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神様のインタフェース  作者: 珠響夢色
転──英雄病の後追い
57/60

27──刀で世界の真理を斬り伏せた

 森の中を歩いていると、性別不詳の子どもに刀で襲われた。

「な!?」

 向かって右から横薙ぎ。

 万が一にも斬られないように刀を鞘ごと前に出しながら、左に飛んで回避。

 切っ先が当たって服が切れる。

 体勢を立て直して、刀を抜く。

 暇もなく、第二撃が来る。

 抜く暇もなく上段から切り下ろされるのを鞘で受け止め、いや駄目だ。

 直感的に受けてはいけないと感じて、後先考えずに後ろに転げ飛ぶ。

「待って!」

 相手の動きが止まる。

 言葉が通じていなければ死んでいた。

「なに?」

 声を聞いても男女の区別がつかない。中性的な幼い声。しかしこの落ち着きようは、年齢通りじゃない。何かに取り憑かれているパターンか?

「えーと、僕は君に害を与える気はないんだ。だから刀を納めてくれ」

「そう」

 それでもその子は刀を鞘に戻さない。というか、そもそも鞘を持っていないようだった。

「どうして、いきなり斬り掛かってきたんだ」

 僕が問うと、その子は視線を上にやって口元に人差し指をあてて考えてから。

「悪者だったから」

「…………」

 確かに僕はどうしようもない悪かもしれないが、初対面で決めつけられるのはたまったもんじゃない。それに。

「大丈夫、僕は君になにもしないよ」

「弱いものね」

 いやぁたしかに不意打ちとはいえ、そのままやられかねない感じではあったが。そうまで正面から言われるとこう、言い返したくもなる。コランみたいなこと言うなと思ったが、この子の場合コランみたいな熾烈さがなくて、なんか静かで自然体というか。

「それじゃ」

「ああ、ちょっと待って」

「何?」

「この辺に村とか町とか、あるいは、遺跡みたいなものってあるかい?」

「村も町もない。遺跡みたいんなものは……あるかも」

「あるの!」

「うん、ボクの家」

「? それは家であって、遺跡ではないのでは?」

「多分遺跡。遺跡だったっぽい。そこに住んでる」

「へー。そこに家族だけで?」

「家族?」

「お父さんとか、お母さんとか」

「いないよ、ボクとランだけ」

 その子は手に持っていた刀を指して言う。

「一人ってことかい?」

「ううん。ボクとラン」

「ラン……っていうのは?」

「これ。ランっていうの。家族」

 どうやら本気で刀のことを家族と言っているみたいだ。変わった子だな。こんな所で一人暮らししてるのも変だ。だけど、見た目じゃ分からないような技量の持ち主なのは、さっきので分かったし。

「そうか、お気に入りの刀なんだね」

 鞘に入れずにずっと抜き身で構えるくらいに。

「お気に入りというか、家族。ラン、挨拶」

 その子が刀をこっちに向けてくるので、挨拶という名の手荒い歓迎かと思ったが、そうじゃないらしい。

「ああそうか、普通の人には声聞こえないんだ」

「刀が、喋ってるのかい」

「そうだよ。今も挨拶してた。ああ、『お前に使われる刀が可愛そうだ』って言ってる」

「ああそうかい」

 僕の刀使いが荒いのは今に始まったことじゃない。それは否定できない。それでも、お下がりでもらってから十年以上一緒に使い続けてるんだぞ。こいつも本望だろ。

「うん? 分かった。ボクはシキ、こっちの刀はラン。あなたの名前は?」

「キャニーだ」

「キャニー、よろしく。久しぶりの来客だから、おもてなしする」

 シキは方向転換して、多分家に行くんだろう、家が遺跡らしい? から僕は大人しくついていく。

「シキはずっとこの辺で一人暮らししてるのかい」

「うん。いっぱい」

「何年ぐらいなのかな」

「さぁ」

「さぁって」

「数えてないから分かんない」

「そんなに長くってこと?」

「んー、多分」

「それじゃ、普段はどうやって生活してるの? この辺村とか町とかないんだよね」

「魚とか葉っぱ食べてる」

「それで足りるの?」

「何が?」

「生活苦しくなったり。お腹空いたりしない?」

「うーん、別に。そんなに食べなくても大丈夫だし」

 少食だから大丈夫ってことかな。体が小さいから?

