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神様のインタフェース  作者: 珠響夢色
転──英雄病の後追い
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28──ひねくれ師匠とアドレス0番地

 いくつか遺跡(ラボ)を巡ってきたはいいものの、神様のインタフェースに到達する道が一向に見えてこない。そもそも、リッチー氏はどうやって最後にアクセスをしたのだろうか。確かに魔術への造形を深めることで、世界の見え方が変わる部分はあった。より高度な魔術も使えるようになった。

 だが、神様のインタフェースの実態が見えたことは一度もない。本当にこの道で合っているのだろうか。これ以上遺跡(ラボ)を巡ったところで成果は出るか。僕はいつまでこうしているのだろう。

 おおよそ、見当のついている場所は巡って、残りはすでに発見されて公に研究されている場所くらいだ。今更そんな場所に行ったところで、収穫はあるだろうか。

 もっと魔術を極めて、人間を複製できれば手が届くだろうか。

 ダメ元でもいい、可能性を潰すためにも、遺跡(ラボ)に行こうか。

 場所はサイトルム。

 この国の人であれば全員とは言わないが、二割くらいの人は行ったことがあるだろう町。その辺り近辺の定番修学旅行先だからな。僕だって行ったことがある。遺跡は公開されていて、チケットを買えば誰でも入れるし、ショーケースには解説付きの資料もある。魔術理論的には何の足しにもならない歴史資料だがな。

 藁にもすがる思いで、サイトルムへ向かう。

 昼間は遠くから眺めて、地形を把握することに注力する。

 本命は夜だ。

 もし遺跡の中にまだ見つかっていない扉があれば、あってくれという気持ちで、近くの林の中で待機する。

 観光地ということで、比較的町が整備されているものの、すぐ横にはこうして人目を凌げる森林が広がっている。

 が、僕としたことが、隠蔽の魔術を怠った。

「あれ? あれあれあれ? もしかして、あなた、キャニー学生ではありませんか?」

 人のこと舐め腐った半音高い声。最悪だ。

 無視して立ち去ろうとした矢先、肩に手が置かれる。

「逃げるなよ。何か後ろめたいことでも、あるのかい? 私はね、ただ自分の元を巣立っていった一学生と、旧交を温めたいだけさ。なっ。調子どうだい?」

 吐き気がしてきた。一旦離れてまた後で来ようと、そいつの手を払いのけようと思ったところで追撃が来る。

「あっと、私も最近年でねぇ、骨が脆くなっているんですよ。乱暴されたら大きな声を出すしかなくなるなあ」

「なんなんですか」

「ああ、嬉しいですね。まだ敬語を使ってくれるんだから。こんな人気(ひとけ)のないとこじゃなくて、向こうのベンチで話そうぜ。積もる話もあるだろうからね」

「嫌で」

「ああ、向こうの売店で飲み物も買って来ようじゃないか。奢らせてくれな」

 どうしてこうなった。

 ねぇどうして。

 僕は逆らえなくてまんまと、通りの脇に置かれたベンチに座る。

「はいどうぞ」

 あったかいコーヒーが手渡される。

「大丈夫。苦いのは得意じゃなかっただろう。確か。覚えているさね。砂糖をたっぷり入れてもらったから呑むといいさ」

 警戒して口をつけなかったのを見て、そんなことを言う。

 研究者らしくない、アーティストか何かにみたいな髪の毛、フィールドワーク中だろうがスーツに白衣を着たこの変人こそ、僕が学院のゼミで入っていた研究室のボス。

「ソフィヤ・ライムント。専門は考古学、中でもウィザード縁の遺産の発掘だ」

「なぜいきなり名乗ったんです?」

「あたなが万が一にも、私の名前を忘れてしまって気まずい思いをしていたら、いけないと思いましてね」

「……」

「しかし、こうして話すのは久しぶりだ。懐かしいよ」

 こっちは懐かしくなんてないんだが。そもそもあんた研究室にほとんど帰らなかったから、月に一回も話す機会なかったじゃないか。基本的に手紙でやり取りをしていて、研究室の仕事も先輩たちに押し付けていたくせに。僕の名前と容姿を覚えていたことすら驚きだ。

