09 第3?の事件
《さあ、変身だ!》
またしてもモンスターマスクの男による殺人事件が発生した。
今度は都心の夜の繁華街、
深夜1時。
華やかなネオン街から小路を奥へ。すると小路と小路が複雑に交わった一角に三角形の古いビルがあった。4階建ての3階に、深夜も営業している金貸し屋があった。表で遊んで、つい羽目を外して、財布の空になった客が青い顔で怖いお兄さんに連れられてくる非合法の高利貸しだ。
そういう店だからドアの前に強面の用心棒が付いていたのだが、そいつが
「あん? なんだてめえ?」
と一歩前に出たところで、ミシッと、胸骨ごと肺を潰されて声もなく絶命した。
ドアを開けて入ってきた男に
「うおっ、な、なんだてめえ?!」
「ひいっ、な、なんだい、あんた?!」
中にもう一人いた用心棒の男と、金貸しの婆さんがそれぞれ驚きの声を上げたが、
男は頭を掴まれると膝蹴りを顔面に叩き込まれ、もんどり打って倒れ、ぴくぴく痙攣して、すぐに動かなくなった。
「ひいっ、ひええっ」
婆さんは慌てて部屋の奥に逃げたが、三角形の隅に追い込まれ、
「や、やだ、なんだい、あ、あっち行け! か、金なら、ほほほ、ほら、そそそそこに」
と机の上の手提げ金庫を指さし言ったが、男は、バキッと、大きな手で老婆の痩せた顔を三角コーナーに押し込んだ。ビチッと血が飛び散り、老婆はそこから動かなかった。
男は老婆が指さした手提げ金庫を開け、中から札束を掴みだし、ポケットに突っ込むと、部屋を出て、思い出したように廊下に転がる用心棒の死体を部屋に投げ入れ、ドアを閉めて立ち去った。
それから1時間後の深夜2時。
表のネオン街で火事が起こった。1軒のビルの1階からボンッと爆発音が響いて火が出て、激しく燃え、火災警報の鳴り響く中、2階以上の飲食店やマッサージ店から従業員や客たちが慌てて階段を駆け下り、煙の中から逃げ出してきた。平日深夜のことで既に閉まっている店も多く、客もそれほど多くはなかったが、周囲の店も含めて大騒ぎになった。
消防車がサイレンを鳴らして駆けつけ、消火活動を行った結果激しく燃えた火も4時間後には鎮火した。既に空が白々明けている。
火元と見られる1階のキャバクラに踏み込んだ消防隊員たちは絶句した。
黒こげの死体がごろごろ転がっていた。
しかし、どうもおかしかった。
店の女の子たちなのだろう、それぞれバラバラに逃げた様子はあるのだが、それがどうも、出口に向かって逃げたような感じではないのだ。その出口をふさがれて何かから逃げ回った挙げ句、一人一人、結局全員、火の出る前に殺されていたような、そんな印象を受けた。
そしてそれは詳しい検屍の結果証明された。
店の女の子12人、男性スタッフ7人、客の男性2人、全員がひどい暴力を受けて死んでいた。
店の奥の厨房のガスが爆発した火事は、おそらく、犯人が犯行の証拠を消すために起こしたものと思われる。
しかし。
店はすっかり燃えて黒こげになっていたが、ビルを管理する警備会社の防犯ビデオにエントランスを出入りする犯人と思われる黒いコート姿の男の姿が映っていた。
30代と思われる黒髪をぴっちりオールバックにした目つきの鋭い張り詰めた感じの顔の男だ。
体はコートの上からでも肩や胸板が見るからに筋肉質でがっしりして、アーノルド・シュワルツェネッガーのようだ。
そして。
その服装の人物がもう一つの現場のカメラに映っていた。
三角ビルにも出入り口を階段の壁から斜めに見下ろすカメラが設置されていた。犯罪すれすれのテナントを抱えておこがましいが、これが役に立った。
ビルの階段を上る、下りる、
モンスターマスクの男の姿が映っていた。
あの、ウルフマン未完成版の半獣のマスクだ。
マスクの男はここで大金を強奪し、キャバクラに遊びに入り、何が面白くなかったのかそれとも最初からそのつもりだったのか、店にいる人間を全員ぶち殺し、火を放って去ったのだ。
あのマンションの事件から5日後のことである。
このマスクの男がマンションで女性を強殺した男と同一人であるかは、マスクをしているので、分からない。
しかし新しい事件の犯人は素顔がはっきり映っているので、直ちに全国に指名手配され、新聞テレビにも大々的に顔写真を報じられた。
顔が分かっているのだ、
犯人逮捕は時間の問題のはずである。