「もうすぐ着くよ」

 森が開けて、横に長い滝のある場所に出る。滝は端から端まで五十メートルはありそうなほど大きく、それはもう壮大であった。

 ただし、それ以外に特別建物が見えたりはしない。

「何もないけど?」

「うん。今開けるから」

 シキは滝の右端に移動して刀を横に構える。

 空気が変わる。シキの呼吸がここまで届いてきそうなくらい、大量の滝の音すら飲み込むオーラがあった。

 一振り。

 世界が割れる。

 滝が斬れた。

 そうとしか言いようがない。

 滝に真横に切れ込みが入って、空中で水がせき止められている。

「さ、早く入って」

 驚くのは後だと、先に体を動かして滝が止まったことで露出した洞窟に入る。

 僕とシキが入るのと同時に滝は元に戻り、また大量の水を降らせている。

「あれなに!」

「え? あれって」

「滝を斬るっておかしいでしょ。刀身の何倍あると思ってんの。それに、斬ったからって水の流れが止まるのもおかしいよ」

「うーん。そういうもんじゃないの?」

「……」

 この子の常識はどうなっているんだ。

 分からない。分からないよ。僕が間違っているのかい。

 そりゃリッチー氏の研究施設を巡って、かなり僕も常識外のものを見てきた方だけれど、これに関しては魔術とかじゃない気がする。原理がさっぱり分からない。

 あ、そうだ。

 洞窟を進んでシキの家に辿り着くまでの間に、前回の遺跡(ラボ)でなにがあったのか、簡単に説明しておこう。

 前回はあまりのショックに、視点を終えてしまったからね。

 真相を話そう、あの遺跡(ラボ)はリッチー氏のものではなかった。

 正確には、リッチー氏の研究施設をベースにして、第二のウィザードである、グレース・エイホ氏が作った遺跡(ラボ)だった。

 どっちでもウィザードなんだから神様のインタフェースに近づけるんじゃないかって? そんなことはなかった。なかったんだよ。本当にがっかりだった。確かに参考になるものではあったが。

 そう、中に何があったか、のじゃロリ巫女服メイドがいたんだよ。何を言ってるか分からんだろうが、そうとしか言えなかった。文字通り、人の姿をしたそういうものがいたんだよ。場違いさに頭がおかしくなりそうだった。流石に生身の人ではなくて、会話も限定的な内容しかできなかった。だから、人のように作られた何かではあるんだが、どういう趣味なんだ? 部分的にハックと似た容姿だったが、ハックはあんなんじゃないし。それに魔導書とか研究資料の類は残っていなかったし。それについては、教祖が軒並み持っていった後かもしれないが。これまで見てきた中でもっともよく出来た人間の再現だっただけに落胆も酷かった。

 ぐだぐだ回想してしまったが、要するにそれだけのことだった。

 ハズレだよハズレ。

 あれの中身を解いたところで、より深いレイヤーまで見られるようになるわけじゃない。

 はい、回想終了。

「キャニー大丈夫?」

「ああ、問題ないさ。何も問題ない、万事順調」

「そう、着いたよ」

 黒い色をした洞窟の岩肌からグラデーションで、白い光沢のある素材に切り替わっている。たしかにリッチー氏の研究施設っぽいが、こんな風に洞窟と癒着しているような見た目は初めてだ。遺跡(ラボ)として独立できていない。

