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26 究極催眠

「バ、‥‥‥‥馬鹿な‥‥‥‥‥‥、いったいどういうトリックだ?」

 現れた男は、シュッと細面で、贅肉が無く、首と腹にたっぷり纏っていたたぷたぷの脂肪も、すっかり消えて、代わりに肩幅の広いがっしりした体格に変わっている。


 まったく、益口とは似ても似つかぬスポーツマンタイプの男だ。


 ただ、言われてみれば目だけが、益口のくっきり二重をぐっと吊り上げた感じか。


「トリックだと?」

 益口‥‥のはずの男は薄い唇を歪めてあざ笑った。

「トリックなんかねえよ。見たまんまさ。おまえら、自分の目も信じられねえのか?」

「ひ、人が‥‥」

 菅原が引きつった声で言った。

「人が‥‥、変身‥‥なんか、するわけない‥‥‥‥」

「ああ、変身なんかされたらあんたの商売上がったりだな?」

 益口はあざ笑った。

「俺は元々こういう顔をしている‥‥んだろうぜ? おまえらの安い特殊メイクと違って俺は別に普段脂肪スーツを着ているわけじゃねえ。状態が、違うだけでな。どっちも本当の俺なんだよ」

「あり‥‥得ない‥‥‥‥」

 尚も信じられない菅原を益口は馬鹿にして笑った。

「人間ってえのは毎日鏡を見て、多かれ少なかれ自分で顔を『矯正』しているものなんだよ。俺は、自己催眠を掛けることによってそれを極端にできるのさ」

「自己催眠だと?」

 衣川もまだ疑いながら油断無く益口を睨みながら訊いた。

「それで脂肪を自在に操れるって言うのか? おまえ、もしかして、今俺たちに催眠術を掛けてないか?」

 菅原もハッとそうに違いないと思った。

 だが益口はあざ笑って言った。

「だから、そんな安いトリックはねえよ。俺の天才的な催眠術は自分の肉体もそう『思い込ませる』ことが出来るのさ。

 信じられねえなら、もっと見せてやろうか? これが、

 そいつらに見せてやった、」

 と震える刀脇を見て、

「現実崩壊だ!」


 またスッと表情が消えて、

 くわっと目を見開くと、

「うおおおおおおお」

 顔をまっ赤にさせて力んだ。

 にょろっと額に図太い血管が走り、

 仁王のような怒りの表情が、ボコン、と肉となって盛り上がり、固定された。

 バリッ、バリバリバリッ、とワイシャツが裂け、ボタンが吹っ飛び、背広の肩が丸く盛り上がってブツブツ糸が切れて、バリッと、裂けた。

「うおおおーーー、おおっ」

 両手両足を踏ん張った益口は、変身を終え、ニヤリと見物人たちを見た。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 もはや言葉もない。清水は白目を剥いてふらふらして、とうとう気を失い、菅原と衣川は悪夢の光景に目を見開き、必死に自分の現実を見失わないように心で格闘した。


 益口の第2段変身。

 現れたのは、刀脇と同じ「ウルフマン・スリー」のモンスターだった。


 菅原はつぶやいた。

「マスクじゃ‥‥なかったんだ‥‥‥‥‥」

 キャバクラに入店した益口は、その前にマスクで変装して三角ビルの金貸しを襲ったわけではなく、恐らく、キャバクラ店内でもこうして変身して、店内の女の子たちを襲い、皆殺しにしたのだろう。

 本物の凶暴なモンスターの面相に菅原は思わずブルッと震えた。

 益口のモンスターはその様子に満足そうに笑った。

「今度は信じてもらえたようだね?

