第18話 栄花の魔導具
日常が壊れて、非日常がやってくる。
不安なはずなのに、気付けば少し楽しくなっている自分がいた。
(ぼくの新術は、どこまで指名手配犯に通じるのかな)
そんなことを考えながら、皆と一緒に森を進む。
ぼくはダートやコルク、栄花騎士団の二人と比べたら強くはない。
精々、自分の身を守ることができるくらいだけど、もしかしたら、新術がうまくはまれば、指名手配犯だって倒せるかもしれない。
「——詳しい内容は、書類の通りですが。【死人使い】ルード・フェレスが、ここフェーレン領の辺境開拓村……いえ、辺境開拓町クイスト付近にて、目撃情報がありまして……」
「護衛隊の隊長……グランツのおっさんからの協力要請に応えるついでに、捜索をしようって思ったんすよね」
二人の説明を聞いていて思うけど、目撃情報があったとはいえ、こんな辺鄙な所に長くいるわけがない。
(部外者が来たら、嫌でも目立つし、ぼくの診療所に来る患者さんや、遊びに来たコルクが教えてくれるはず)
ということは、目撃情報は嘘かもしれない。
そう考えたところで——
「なぁなぁ、それってなんかおかしいと思うんよ。ダーはともかく、レースも違和感を覚えてるんやない?」
「え? あ、あぁ……うん、そうだね。指名手配されるほどの危険人物の目撃情報があったなら、ぼくの耳にも入るだろうし、護衛隊の人たちが騒いでるんじゃないかな」
「……騒ぎはしないと思うけど、やっぱりこの話——変だよねぇ」
ぼくに意見を求めたコルクが、二人を睨みつける。
すると困ったように、後頭部をケイが搔きむしり。
「アキさん、やっぱ俺……嘘はつけないっす」
「へぇ、嘘……ついてたんやね。なんでなん?」
「それは……ほら、こちらの事情に巻き込んだとはいえ、事情を全部話すわけにはいかないんすよ」
腰に下げた道具袋から、ケイが板状の物を取り出す。
「ケイ、あなた。これをレースさんたちに見せることの意味が分かって——いるんですよね?」
「何か問題が起きても、俺なら大丈夫っすよ、多分。それに……今さら隠しても遅いっすし」
ケイの言葉に頷いたアキも、本の中から同じ板状の物を取り出す。
指を上で滑らせるように何度かしていると、淡い光を放ち始める。
「この光る板に、なんの意味があるん?」
「あぁ……これは、栄花騎士団の最高幹部だけが持つ。特別な魔導具っす」
アキは、ぼくたちにも分かりやすいように魔導具を向ける。
板の上には、さっき見せてもらった指名手配書と同じ内容が浮かび上がる。
「レース、これってどうやって使うのかわかる?」
ぼくの手を引きながら、ダートが興味津々に魔導具を覗き込む。
「……わからない、かな」
「それでしたら、こちらの画面……いえ、魔導具に表示されている指名手配書がありますよね。そこでルード・フェレスの名前に指で触れてください」
「こ、こう? うわぁ……すごい!」
アキの指示に従って、ダートが名前に指で触れる。
すると魔導具から、ルード・フェレスの顔が宙に浮かび上がり、彼が今どこにいるのかが、大まかに表示される。
(これって、どういう原理なんだろう。もしかして、魔力の反応を追ってる? ……でも、人の居場所がこんなふうに見えるなんて)
宙に浮かび上がった映像に、ダートが手を伸ばして触れようとする。
「へぇ、触れない……凄いなぁ、ね?レースもそう思うよね? コーちゃんも!」
「せやねぇ。ねぇねぇアキさん、これってうちに売ってくれるとしたら、どれくらいになるん?」
「いえ、あの……これは売り物ではないので、とりあえず魔導具の詳しい説明させて頂きます」
アキは倒木の上に腰を下ろすと、本を開き、中から一枚の紙とペンを取り出す。
「その本、なんでも出せるんやね」
「えぇ、空間収納の魔術が付与された魔導具でもあるので、便利ですよ?」
物を取り出すたびに、本を開くのは本当に便利なのだろうか。
ここで指摘するのは違う気がするけど、今は話を聞くために黙っていよう。
そう思ったのに、隣で興味深そうに身を乗り出しているダートを見ると、張っていた気が少し緩んでしまいそうになる。
「さて、まず——コルクさんとダートさんはご存じかと思いますが、こちらは冒険者登録の際に記入する契約書になります」
話しながら、アキは契約書へさらさらと文字を書き込んでいく。
しばらくしてペンを本の中に戻すと、契約書をケイに渡す。
「まず、こちらに名前を記入し、専用の魔導具で本人の魔力を登録します。そうして契約者の情報を管理し、冒険者資格証としてギルドカードを発行する仕組みになっています」
ケイが、契約書をぼくたちに見やすいように広げる。
そこにはアキさんの名前と魔力属性が記され、その下に今説明された内容が整った文字で並んでいた。
「登録された情報は、冒険者ギルドを介して栄花騎士団へ送られ、冒険者が問題を起こした場合、ギルド職員や栄花騎士団の団員が対応するということになります」
「……それってさ、コルクはともかくとして、ダートは知ってるの?」
冒険者になった時はまだ、ダートはこの世界に来たばかりだったはず。
本当に内容を理解した上で登録できていたんだろうか……そう思うと、胸のあたりが少し落ち着かない気持ちになった。




