第17話 指名手配
【死人使い】という二つ名があるということは、ダートのように実力のある高ランクの冒険者の可能性がある。
けど、なぜそのような人が、このような場所にいるのだろうか。
「……で?説明してくれるんか?」
コルクはそう言うけれど、ここで栄花騎士団の事情を知ってしまったら、後戻りができなくなってしまう気がする。
いや……そもそも、同行している時点で手遅れなのかもしれない。
(仲間として、命を預ける以上……そういう隠し事はしてほしく無いんだけどな)
とは思うけど、言葉にする勇気はない。
「——よって、此度の開拓は今まで以上に、危険が伴うと予測し……俺から直接、村長と領主に指示を仰ぎ、なんとっ!特別に外部の人員に協力を頼むことになった!」
護衛隊の隊長グランツが、地面に突き刺した大剣から手を離すと、ぼくたちの元へ歩いて来る。
「ここにいる二人が今回の協力者だ!なんと——あの【栄花】から、フェーレン領へと視察に来ているタイミングだったのだが、協力していただけることになった!!」
アキとケイの前に立つと、ぼくたちに向かって手で追い払うような仕草をする。
少しだけむっとしたけれど、ここで問題を起こすわけにはいかない。
コルクも同じ考えなのか、こちらを見て静かに頷き、邪魔にならないように後ろに下がる。
「栄花の国が誇る、栄えある栄花騎士団の最高幹部、アキ様とケイ様だ!そして……俺の近くにいる三人は、ただの荷物持ちだから気にしないでいい」
「ちょ……荷物持ちってどういうこと——」
「黙れっ!荷物持ちと話す言葉はないから黙っていろ!……すまない、話がそれた。栄花騎士団のお二人が、アンデッド討伐を責任をもって担ってくれるから、貴君らはいつも通りの作業に従事するように、以上!各々作業につけ!」
指示に従い護衛と開拓に参加する人たちが、何も言わずに森の奥へと入っていく。
(……荷物持ちって、話が違うけど?)
と思うが、ここでグランツの前で口にする勇気はない。
こういう時、コルクのように直接文句を言えたら、どれだけいいだろうか。
「……すみませんが。私たちの立場を明かさないで欲しいと、お願いをしたはずですが?」
「ん? そうであったな。けどなぁ……栄花騎士団のアキ殿にケイ殿。俺はこのクイストを守らなければいけない立場にあるのだよ」
「理由は分からなくはないんすけど、それなら事前に報告して欲しかったっすね」
「……その場に合わせて“都合よく”判断せねばならん。俺のような護衛隊の隊長よりも、大きな組織に属している君たちなら分かるだろう?」
どう返事を返せばいいのか分からなくなってしまったのか。
困惑した表情で顔を見合わせる二人を無視して、グランツが大剣の元へと歩いていくと、地面から引き抜いて森へと入っていく。
「あのさぁ、うちら荷物持ちらしいで?」
「ちょっと、これはさすがに私たちに対して失礼だと思うんだけど……だって、最初にレースに協力を仰いだのは護衛隊の人たちでしょ?」
「そうだね……けどほら、ぼくが失礼な断り方をしてしまったから、そのせいでグランツさんに嫌われたんだと思う」
護衛隊の隊長という立派な立場にいる人が、初対面の相手に失礼な態度を取るとしたら、間違いなくそういうことだろう。
「いや、それは無いと思うっすよ?じゃなかったら、俺たちに対してあんな態度を取る必要もないかと」
「……どうやら自己顕示欲が強い人みたいですね。こんなことなら、開拓に同行せずに皆さんに、初めから事情を話してついて来てもらった方が良かったかもしれませんね」
そう言葉にしながら、ブックホルスターから本を取り出すと、中から書類を取り出し、ぼくたちに見えるように広げてくれる。
「……へぇ、これがAランク冒険者のルードなん?ずいぶん可愛らしい顔しとるんやねぇ。……で?こんな子に指名手配書が出てるってことは、余程のことでもしたん?」
コルクが書類を見ながら、アキへと質問を投げかける。
何度か口を開いては、ぼくの方を見て、どう言葉にすればいいのか迷っているかのような仕草をする。
「なんなん?言いづらいことでもあるんか?」
指名手配書の罪状欄にある【禁忌に触れた】——それが、言い淀む理由だろうか。
話しづらいのなら、こちらから質問できるように、まずは内容を正確に押さえるべきだろうと思い、指名手配書の罪状欄を目でなぞる。
『以下、ランクA冒険者
【死人使い】ルード・フェレス
【闇天の刃】ミュカレー
【紅獅子】ケイスニル・レイフ