 誰かが破壊して長時間経てばこうなるかという見た目をしていた。

「まぁゆっくりしてって」

 洞窟の中に置かれている座卓を指さして、シキは奥から干された樹の実を持って戻って来る。

「どうぞ」

「ありがとう」

「おいしい?」

「ああ」

 ちょっと渋いけど、悪くない。

「って、そうじゃなくて、ここって見つけたときからこんなだったのか?」

「見つけたとき……」

「初めて来たときだよ。ここで生まれたってわけじゃないだろ」

「昔過ぎて覚えてないなー。ちょっと待ってね。思い出すから」

 シキは頭の側面を指でぐりぐりとしながら、数秒考える。

「ああ、最初はもうちょっと綺麗というか整っていた気がする。ボクはここで滝を斬る修行をしていて、うっかり滝の裏側も斬っちゃって、それでここにいい感じの洞窟があるのを見つけたの」

「うっかりって」

 まるでそれじゃ、滝を斬れるのは当たり前で、滝だけを斬る修行をしていたような口ぶりだ。

「そうだ。それで、元々ここにあった物とかない?」

「あるよー。ほとんど駄目になっちゃったけど。奥に。こっち」

 シキの案内でさらに洞窟の奥へと進んでいく。推定資料室だった場所、ほとんど全部の資料がカビて真っ黒だったり、ボロボロになっている。生活スペースは多分さっきの場所で、奥の方に実験室のようなものもあるが、そっちも錆だったり汚れだったりでイマイチ分からない。実験で作られたサンプルなどは、そもそも駄目になってそうだな。

「どう?」

「やっぱりここは駄目みたいだな」

「そっか」

「しょうがないさ、また次の遺跡を探すよ」

「キャニーは、さっきどうしてって言ったけど。キャニーはどうして旅をしているの?」

「そうだな、神様のインタフェースにアクセスするためかな」

「そうしたらどうなるの?」

「僕の大切な人を取り戻すんだ」

「何から?」

「何から……」

 なんだろうか。僕はハックを奪われたのか? いや違う。ハックが自分自身を燃料に魔術を使ってくれただけだ。僕のせいだ。

「別に誰かに奪われたわけじゃないんだ」

「じゃあなんで取り戻すの」

「また会いたいからだね」

「そうなんだ」

「シキは、会いたくなる人っていないの?」

「分かんない」

「寂しくならない?」

「ランがいてくれるよ」

 やっぱり刀を示して言う。よく見ると刃こぼれ一つもない、新品のようなまっさらな刀だった。

「その。ランとは会ってどのくらい?」

「うーん。分かんない。分かんなくなるくらい」

「手入れとかも自分でやってるの? それとも定期的に鍛冶屋に行くとか」

「鍛冶屋なんて行かないよ。ランはずっとこんな感じなの」

「そんなわけないだろ。刀なんだから、使ってたら傷が着いたり錆びたりするだろう」

 僕の刀は相当使い込んでいるので、鍛冶に出す時毎回怒られている気がする。それでも深い事情には踏み込まずに、仕事をしてくれるのは、鍛冶屋の良いところかもしれない。

「そんなことないよ。ランはランなんだから変わったりしない」

 いやそれはおかしいと、否定することができなかった。シキの纏う雰囲気が全部をあり得ることだと思わせてくる。

「ふああ。そろそろ寝る時間。おやすみ」

 言われて入ってきた方の道が完全に暗くなっているのに気づいた。日が沈んですぐくらいか。シキは部屋の隅にある葉っぱでできたベッドに倒れ込むと、すぐに寝息を立て始めた。こいつは警戒心というのがないのか。極めつけに、刀を抜き身のまま抱いて眠っている。

 普通に眠っているあたり、毎日のことなのだろう。

 奥を見ると、遺跡(ラボ)の残骸が淡い光を放っていたが、この暗い中で作業してもしょうがないし、僕も寝るか。



 洞窟の中、外を滝で蓋されているからか、意外と安眠できた。普段は森の中で虫やら獣やらに、いつ襲われてもおかしくない状態で眠っているから。

「起きて」

 ペチペチと頬を叩かれて起きる。普通に刀の切っ先で叩かれていたことに気づいて、危ねぇな。怪我したらどうする。

「大丈夫。ランは良い子だから、ボクが斬ろうとしないと斬れない」

「それは信じていいのか?」

「うん」

 今日はもう少し遺跡(ラボ)の残骸を調べるのと、ついでにシキの一日を観察することにした。どう考えても普通じゃないことをしているんだ、何かしら魔術的な洞察が得られるかもしれない。