「おーい。おーい。バーナーズ君。元気かい?」

「姓で呼ばないでください」

「あれぇ。そうだたっけ? 立派な名前でしょうに」

「そもそも、最初から名前で呼んでたじゃないですか」

「ああ、そうだった。確か、ご兄弟と被るから」

 溶け残った砂糖が砂のように沈殿したコーヒーを一気に飲み干して、先生……と呼びたくないな、そいつに押し付ける。

「ごちそうさまでした」

「ちょっ、ちょっと。もう少しこの老害に付き合ってくれないか」

「あいにく忙しいので」

「へぇ。遺跡巡りかい」

「なにを」

「図星ですか。動揺が隠しきれていない。せっかく遺跡に来てるんだから。当てずっぽうで言ってみただけでしたのに」

「そうです。それじゃ」

「そっちは出口ですよぉ。まだ中見てないじゃない。ああ、やっぱり後ろめたいんだ。推理しようか?」

「あんたに何が分かるっていうんです?」

「例えば今ので、この遺跡の中にまだ入ってないことが分かった。何か普通に立ち寄れない理由があるんだよね。だからさ、座って。ほらこれ以上バラされたくないでしょう」

 強く腕を掴まれる。やせ細った指が食い込んで、込められた力以上に痛い。

「優等生ですね。花丸を上げよう」

「あなたからもらうのは初めてですよ」

「まぁ、そうだろうな」

「それで、なぜ引き止めたんです?」

「下らない話をするためさ。わたしゃも最近気づいたんだよ。縁を大事にしなきゃって。下らない話をするのって存外大切。ね」

「話すことなんてないですよ」

「そうだなぁ。キャニー学生は自分のこと話したくなさそうだし。人のことを話して盛り上がろうじゃあ、ないか」

「共通の知人なんていますか?」

「いるさと言いたい所だが、いなくったって、作ればよいでしょう。ほらそこに人がいる」

「今から通行人に話しかけろと? 何かの罰ゲームですか?」

「そうじゃない。お互い今同じものを見ている。それで充分なんじゃ」

 なんじゃ? 新しいパターンか。この人はその場のノリで話す調子が揺れ動いて、話を聞いてくるだけで疲れる。

「十人くらいですかね。お互い通行人を見て思ったことを語り合って、それだけ付き合ってくれないか。それが終わったら解放してやる。君の秘密には踏み込まない。約束さ」

「……」

「沈黙は肯定とみなす」

 やつはそう言ってコーヒーを飲み干すと、空いたカップをベンチに置いて、通行人の一人を指した。どこかから取り出した、細長い折れやすそうなビスケットのようなお菓子で指している。

「あそこにいる彼。どこかの学生に見える。学院生かな。一人でこんなところにいるあたり、この辺が地元なのか、あるいは真面目な学生で一人でも遺跡に通って学を深めているのか」

 いかにも真面目そうな学生が遺跡のある方へ歩いていく。遺跡は観光地としての側面もあるが、パンフレットやガイドを持っていなかったし、一人だから関係なさそう。

「私の見立てでは、あのタイプは意外と不真面目だ。うっすら周りを見下して、さも自分は周りよりも真面目で、自分の将来のために堅実にやってますだの思ってる」

「そんな」

「そんな? では、あなたの意見を伺いましょ」

「それはうがった見方じゃないですか。ただ、歴史の勉強が好きなだけだと思います。一人なのは……、同じ趣味を共有できるような人が周りにいないからで」

「なぜ周りにいない?」

「なぜって」

「周りはみんなバカばっかりだから? それじゃさっきの意見と同意だわさ。本当はただ一人が好きな孤独を愛する人だったり」

「すぐに意見を変えるんですね」

「ああ、だってこんなもの。どちらが正しいなんて検証できないわよね。だから下らない話」

 はいと、さっき持っていた細長いビスケットを渡してくる。

「プレッツェルどうぞ」

 プレッツェルと言うらしい。そのままポリポリと口に運ぶ。

 続いて男女のペアが歩いてくる。

「デートですかね」

「じゃあ私は兄妹に一票」

 確かに、男女が二人いれば恋仲であるというのは短絡的だ。

 だけど、その後に続いた意見には賛成できなかった。

「だって、あの年頃のカップルだとしたら、もっと脳みそ空っぽにして、人の目も憚らずに乳繰り合ってるもんでしょ。性欲に支配されてないと。リア充爆発だよ」

「迫真ですね」

「え、共感してくれないの? 君って異性に耐性なさそうだし、教室で孤立してるイメージだぜ」

 孤立しがちなのは否定しない。実際小さかった頃から思い返してみても、友達と遊んだ経験は少なかったと思う。自分から交流を絶っていたのか、別の理由だったかは覚えていない。