【死滅の霧】スイ
【幻死の瞳】グロウフェレス・フェルシェン
【炎精】ガイスト 世界の禁忌に触れ、世界の理を崩そうとした罪により
冒険者資格の剥奪、ならびに世界反逆罪とし、生死を問わず身柄の確保を求める。
また、此度の件に関しS級冒険者【黎明】マスカレイド・ハルサーの関与は確定している。
さらに、共犯として裏にもう一人のS級が存在する可能性が高い。
よって【黎明】マスカレイド・ハルサーの身柄は、生きて確保せよ。
確保後、あらゆる手段を用いて、関係者および計画の全容を吐かせること。
抵抗、逃走、または確保不能と判断した場合は、討伐を許可する。』
名前の横には、簡素な似顔絵が添えられていて、森に潜伏しているであろうルードの顔に、目が釘付けになる。
(……幼い。まだ子供じゃないか)
年齢が二桁に達しているかどうか。そんな容姿に、言葉が詰まりそうになる。
だがアキもケイも、そしてコルクでさえも、そこには頓着していないらしく。
目配せをすると、近くの切り株に腰を下ろす。
「本来、Cランク冒険者までなら冒険者ギルドの職員や、栄花騎士団の団員が出向き、指名手配された元冒険者の討伐を行うのですが。今回は高ランクが相手なので……」
「そのせいで、最高幹部が表に出ざるを得なくなったわけっすね。……まったく、視察が終わったら休みのはずだったのに、全然休めないっすよ」
「……事情は分かったけど、あんたらも大変なんやね」
事情を説明してくれるが、隣にいるダートが眉をひそめ、ぼくの手を強く握りしめる。
「……レース、マスカレイドさんが指名手配されてる」
と小さな声で囁く。
(マスカレイドのことだから、何をやっていても不思議じゃない)
むしろ、今まで討伐されていなかった方が不思議なくらいだ。
魔術と治癒術、そして機械技術を結びつけて、魔科学という学問を生み出し、人類の暮らしを助ける魔導具を作り上げた功績は本物だ。
けれど、あの人はいつだって自分の視線の先にしか興味がない。
【まだ見ぬ世界を手に入れる】——その異常な知識欲を満たすためなら、周りを巻き込むことも、壊すことも、きっと“必要な犠牲”の一言で無慈悲に片づける。
でも、あの人は功績の分だけ、他人の事情を見ない。
【まだ見ぬ世界を手に入れる】——その欲望のために、巻き込んで、壊して、それでも前に進む。
(……ダートがこの世界に来ることになったのだって、たぶん同じだと思う)
どうせ、異世界の知識が欲しくなった。
理由なんて、きっとその程度で、更には自分が知らないことが許せない性格が悪さをして、止まれなくなったのだろう。
その結果、マスカレイドが師匠を巻き込んだ実験の被害にあったダートが、家族と強引に引き離されて、この世界に来てしまった。
これさえもどうせ、必要な犠牲としか思っていないはず、そうでなかったら暗示の魔術だなんて危険なものを、彼女に教えるわけがない。
「……ということなんで、聞いた以上は、俺たちの協力者として動いてもらうっすよ」
「な、あんた、うちらはそこまでするとは言ってないで?」
「言ってないもなにも、指名手配書を見て、俺たちの事情を聴いて……無関係でいられるわけないじゃないっすか」
「……あんたら、はめよったな?」
ケイの言い分は正しい。
正しいのに、コルクに任せて何もできない自分に対して、腹が立つ。
けど、聴いてしまった以上、無関係ではいられない。
ケイとアキに協力するか、それとも無責任に引き返すのか、悩んだふりをしたところで、選択肢は最初から一つしか残っていない。
「皆さん、本当に申し訳ございません。……できれば協力して頂けると、こちらとしては助かるのですが、とりあえず今は一緒に来てください。道中でもお話したいことがあるので」
「ってことなんで、いくっすよ! ほらっ、駆け足っす!」
……あまりの話に、ぼくたちは言葉を失い、森の奥へと走っていくケイを無言で見つめるしかなかった。
ケイとアキなら、こういう手合いと戦い慣れているのかもしれない。
元冒険者のコルクや、現役のAランク冒険者のダートなら、戦力になるだろう。
けど、もし……指名手配犯と戦うことになったら——実戦経験が乏しいぼくは、ダートを守れるのだろうか。
暗示の魔術を使わせないでいられるのだろうか。
そう思っただけで、不安が胸の奥を締めつけてくる。
まただ。
ぼくたちの日常が崩れて、非日常が押し寄せてくる。
(……どうしてこうなるんだろうね)
気づけば、口の端が少しだけ持ち上がっていた。




