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24 自供

「俺を、戻せえっ!!」

 刀脇はモンスターの手で上のボタンが2つはまらない益口のワイシャツの胸を掴み上げた。

 喉のたっぷりした肉がぎゅっと締め上げられて、益口は『うっ』と鯉のように口を開けた。

「俺を‥‥、元に‥‥‥‥」

 刀脇はぎりぎり睨んで、ぐぐぐっと益口の喉を絞り上げた。

 じっとモンスターの目を見た益口は、


「おい、本当に俺を殺す気か?


 おまえが、俺を、殺せるのか?」


 と訊いた。

 どこまでやったらいい?これ以上やったら本当に絞め殺しかねないぞ?と迷いの生まれていた刀脇は、ハッと、一瞬手をゆるめた。


 益口は、ニヤッと笑った。


「よせよ。お芝居なんだろう? おまえに人なんか殺せない。なあ?そうだろう? リッキー君」

 益口は余裕のある優しい声で言い、ポンポン、とモンスターの腕を叩いた。

「ひどいトラウマを抱えてしまっただろうに、君はよくやったよ。いやほんと、大した役者根性だ。だが、間違っているよ。菅原君と言ったか?、君もだ。どうせカメラで見ているんだろう? 君らの、負けだ」


 モニターを睨んでいた菅原と衣川はぎゅうっと眉間にしわを寄せて、無言だった。


 益口は得意になって言った。

「ジミーの生首もよくできていたよ。いや、見事な物だった。わたしもすっかり騙されてしまったよ。だが、本物の、」

 と刀脇の目を見て、

「瞳の表情は、機械では再現できないよ。瞳の表情で、その人間がどこまで本気か、読めるのだよ」

 と、刀脇の瞳を飲み込むように大きく目を開いた。

「放せよ。君、今度は起訴されるよ?」

 益口は、ぐっと、陰険な顔になった。

「放せと言ってるんだ。聞こえんのか?」

 刀脇は、


「うおおおおおっっっっ!」

「うえっ、」


 益口の胸ぐらを力任せに投げ飛ばした。

 ドタドタ足のついていかない益口はゴロンと転がり、木箱の角に背中を打って

「ぎゃっ」

 と悲鳴を上げた。

「うおおっ」

 刀脇は益口の太った腹を蹴り上げた。

「うげええっ」

 益口はうめいた。

「うおおっ」

 吠えた刀脇は両手で胸ぐらを掴んで益口を立ち上がらせると、思い切り頬をぶん殴った。

「・・・・」

 益口は声もなくぶっ倒れた。

 刀脇は、転がる背に蹴りを入れた。モニターを見る菅原衣川にもそれはとても芝居に見えなかった。

 刀脇は、鼻血をたらしてぐったりする益口をぎりぎり締め上げ、ドスッと腹に拳を叩き込んだ。

 ゲホッと益口は血を吐いた。

「おまえだ」

 言う刀脇を、益口は閉じそうな目で見た。

「おまえが犯人なんだろう? 言えよ? 自白しろよ? でないと、本当にぶっ殺すぞ!?」


「やめさせろ! 本当に殺してしまうぞ!」

 と、清水は騒いだ。


 益口は刀脇の目に狂った「本気」を見て、上げた手で力なく「分かった分かった」とやった。

「は、放してくれ‥‥、苦しいよ‥‥‥‥」

 刀脇は睨んで、放した。

 益口は後ろに座り込もうとして、ドン、とちょうど車のドアに寄りかかった。

 鼻と口から血を噴いて、恨めしそうに睨みながら、益口は言った。

「ここまでやって、ただで済むとは思っちゃいまいな? ハ‥‥ハハハ‥ハ‥‥‥。

 分かった。おまえら、

 どうなっても、

 いいんだな?」

 じっと怒りに染まった目で睨み付ける刀脇を、益口も凶悪な目で睨み返した。

「リッキー坊や」

 刀脇が一瞬でひるんだ。

 益口は凶悪な目のまま、凶悪に笑った。

「ひ弱で、嘘つきな、リッキー坊やちゃん」

 刀脇は狼狽し、首をガクガクさせた。