 だけど、孤立しているようなタイプだからといって、カップルを変な言葉で形容したりはしない。はずだ。

「ふふーん。え、恋とか知りました?」

 頭によぎるのは、ハックとオペラのことだった。だが、いずれも恋と呼べるようなものではない。ハックはただ取り戻したいだけだし、オペラは一方的に告白されただけだ。一度受けた恩を勘違いして膨らませてしまっただけだろう。

「失恋?」

「恋なんかじゃない」

「否定するってことは、相手はいるということだな」

 僕はまた黙ってしまう。

 相手、か。

 腹の中側に得体のしれない、もったりしたものが居座っている。それを言葉にして吐き出せる目処は立っていない。

 やつは今度は茹でる前のパスタを取り出すと、それを使って遺跡の方から歩いてくる親子を指し示した。

「背の割にはしっかりしていそう。母と二人だけで来ていることからして父親は忙しいのかしらね。兄弟もいなくて、必然、母親により掛かるしかないからマザコンになると考えられる」

 言いながら手に持ってるパスタをそのまま、かじりはじめる。まずそもそもなぜパスタを持ち歩いているのかというのと、生で食べ始めたのだという疑問が湧くが、聞くと負けな気がする。

「はい、あなたの意見は?」

「確かに子どもの方は落ち着いていたけど、それは裏を返せばあんまり楽しんでなかったってことだと思う? 親に無理やり連れてこられたとか」

「あなた、小さい頃あからさまに喜んだりする子どもだったの?」

「関係ないだろ。とにかく、楽しんでないと仮定するなら、親に連れてこられた、目的は教育だろ。子どものうちに色んなもの見せて賢く育って欲しいってやつ」

「善意の押し売りかしら、それとも、ただの支配欲」

「他の親に向けての見栄かもしれないですね」

「ああ、敬語に戻っちまった」

 言われて自分も口調が砕けてしまっていたことに気づいた。どうにもさっきから調子が狂う。さっきどころじゃなくて出会ってからか。分からない。こいつの何かが僕に引っかかっている。

「今で五人。次はあそこの人たち」

 今度はタバコを取り出して四人ほどの集団を示す。補足すると、こいつからはタバコの臭いがしないし、おそらくタバコを吸わない。ならなぜそんなものを持っているのかというと、それは分からない。僕はこいつじゃないし。

「あの集団はどうみても、遺跡を管理しているか、もしくは発掘作業をしている研究者たちでしょう。あの名札はそうです」

「さらに、加えるなら、議論に熱中しすぎてお昼を食べそこね。遅い昼休憩に入る所。その上、まだ議論は止まない」

 こちらを通り過ぎようとしていた集団のうち一人が、こっちに気づいて軽く手を振ってくる。隣のやつは、その間だけ火のついていないタバコを口に加えて、手を振り返した。

「うーん。食べ物じゃないもの咥えるのって、邪魔くさいな。どうしてそれなのにタバコを吸う人間はいるのだろうか。私と彼らの間に大きな肉体感覚の隔たりが存在していると思われるが、さてそれはいかほどでしょうか」

