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【改稿版】治癒術師の非日常─辺境の治癒術師と異世界の魔術師による運命物語─  作者: 物部 妖狐
第一章 【日常から非日常へ】

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第16話 悪い話と良い話

「良く集まってくれたっ!貴君らの忠義にフェーレン領の領主殿も、心から感謝している事だろう!」


 大剣を地面に突き刺したまま、男は大きく胸を張って声を張り上げた。

その声は森の木々を震わせるほど大きく、まるで周囲の全員に聞かせるための宣言のようだ。


「既に存じている者もいると思うが、私は護衛隊、隊長のグランツである!……ところで、良い話と悪い話がある。どっちから聞きたいかっ!」


 いきなり良い話と悪い話があると言われても、正直どっちにも興味が無い。

けど、ここでそのことを言葉にしてしまったら、話が進まなくなる気がするから、ここは黙っておいた方がいいだろう。


「……大剣を地面に突き刺すとか、武器を大事にできない最低な野郎っすね。気に入らないっすね」

「ケイ、今は静かにしてください」


 二人が何か言っているのが聞こえるけど、今はいくら気に入らないからって、言葉にはしない方がいい。

アキさんがいるから大丈夫だとは思うけど、護衛隊の隊長の耳に入っていたら大問題になる。


「……貴様ら、俺の言葉に黙っているとは、自分の意思はないのか!」


 とはいえ、黙って護衛隊隊長の言葉を聞く姿勢を取っているだけで、いきなり怒り出すのはどうかと思う。

正直、こういうめんどくさいタイプの人とは、出来れば関わりたくない。


「なら勝手に話させて貰うぞ!まずは悪い話から話してやる!貴君らも存じている通り、開拓予定の場所には手ごわいモンスターがいるのだが、今回は……なんと、あろうことかアンデッドの存在が確認された!」


 アンデッドという言葉を聞いて、周囲がざわめき始める。


(……アンデッドか)


 アンデッドが出現するのは、大まかに二つ。

人の死体に死者の魂が宿り、生者を襲うことで自らの肉体を作り上げ、進化を繰り返していくモンスター。


 もう一つは死霊術と呼ばれる、禁術と呼ばれるほどに危険な術を使うものだ。

生命を失った死者に仮初の命を与え使役している以上、肉体の維持には魔力が必要になる。

術者が魔力や意識を途切れさせない限り、相手は何度でも立ち上がる……つまり、術によるものなら、この森の奥に術者がいる可能性が高い。

皆の安全を考えるなら、まず護衛隊で術者を探して、安全を確保した方がいいのではないだろうか。


「……死霊術師だったらやっかいやね。術者の魔力か意識が途切れない限り、こちらが不利になるし、何よりも無限湧きやん」


 コルクの言うように、死霊術で作られたアンデッドなら厄介だ。

モンスターだったら討伐してしまえばいい、けど……死霊術師が関わっているのなら、話は変わってくる。

死者に魔力で作った、仮初の命を与えて蘇らせている以上、近くにいるであろう術者を止めなければ、どうしようもないし、無理に開拓を進めても、いたずらに被害が増えるだけだ。


「……まさか、あいつらがアンデッドに」


 周囲のざわめきが徐々に大きくなり、誰かが掠れた声で呟く。

開拓に同行してきた人たちからしたら、モンスターからの被害で数えきれない程の死者が出ているのも知っているはず、中には自分たちの身を守るために、遺体を森に置いて行かなければいけない状況もあっただろう。

……今の彼らの頭の中ではきっと、そんな仲間たちの姿が映っているのかもしれない。


「ねぇ、レース……」


  ダートが震える声で、ぼくの手を強く握る。

アンデッドが怖いのだろうか、少しだけ震えている彼女の手から感じる感覚に、少しだけ不安になる。


「ここにはぼくもいるしコルクや栄花騎士団の二人もいる、大丈夫だよ」


 とは言うけれど、予想もできない何かがあった時、ダートに暗示を使わせずにいられるだろうか……。


「落ち着けっ!まだ良い話も残っているぞ!……ごほん、実はだな、この度我々の努力が実を結び、ファーレン領の領主から、開拓村から町へ移行することとなった。喜ぶがいい!」


 先に、あまりにも悪い話を護衛騎士隊長がしてしまったせいで、いくら良い話をしてくれても、誰の耳にも届いていない。


「なぜ喜ばない?町になるということは、産業も発展するということだぞ?考えてみろ、今よりも外から人がやってくるし、開拓に挑もうとする者も沢山くるであろう!貴君らの生活がもっと楽になるのだぞ?」


 まるで気にしていないとでも言いたげに周囲に声を掛けるけれど、周囲の雰囲気は暗いままだ。


「……先輩、どうやら団長の予想通り、ここにいるみたいっすね」


 けど、その雰囲気を壊すかのように、かろうじてぼくの耳に聞こえる声で、ケイがささやく。


「えぇ、【死人使い】ルード・フェレスね」

「はい、捕縛……または討伐の対象っす」


 死人使い、それに捕縛、討伐という聞きなれない言葉に、思わず彼らの方向に振り向いてしまう。

ただ、それはコルクも同じだったようで、鋭い目つきで二人へと近づいて行く。


「なぁ、お二人さん?それってどういうことなん?あのさぁ、うちらは開拓に同行するだけだったはず……だったけど?」

「いえ、こちらに関しては私たちの事情なので、気にしないでください」

「……事情とはいえ、こうやって巻き込んでる以上は、説明はしてくれるんよね?」


 開拓に同行するだけだったはずなのに、なんだか不穏な気配がしてきた。

アンデッドと遭遇した時に、ダートに暗示を使わせずに守ることができるだろうか……。 

そう思いながら、彼女を手をぼくは強く握り返した。



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