 そういうことなのだよ。

 ゲームを渡した連中にはこうして変身して見せ、彼らを閉じ込めている『現実の檻』をぶち壊し、彼らにも、わたしのように『変身』出来る、と催眠術を掛けてやったのさ。ただ、彼らのレベルではわたしのような本物の変身は出来ないのでね、代わりに変身セットをおまけに付けてやったという訳さ。

 『スーパーウルフマン』のゲームをやりながら、徐々に自分も変身していくように思い込ませ、クリアすることによって、変身が完成する、という風にね。ハハハ、モンスターのマスクを被ってモンスターになった気分で大暴れするなんて、子供時代のスーパーヒーローごっこを思い出さないか? ハハハハハ」

 衣川が訊いた。

「そのゲームは、SUNBRAINの磯坪に改造させたんだろう?」

「ああ、そうだよ。あいつも簡単だったなあ」

「コンビニで多田の替え玉になったのは誰だ?」

「さあ? わたしも名前なんて知らないよ。使えそうだと思った若い奴をホームレスに仕立てて差し向けただけだからな」

「そいつまで催眠術で操っていたのか? おまえを尾行していた刑事を刺した男は?」

「さあね? そいつも人を刺したそうな顔をしていたから、『あいつはデカだからぶっ殺しちゃえよ』ってけしかけただけでね」

「ちくしょう、やりたい放題だな‥‥」

「わたしは、」

 益口は威張った。

「万能だ!」

 情けなさそうに、

「女性以外にはね」


「さて」

 益口は、顔を覆った手の間から自分を覗き見ている刀脇を見て言った。

「手品の種を知ってしまったお客には、やはり消えてもらわなくてはならないな。おい、リッキー。秘密を公表されたくなかったら、証人をみんな消してしまえよ?」

 うん?と睨まれて、刀脇は震えながら、血走った目を菅原と衣川に向けた。

 菅原は、そうだ、と思いだし、言った。

「リッキー! 君は嘘つきの卑怯者なんかじゃない! 君は、立派な俳優だ! 俺たちは裏方で映画って言う世界を作る。リッキー、俳優の君も同じだろう? 映画会社の宣伝に問題はあったかも知れないが、映画の中の君は、本物だ! 現実の俺たちは裏でいいんだよ、だが、あんたの演じた主人公は、映画の中では、映画を見る人間の心には、本物なんだよ! 恥じる必要なんてない、俺は、あの映画を誇りに思っている! あんたといっしょに作ったあの映画を、誇りに思ってるんだよ! あんたも、誇りを持てよ!? こんな化け物野郎に、その誇りを踏みにじらせて、負けるんじゃねえよっ!!」

「うっうっ、ううっ‥‥‥‥‥‥」

 くわっと怒りを燃え立たせた刀脇は、

「うおおおおおおおっ!!」

 猛然とモンスターに襲いかかった。

「くそっ、」

 2匹のよく似たモンスターは取っ組み合い、‥‥‥果たして、変身した益口は姿の通りに強いのか?

 刀脇のモンスターは益口のモンスターの首を両手で掴んで絞めた。外からその腕を掴んでいた益口は、スッと下から腕を潜り込ませると、両手を上に掲げ、刀脇の首の両脇に激烈なチョップを叩き込んだ。刀脇は「ぐわっ」と顔を歪め、堪らず手を放すと、

「フン、」

 益口は左手で刀脇の頭を掴み、強烈なパンチを顔面に叩き込んだ。

 クワンと首を後ろに弾かれ、刀脇はひっくり返った。

「そういやさっきはこういうことをしてくれたな?」

 益口はドスン!と倒れた刀脇の腹に足を蹴り下ろした。

「うげえっ、」

 刀脇は苦しそうにうめいて体を跳ね上げた。益口はぐりぐりと踏みにじった。

「おい、タチワキ。きさま、この俺に本気でたてつく気か?」

 睨まれて、怯えながらも刀脇は怒りの目で睨み返した。

「そうかよ?」

 益口は冷たい目で言い‥‥


「益口いっ!いい加減にしろ!!」

 衣川刑事が拳銃を構えて益口の頭に狙いを定めた。

「おまえが本物の悪魔だってことは分かった。おまえが刀脇や俺たちを殺そうというなら、先にこっちが撃ち殺すまでだ!!」

 益口はジロッと衣川を睨んだ。

「あんた捜査は謹慎中だろ? 拳銃を持ち歩いているとは信じられないね?」

「どうかな? 一発勝負だ、試してみるか?」

 衣川は、ジリ、と、引き金に掛ける指に力を入れた。

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