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16 犯人逮捕

 容疑者尾行中の刑事が刺されたなど、とんでもない失態だが、これで捜査陣にはやはりマスター・パピーは怪しいという見方が強まった。刺された刑事は手術でナイフを抜き取り、重傷であるが、命に別状はない。刺された刑事は刺したのは頭を派手な金色に染めた若い男だと思うと証言したが、今どきそんな若者はいくらでもいるし、今のところこれといった手がかりはない。少なくとも刺した犯人が「直接は」益口ではあり得ない。


 マスター・パピーが怪しい。

 しかしどうやったのか?

 具体的なやり口がまるで分からない。


 どう捜査を進めたらいいか頭を悩ませているところに、犯人が確定されたという知らせが入ってきた。

 捜査陣はそれを当然顔写真の公表されたキャバクラ大量強殺事件の男だと思ったが、違った。


 確定されたのは、

 マンションでOLを殺害した男だった。


 容疑者の名は

 多田 憲治(ただ けんじ)

 24歳、コンビニアルバイト店員。


 多田は動機の点で当初から容疑者の筆頭にあげられていた。

 状況的にも怪しい。

 現在アルバイト店員の多田は、以前は商社に勤め、将来を誓い合っている女性がいた。

 しかし会社の業績悪化で厳しいリストラが敢行されているただ中で、多田はあろう事か電車内の痴漢行為で逮捕された。多田は事実無根だと容疑を認めなかったが、厳しい取り調べの末、被害女性の示談にしてやっても良いという言葉に、ついに折れ、結果的に自らの有罪を認めてしまった。

 多田は留置所を釈放されたが、会社からは懲戒免職を言い渡され、付き合っていた女性からも婚約破棄された。

 多田を痴漢行為で訴えたのが、殺された被害女性だった。

 多田の痴漢行為が実際のところどうだったのか分からぬが、多田が被害者をひどく恨んでいたのは間違いないだろう。

 場所もある。

 多田が勤めているコンビニは、現場マンションから少し行って出た幹線道路沿いにあり、2者の距離は2キロほどだった。

 その夜多田は1人で店に出ていた。

 現場までの時間が、例えば多田の使用しているサイクリング自転車を使ったとして、10分ほど、犯行と合わせて往復25分程度。

 店をそれだけ開けていたらその間に誰か客があり、誰も店員がいなければ怒って帰ってしまったかも知れない。そうした人物を捜して聞き込みを行ったが、見つからなかった。

 顔と手のマスクに返り血を浴びた服と、犯人が隠さなければならない証拠品はたくさんある。一帯を捜したが見つからず、多田が犯人でコンビニに持ち込んでいたら、たとえ今は別のところに持ち出して現物がなくても、血の跡など証拠はきっと残っているはずだ。

 警察は店主に店内の捜査を求めたが、多田は烈火のごとく怒って反抗した。

「警察はまた無実の俺を証拠をでっち上げて犯人に仕立てるつもりか!?」

 と。店主も多田の事情は知っての上で雇ったので、それもひどい話だと、捜査協力を断った。

 一方で、

 多田の無罪の証拠になればと、店内の防犯ビデオの録画データを提供した。

 その映像の中に、犯行のあった時刻とその前後、多田は確かに店にいた。

 深夜で客は滅多におらず、レジ奥の休憩所に引っ込んでいる時間はあったが、30分の間に2人の客があり、確かに多田はレジで対応していた。

 何か操作をしてデータを改ざんしていないかと前後を幅広く調べたが、どこにもその跡はなかった。

 これは、多田をシロと見るしかない。

 警察は、多田に詫びを入れた。あなたの容疑は晴れました、と居丈高ではあったが。


 しかし。


 その録画データのカラクリが暴かれた。

 なんのことはない、別人だったのだ。

 よく似ていた。

 多田はフレームの太い特徴あるメガネを掛け、今流行りの芸能人を真似して片側をツンツン立てた髪型をしていた。防犯カメラを誤魔化すくらいの変装は楽に出来た。

 しかしその画像を詳細に調べると、替え玉には本人にはないほくろがあった。大体においてはそっくりだったが、細部がお粗末だった。

 この証拠でコンビニを家宅捜索し、天井裏から犯行に使われたマスクとグローブとジャンパーとズボンがそっくり見つかった。

 アパートで寝ていた多田は緊急逮捕された。

 「宅配便」に騙された多田は「ちくしょお!」とわめいて暴れたが、数人のごつい男たちに取り押さえられた。

 容疑者の権利を読み上げる刑事に、

「ああ、ああ、分かってるよ!

 そーだよ、俺が殺したんだよ、あのクソ女をよお!

 俺の人生ぶち壊しやがったあの女を、俺が、この手で、ぶっ潰してやったんだよおおっ!

 けっ、ざまあみやがれ、馬あ鹿がっ!

 俺はあの女のケツなんて触っちゃいねえ! 俺は無実だ! 無実なんだよお! 分かったか!?

 俺は、

 無実だ!!!!

 分かったかああっっ!!??」

 と大声でわめき散らした。

 それは、容疑者の権利で読み上げられたとおり、自供として証拠採用される。


 警視庁に連行された多田は、今、厳しい取り調べを受けている。


 そして、多田の部屋が捜索され、さまざまな品物が証拠品として押収された。

 その中に、PB3があり、その中には、プリントのない、DVD-ROMが収まっていた。


 栗林素雄の持っていたのと同じ無修正バージョンの「スーパーウルフマン」だった。

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