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11 バイオレンス


 さあ、いよいよ君の番だ!

 待たせてしまったね?ウズウズしていただろう?

 いいぜ、

 思いっきり、ぶちかましてやれ!

 もう我慢なんかしなくっていいよ、

 君の怒りゲージはとっくにメーターが振り切れてる。

 スペシャルだ!

 思いっきりぶちかまして、



 目に物見せてやれ。



 君のことはよおく分かっているよ。

 ステージは、整えておいたよ。

 さあ、

 最高得点を叩き出せ!

 奴らを、

 ぶっ潰せ!



 車を運転しながら稲村刑事は衣川刑事に訊いた。

「キヌさん、まだマスター・パピーなんて追ってるんですか? まるで人形みたいに刀脇やマスクの男たちを操って殺人を犯させている、なんて、そりゃマンガでしょう?」

 後輩の馬鹿にした口調に、衣川刑事はいやに冷めた目で言った。

「おまえ、板、割れるか?」

「は? イタ? なんですか?」

「空手だよ。キエーッ、バキンッ、って突きや蹴りで板割るだろう? やれるか?」

「板ってねー、ベニヤ板ならやれるかな?」

「阿呆。じゃ瓦は? 瓦なら何枚割れる自信がある?」

「2‥‥3‥‥枚?くらいはー、割れるのか、な?」

「10枚」

「へえ? キヌさん空手やってたんですか?」

「してねえよ。10枚、素人に瓦を割らせたそうだ」

「誰が?」

「マスター・パピーがだよ。およそ20年前、浅草の演芸場に出演していたとき、そういう催眠術ショーをやっていたそうだ。その場で客の中から希望者を舞台に上げて、催眠術を掛けて、たちまち空手の達人に変身させて、瓦割りや板割りをやらせて、瓦を10枚叩き割って、ベニヤなんかじゃねえふつうの厚い板を叩き割らせたそうだ」

「本当ですかあ? 嘘臭いなあー。きっとその瓦や板に細工がしてあったんですよ。手品ですよ」

「そう言って勝手に舞台に上がって試した客が拳を砕く大けがをしたってよ」

「へえ〜〜‥‥‥、本当ですかねえ?」

「マネージャーの清水がうっかり口を滑らせただろう?益口は催眠術の天才だって。そりゃどうも、本当らしいぞ?」

 赤信号に捕まってブレーキを踏んだ稲村は仏頂面で黙り込み、青信号で車を発進させると、言った。

「本気で思ってるんですか? 益口、マスター・パピーが催眠術で人を殺させているって?」

 衣川はまじめな顔で言った。

「俺はそう思っている。ただな、」

 こちらも面白くなさそうに眉を険しくして言った。

「奴が言っていたとおり専門家に訊いてもそれは絶対不可能だそうだ。まともな社会常識を持っている人間なら、絶対にブレーキが掛かるってな」

「ブレーキなら完全にぶっ壊れてるじゃないですか? あんなひどい殺し方は、まともな神経じゃできませんよ」

「刀脇はまともだ。壊れちゃいねえ。だから分からねえんだ。後の2人は、ぶっ壊れているんだろうぜ、まともな人間としてのブレーキがよ。だから可能だろうが、刀脇は駄目だ。まともな人間には、催眠術で人を殺させることは出来ねえ。だからわっからねんだ」

「もし本当に益口が催眠術を掛けたのなら、何かの錯覚を起こさせたんじゃないですか? 推理小説なんかでありそうですがねえ?」

「うーー‥‥‥ん‥‥‥」

 衣川は背もたれにふんぞり返り、稲村は横目に見ながら言った。

「ま、一人は捕まりますよ。そうすれば催眠術のカラクリも分かるでしょうよ」

「‥‥‥‥‥‥‥どうやったのかなあー‥‥‥」

 後輩刑事の言葉など耳に入らないように衣川刑事は考え込んでいた。



 三角ビル、キャバクラ店の事件から3日後の、土曜夜、所は東京都内でも「市」のごくふつうの住宅街。

 車道に面するコンビニの駐車場に4人の若者がたむろしていた。11時になろうというのに平気で学生服を着て座り込んでいる。体の大きい奴らばかりで高校生に見えるが、中にはツルンとしたまだ子供っぽい顔の奴もいる。

 大声こそ出さないが、人が表を通ると威嚇するようにふてぶてしい笑いを浮かべた顔を向け、通行人は目を合わせないようにそそくさと通り過ぎた。

 ケッ、世の中なんてくっだらねえ。

 そう、社会を舐めきった顔をしていた。

 そこへ、黒いウインドブレーカーのフードを目深にかぶった小柄な男が歩道を歩いてきて、コンビニの入り口向かって駐車場を斜めに入ってきた。

 両手をポケットに突っ込んでいる。

 4人の不良学生たちはうつむいて顔を見せないように歩いてくる男を面白そうに馬鹿にした笑いを浮かべて見ていた。

 男は4人の横を、入り口前に立った。自動ドアが開き、若い男性店員が「いらっしゃいませ、こんばんは」と挨拶した。

 ウインドブレーカーの男は開いたドアを前にそのまま突っ立っていた。

 なんだ?と店員も不良学生どもも思って男を見た。

 男は、ポケットからやたらと毛深い大きな手を出すと、フードを背に降ろした。

 あっ!、とその顔を見て皆思った。

 男は眉の盛り上がった、やたらと太い鼻の、人間離れした顔をしていた。

 これが、もしや、ニュースで言っていたモンスターのマスクをかぶった凶悪殺人犯?!