「かっこよくてタフガイのアクションスター。兄貴と呼ばれ慕われる頼りがいある男の中の男。フンッ、お笑いぐさだと、自分で思うだろう、ええ?、リッキーくん?」

 刀脇は後ずさり、怯えた。

 益口はよいしょと立ち上がり、まっすぐ、刀脇を陰湿な目で見つめた。

「おまえの出世作、『灼熱、ホワイトバーン』だったっけか? スタント無しの本物のリングファイト? そういう売りだったよなあ? それは、ほんとおかなあ〜〜?」

 刀脇は立ち尽くし、頭を抱えて、しゃがみ込んだ。

 見下ろし、益口は続ける。

「プロのボクサーのパンチを浴びて、膨れ上がったひどい顔をしていたよなあ? どうだ?痛かったか? 痛くねえよな? 作り物のこぶだもんなあ? おまえはプロのパンチなんか一発も受けちゃいない、そうだろう? ‥‥菅原‥‥、そうか、あんただったなあ?あの映画でリッキーの殴られた顔を作ったのは? へっへっへっへっへっ、殴られて腫れた後の試合は、全部スタントマンの吹き替えなんだよな? 殴られて腫れまくったスタントマンの顔そっくりになるように、リッキーの顔を作ったんだよな? あのひどく殴られた名前も無いスタントマンはどうしてる? 生きてるかあ? ハッハッハッハッハッ、頼れるタフガイの兄貴の、とんだ出世作だったよなあ? ええ? リッキ〜、菅原。そうだろう?」

 刀脇は頭を抱えて丸く縮こまり、菅原も血の気を失った顔を強張らせていた。

「違う‥‥、そうじゃない‥‥」

 と、菅原は口の中でつぶやいていた。

「おおーーいっ!」

 今やすっかり形勢逆転した益口が大声を上げた。

「いつまでも隠れてないでいいかげん出てこいよっ!

 なんなら、こいつをもっと苛めて、廃人にしてやろうかっ!?」


 菅原は、ガタン、と立ち上がった。



 ギイッとドアが開いて、菅原と、衣川刑事と、清水二郎が現れた。

「初めまして。刑事さん、衣川さんだったね? やっぱりあんたも噛んでたのか。ジミー。無事だったか。本当にひどい目に遭わされたりしてないだろうね?」

「マスター」

 清水はひどく心配した顔で呼びかけた。

「悪かったな。僕も騙されたんだよ。さ、警察に行こう。こんな暴力を振るわれて、こいつら許せないよ。訴えて、しっかり罪を償わせよう」

 ケガをした益口に歩み寄ろうとして、清水は衣川刑事に腕を掴まれた。清水は怒った顔で睨んだ。

「なんです? あんた、まだ言い逃れするつもりか? あんたら、完全に頭おかしいよ」

 清水の腕を掴んで、衣川は敵意を隠そうともせずに益口を睨んだ。

「益口寿夫。正直に言うよ。我々の完敗だ。あんたのパーフェクト勝利だ。負けを認めるから、教えてくれないか? いったい、どうやったんだ?」

 益口は嘲った。

「フン、そんな安い手に引っかかるか。どうせカメラで録画してるんだろう? わたしの不利になるようなことをしゃべるかよ」

「気にする必要もないだろう? あんたを監禁して、暴力を振るって、無理矢理言わせていることだ、俺たちの犯罪の立証にはなっても、あんたの罪を問う証拠には一切使えないよ。抜け目無いあんたなら分かるだろう?こうして違法に採取した証拠は、それが真実であっても、証拠採用されないんだよ。つまりこの状況下でしゃべったことは、一切、裁判には持ち込めないんだよ? ここであんたにそれを自供されちまうのは、警察としちゃあ最悪に拙いんだよ。どうだ?これだけお膳立てしてやったんだ、あんたの勝ちは決まったから、教えてくれよ?

 マスター・パピー。

 どうやって、

 人を殺させた?」

 益口はちらっと清水を気にしたが、ため息をつき、やれやれと頭を振った。

「いいだろう。教えてやるよ。

 そうだ、全部、

 俺がやらせたことだ。

 俺が、やつらに、人殺しをさせたんだよ」

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