「さっきの人たち、お知り合いですか」

「もちろん。私がここにいるってことは、そういうことさね」

 つまり研究でここにいるし、そのために、常駐の研究員とかその辺りの人たちと交流はあると。

「ああそして、さっき議論に熱中といったのも当然で。そう、私がこんな搾りかすみたいな場所に来たのも、とても大きな理由があるのさ。当ててくれたまえ」

 理由? わざわざ見つかって何年も経っている遺跡、搾りかすとまで表現するような場所に、実績だけは立派なこいつが調査に来る理由。

 まさか。

「新しく研究施設が見つかった、とかですか?」

「うーん。どうしてそう思うの?」

「へ」

「隠し部屋とかじゃなくて、研究施設って表現、かなり具体的すぎるんだよなぁ。まるで見当がついてたみたいですよね」

 しまった、墓穴を掘った。今までリッチー氏の遺跡(ラボ)を探索しすぎて、一般的な範囲での遺跡(いせき)を勘違いしていた。研究施設だと明らかに分かるようなものが、何個も発掘されていたら、もっと魔術は発展している。

 と、動揺してしまった時点で駄目だったのかもしれないが、一応誤魔化しておく。

「ああ、ほんとに適当言っただけですよ。デカい発見というと、部屋というかリッチー氏の研究内容が丸々出てきたとかそんなものかなと」

「君の卒業論文なんだったっけ」

 お前の研究資料をまとめさせられただけの紙束だよ。

 って、そうか。

「リッチー氏の遺跡がなぜ断片的な形でしか出土しないのか」

「その内容は?」

「遺跡自体の出土数や他の形で伝わっている魔術理論の情報に比べて、リッチー氏自身が残した研究の痕跡が少なすぎるところから、彼自身はむしろ研究を消したがっていたという仮説を」

「覚えてんじゃないさ」

 クソ。学院時代はろくに指導もしてくれなかったくせに、今になって学生気分を味わうなんてな。しかも、二人っきりときた。なんなんだこの時間は。

「ああ、それとも何かい? 何か具体的根拠でも……見たことあるとかぁね? どうやら最近各地を回っているらしいですし」

「な、にを」

「あなたは知っているんですかなんて、ありきたりすなあ。私は今あなたが知っていることを、聞いているのです。何を見たのかね」

「何も見ていない。あてもない旅です」

「それは、ゴールがどこにあるか分からないってだけじゃない?」

 ああ、分かんないよ。全然。神様のインタフェースはどこにあるんだ。ああ、物理的な場所の話じゃない。行き方の話だ。

「ゴールは分かってる。ただどうやって行けばいいか分からないだけです」

「なるほど」

 何かを納得したやつは、口に加えたままになっていたタバコを懐に仕舞う。

「なぜタバコなんて」

「吸うからに決まってるだろ。今日はたまたま火を忘れただけさ」

 次にこれまた懐から棒付きの飴を取り出して、最後の一人とばかりに、向かいのベンチに座っていた一人の女性に向けられる。

「気づいていたか、気づかなかったか。私たちが来る前から、彼女、ずっとあそこに座っていたんだ」

 言われて初めて意識する。まったく気づいていなかったわけではないが、自然と風景の一部として扱っていた。

「彼女どうしてあそこに座っていると思う? ああ約束どおり十人目だし。これが終わったら解放を約束しましょう」

 丸一日以上拘束されていたかのような疲労感から、ようやく解放される。こんなところとっとと立ち去って、僕には、やることが。あれ。僕は次にどこに行こうと思ってたんだっけ。

 手がかりは全部開いたはずなのに。

 考えるのは後にしよう。大丈夫まだやれることはあるはずだ。

 僕は向こうに座る誰かのことを観察した。

「ずっと座っていたんでしたね」

「私の見ている限りではそうだ」

「誰かを待ってるんじゃないですか?」

「そんで、すっぽかされたということ?」

「普通に考えたらそれでいいでしょう」

「それはおかしい。普通ならこれだけ来なければ帰るところだ。そうでなくとも、別の場所を探したりさ」

「そんなの分かんないじゃないですか。絶対来ると思ってるなら、待ちますよ」

「あるいは、絶対来ないと思っていれば、いつまで待っても良いかと」

「来ないって思ってるのに待つんですか?」

「ああ。悲しいかな、人間は現実を受け入れるのに、非常に時間がかかるんだ」

「もっと実感もって言ってください」

「そうかな。あなたが実感を持っているという予想だったんだがね。こんな話刺さらないですか?」

「適当言わないでください」

「どのみち私とあなたの意見の共通部分は、待ちたい相手がいるってことだ。どんな相手だろうか。恋人? 家族? それとも目上の、逆らえないような相手?」

「後は親友とか、それ以外の大切な人とかですか」

「それ以外があるのかしら?」

「一言で言い表せる関係だけじゃないですよ」

「それはそうだ。だが、言語化から逃げていたら議論は終わらないさ。それは、温もりをくれる人でしょうか。生きる希望をくれる人でしょうか。それともそれとも、いないと自分が自分じゃ、なくなっちゃうなんて、そういう人かしらん」