 店内の店員とレジに並ぼうとした男性の客がギクッと立ちすくみ、

 4人の不良学生たちは『おい?』と顔を見合わせた。

 ふてぶてしく、『やっちまおうぜ?』と。

 相手は顔と手はやたら大きいが、背は自分たちより10センチも低かった。

 4人は立ち上がり、先頭になった一番強そうな奴が声を掛けた。

「おいおい、てめえか? 美人のOLの姉ちゃんとキャバクラのお姉ちゃんたちをぶっ殺した殺人鬼っていうのはよお? ちきしょー、羨ましいひでーことしやがってえー。てめーみてーな極悪人、9割くらいぶっ殺しちまっても世のため人のためだよなー?」

 完全に舐めきった口をきいて、仲間と笑い合った。

「だよなー、極悪殺人鬼をやっつけたら、俺たちヒーローだよなあー?」

「警視総監賞?もらえちゃう〜?」

「ボクたち、名誉市民」

「ギャハハハハハ」

 全員小柄な殺人鬼を完全に馬鹿にしきっていた。

 モンスターマスクはまっすぐ店内を見たままで、先頭の男はチッと舌打ちして手を伸ばした。

「おいこらテメー、なにシカトぶっこいてんだよおー」

 肩を掴もうとした男の手を、モンスターの手が手首を掴んだ。掴まれた不良の方は「ウホ?」と面白がった。

 筋肉のモンスターが不良を見た。

 手首を掴んだ大きな手が、グッと引かれた。



 ブチイッ。



 血しぶきが噴き出した。

「うわっぎゃああああああああっ!!!」

 不良は自分の身に起こったことが信じられず、大口を開けてわめき、あわあわと後退して、

「うわあぎゃあああああああっ!!!???」

 と物凄く、叫んだ。

「ひっ、」

「なんだ?」

「うそ‥‥」

 他の3人はショックにざっと顔を青くしながら、それでもまるで眼前の光景が信じられず、

 店内の人間たちは、

「ぎゃああっ!!」

 と恐怖の悲鳴を上げた。

 モンスターは、肩から引っこ抜かれた不良の裸の腕を手にぶら下げ、ボタボタボタと大量の血を滴らせていた。

「う、うわ、お、俺の、腕」

 思い切り顔を歪めて呆然とした目で自分のもぎ取られた腕を見る不良に対し、

 モンスターはその腕をコンビニの店内に投げ捨てた。中からぎゃああと悲鳴が上がる。

「俺の腕!」

 追いかけて店内に飛び込もうとする不良とすれ違い、モンスターは残りの3人に向かってきた。

「うわああっ」

 3人は一目散に逃げ出した。

 モンスターは遅れた1人の背に蹴り掛かり、

「ゲッ」と前のめりになった背にそのまま駈け登り、思い切り顔を蹴った。

 蹴られた不良はバウンドして後ろに吹っ飛んだ。

 恐ろしく跳躍した小柄のモンスターは、

 2番目の不良の首を振り下ろした手で殴りつけるように掴み、飛び降りた勢いでアスファルトの床に「ガリッ」と掴んだ不良の顔を撫でつけ、そのまま振りかぶると、歩道を振り返り慌てた顔で逃げていく3人目の背中に恐るべき怪力で投げつけ、命中させた。投げるときに「ボキッ」という音が響いたから、投げられた男の首は折れているだろう。その頭に背中を直撃されて、3人目も前にドッと倒れた。

「うおおおっ!」

 モンスターは雄叫びを上げ、走り、必死に這いずって起き上がった不良の背中に無情に跳び蹴りを喰らわせた。

「ぎゃっ」と不良は前に飛ばされ、ガツンと顔面をアスファルトに強打した。

 モンスターは少し戻って投げ飛ばした不良の腹を蹴り上げたが、無反応で、やはり既に死んでいた。

 ボタボタと鼻血を垂らす顔を上げて、生き残りの不良は必死に前に這いずって逃げようとしたが、

「ぎゃっ」

 その背中を思い切り踏んづけられた。ぐぐっと踏み込まれて胸骨がミシッと鳴った。「うぎゃああっ」と不良は涙を流しながら悲鳴を上げた。

 踏みつけるモンスターは、ようやく気が済んだのか足を外して前に歩いていったが、ゴトリと、重い音をさせて何か掴み上げた。

 息も絶え絶えの不良は、それを見て恐怖で目を剥いた。

 モンスターはバス停の標識を持って不良の頭の所に戻ってきた。不良の目にはその底部の重いコンクリートの重りがぐんぐん近づいてきて恐怖心を爆発的に煽った。

「や、やめて‥‥、お願い‥‥」

 不良はか弱い女の子のような声で哀願した。しかし、

 モンスターは無情にその頭上高々、標識を持ち上げた。それを落とされたら‥、不良の頭は木っ端みじんに潰れるだろう。

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