに、自分が足手まといになると分かっていても、その中で役割を果たそうと動くことが、ぼくにはできない。


「なぁレース? とりあえずあんたが使った短剣を回収してきたけど……うちに良い考えがあるんよ」


 いつの間にかすぐ傍まで戻ってきていたコルクが、アンデッドに刺したままだった短剣を手に、耳元でささやく。


「あんたの新術で、あの化け物を何とかできたりする?」

「たぶん、できると思う」

「……よし、なら決まりやね。今からあいつに刺してくるから——頼んだよ」


 短剣を構えたコルクが、魔術で作り出した分身と共に、姿勢を低くして二手に分かれ走り出す。


「——っ!くっそ!」


 ケイとアキの攻撃の間を狙い、コルクが異形へ飛びかかる。

けれど次の瞬間——二本の腕が伸び、分身もろともまとめて掴まれ、握り締められていく。


「コルクっ!」


 苦しげな声と共に吐血をするコルクを見て、ぼくは叫んでいた。


「コーちゃん!」


 ダートの悲鳴が重なる。

その瞬間、魔術で作られた不可視の障壁の一瞬だけ途切れ、振り上げられた拳がケイの大剣を叩く。


「こんのぉっ!はなせぇ!」


 コルクが悲鳴交じりの絶叫とともに、短剣を投擲し異形の胸に深く突き刺す。


「レースっ!早くしてっ!」


 その言葉に応えるように、ぼくは急いで治癒術を使う。


(異形のアンデッドの体内構造は、継ぎ接ぎの肉体以外……人のそれと変わらない、ならぼくの領域だ)


 接がれた腕を内側から、魔力で生み出した刃で切り落とし、握り締められているコルクを解放する。


「……ぼくのお父さんとお母さんに、どうしてそんな酷いことをするの!?」


 ルードの悲鳴にも似た声とともに、異形が再びコルクを掴もうと残された腕を伸ばす。

けれど、ケイの大剣とアキの矢に妨害され、彼女が後退する時間を稼いだ。


「……ごめん皆、うちはもう役に立てそうにないわ」


 コルクが苦しげに呟くと、その場に膝をつき、荒い呼吸を繰り返す。

できれば今すぐにでも治療を施したいけど、この状況では無理だ。


「まさか……あの異形、死人使いの親御さんっすか!?」

「ルード・フェレス、死霊術を使って実の親をアンデッドにするだなんて、幼いとはいえ、まさかここまでとは思いませんでした」

「よくもっ! よくもぉっ!」


 怒りで我を失ったルードを守るように異形が前に出る。


「……これは、やりづらいっすね」


 まるで子供を守る親のように両腕を広げる。

その姿に一瞬だけ胸が痛むけれど、ダートを守ると決めた以上、ぼくはこの子に情けを掛けることはできない。


(——治癒術で身体を直すということは、それと同じくらいに壊すこともできる)


 継ぎ接ぎだらけの異形の身体が全て切り離され、物言わぬ屍へと戻って行く。


「……えっ?」


 何が起きたのかも分からないまま、ルードはうつろな瞳で立ち尽くす。


「うっわぁ……これだから戦場で治癒術師を敵に回したくないんすよ。生きてようがアンデッドだろうが、身体があるならこうなるんすもん」

「これで戦うのが苦手ってさ、説得力ないってダーもそう思わん?」

「えっと……その、私はかっこいいと思うよ?」


 いつの間にか応急処置を終えていたコルクが、引きつった笑みでダートを見る。


「あんたさぁ、自分の思いを自覚したからって、いくらなんでも盲目過ぎやろ」

「盲目って……なんでこんなところで、そんなこというの? コーちゃんの意地悪っ!」

「ごめんっ!ごめんって、だからそんな怖い顔せんといてよ」


 まだ戦いが続いているというのに、何の話をしているのだろうか。


「えっと——まだ戦闘中なんすから、油断するのは止めて欲しいんすけどね」

「え、あ……ごめんなさい」


 ケイが大剣を自身の影の中にしまうと、樹を背にして座り、深く息を吐く。


「ケイ、傷の方は大丈夫ですか?」

「あぁ……いんや、ダメっすね。 少しでも気を抜いたら意識が飛びそうなんで、死人使いへの止めを任せてもいいっすか?」

「……はい。任されました」


 アキが弓を構え、魔法の矢をルードへと向ける。


(このままルードを殺してしまうのは、なにか違う気がする)

 

 どうしてこの子が、世界の禁忌に触れるようなことをしたのか。

栄花騎士団最高幹部の彼らからしたら、これが仕事なのだと分かっているけど、ぼくからしたら違う。

何も知らないまま、死なせたくない。


「——レースさん。あなた、その行動の意味を分かっていますか?」


 気が付いたら、アキの前に出て両腕を広げていた。

彼らからしたら、ぼくの行動は裏切りに見えるかもしれない。

けど、それでも——


「止めを刺すのを待ってもらっていいかな」


 ケイが何かを察したかのように、ぼくへと目配せをしてゆっくりと目を閉じる。

ダートが不安げな表情を浮かべて近づこうとするけど、コルクがそれを静止した。


「……止めるということは、何かそれ相応の理由があるのですか?」


 この場の主導権が、完全にアキへと変わったのを感じて、背筋に嫌な汗が流れる。

返答次第では、ぼくごと射貫きそうな視線に思わず息を呑んだ。

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