「…………そうですね。その人がいないとダメになるんなら、待つしかない。こともあるかもしれないですね」

「それはそうだ。私も私でいられないなんてゴメンだわね」

 こいつにアイデンティティだのを意識する神経があるのかどうか。何が起きても変わらなさそうで、そんなことで悩むなんて思えない。ある意味、変われない人なのか。

「それで、満足しましたか」

「そうだね。そういう約束だった。あともう少しだけ、最後の質問。あの人はいつ何を思って、立ち去るのだろうね」

「それは……相手が来たらか、来なければ、流石に夜には帰るでしょう」

「夜。一日の終りは諦めるにはちょうどいい区切りだ。区切りのない人生は地獄だと考える。そう思わないか?」

 僕らの見ている先にいた彼女の方から、ベルの音が鳴る。小さな目覚まし用のベルの音だ。

 それはデッドラインとして自分で仕掛けたものなのか、あるいは次の予定を知らせる音なのか。それでも彼女は立ち上がらない。

 ほんの少し経って、初老の執事のような身なりをした男性が彼女の方へ向かっていく。一言二言話した後、いたずらがバレた子どもみたいに暗い顔で、女性が執事に連れて行かれる。

「ああ、待っているのではなくて、逃げていたのか。そうだな。そしたら終わりがない。何かを待っているように見えたのは、私たちの早とちりだったみたいだ」

「そうですか」

 結局、僕達がここで話したことは、ほとんどデタラメなんじゃないかと思える。ただ通りすがっただけの人のことなんて分からない。それらしい仮説を言い合った所で、検証する手段もない。

「これが無駄だって思ったでしょう。いやいや、それどころか。人生ってこんなもんだし、究極的に過去を調べるということも、こういうことなのだ」

「じゃあ、僕はもう行きます」

「どこへなりとも行けばいい。若者よ。あなたはどこへだって行ける」

 僕は立ち上がって、背を向ける。

「そうだ忘れる所でした。ここまで益体もない話をしてもらったお礼に、この遺跡で見つかったものについて教えて差し上げましょう」

 なんでもない話の延長線上で、やつはとんでもない手がかりを投げ込んでくる。

「『神様のインタフェース』と、そんな記載のある手記が発掘されました」

 精神の時間が止まる。

 なぜ最後の最後にピンポイントで当ててくる。

 僕には今目の前に垂らされたこれが、天国への糸なのか、地獄への糸なのか判別がつかない。どちらもありえる。

 しかし、ただの当てずっぽうで出てくる名前ではない。

「続きを言いましょう。『神様のインタフェースに到達せねばならない。神様のインタフェースがあれば、全ての人間が魔術を使用できる世界にできる。世界を変えるには神様のインタフェースしかない』というわけです。これ、何のことか分かります?」

 分かる分からないというレベルの話ではない。直接的な手がかりではないが、僕が探し求めていた情報に限りなく近い。

 今度こそ僕は走り出した。

 ようやく、やつの精神的な拘束を振り払って、自分の行く道を見つけるために奔走した。

 リッチー氏の研究施設にあったものは、全部途中経過に過ぎなかったんだ。個々のサンプルの異常性に囚われて、道を踏み外すところだった。いくら、人のまがい物や高度な魔術を構築したといっても、それは一番の功績じゃない。

 一番の功績は魔術の民主化だ。誰でも魔術を使えるようにした。文字通りの意味じゃないか。だから、第一のウィザードなんだろ。それが、神様のインタフェースの効果じゃなくてなんだって言うんだ。

 神様のインタフェースに至るための方法じゃない、神様のインタフェースがもたらしたものから辿るんだ。

 僕は勢いのまま山に消えた。

 一人で他の遺跡(ラボ)に籠もり、仮説の詳細を詰めるために。

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