「お前はこれからどうするんだ?」

「修行」

「ちょっと見てもいいか?」

「うん」

 そういって洞窟の外へ。入口は滝が塞いでいるのに、どうやって外に出るのだろうと思っていたら、なんと滝の裏側から滝を真っ二つに斬って道を作っていた。そうはならないだろう。

 洞窟から外に出ると、洞窟内からでは絶対に斬れない範囲が斬れていた。

「だから言った。ランは斬らないものは斬らない」

 なるほど。本当は昨日やったみたいに、滝全体を真っ二つにしていたと。洞窟の中でやったにも関わらず壁を一切斬らずに。

 確かに高度な魔術を使えば、特定の物体のみを指定して現象を起こしたり、パラメータを変更したりといったことは可能だ。だが、シキの動作を見ていても魔術を使っているようには見えなかった。

 記憶を消費している?

 嫌な可能性が頭の中に浮かんだ。それならば、シキの記憶が曖昧なのも納得が行く。無意識のうちに、魔術を使っていて、その代償を払い続けているのだとしたら。

「シキ、あまり言いたくないが、それやめた方がいいぞ」

「何を?」

「ほら滝を斬ったりだよ。代償に記憶がなくなってるんじゃないか?」

「そんなことないけど」

「じゃあ、どうして過去のことが曖昧なんだ」

「昔のことを忘れるのは当然じゃない? だって今の自分に関係ないでしょ」

 そういう性格だから気にならないのか。

「いやでも、そのうち人格まで使ってしまって死んでしまうんだ」

「そんなことないよ」

「なんで分かる」

「だって、そうじゃないから。自分のことくらい分かるよ」

「じゃあなんでそんな、簡単に滝を真っ二つになんて」

「修行の成果」

 シキは僕との会話を気にも留めずに、毎日やっている修行とやらを始める。

 まずはじめに滝壺の上に立ち。

 滝壺の上に立ち?

 それって下、水面じゃないの。水の上に立っている。正気か。

 目をつぶって立ったまま瞑想を始めてしまった。

 僕はその異様な光景に対して調査を開始することにした。

 例えば、前に戦った骨の化け物なら、構成要素の骨一つ一つに対して、化け物を形作るに足るだけの一連の動きが、どこかしらに仕込まれている。これは、魔術的な理解の感覚なので分からないかもしれないが。

 今回の場合だと、水の上に立てるだけの何か現象が、シキに対して付与されているだとか。あるいは反対に、シキの足元の水が人を透過しないような特殊な属性付けが、されているのかもしれない。もしかしたら単純に、シキがその位置に固定されているだけか。

 複数の魔術を使ってそれらの属性、パラメータを探っていく。

 何も、見つからない。

 足元の水もただの水だし、シキは浮遊しているのではなく、立っているだけだ。現実にある普通の普遍の現象と何も違いがない。まるで、その場所の物理法則が書き換わってしまっているかのように。

 糸口が掴めないまま、気づけば正午になり、そこでようやくシキは瞑想をやめた。

 ちょうど僕の腹の虫も鳴り始めたし、ご飯の時間だろうか。

 シキは滝壺から地面に戻ると、今度は一心不乱に刀を素振りし始めた。まるでウォーミングアップは終わりで、ここからが本番の修行だと訴えかけているようだ。僕はそれをリュックの中に残っていたナッツを食べながら眺める。

 動きは非常に早く洗練されているものの、さっきの瞑想に比べたら現実的な行為であった。少なくとも、常識からは逸脱していないように見える。

 にしてもすごい集中力だ。

 毎日本当に水の上で瞑想したり刀を振ったりして過ごしているのであれば、あるいは滝を斬るような境地に達するのかもしれない。

 魔術とは別の極地。

 暇になった僕は出来心で、完全に真後ろ死角から、ちょっかいを掛けてみることに決めた。

 僕自身が視界から消えたら何か察せてしまうかもしれないから、位置は移動せずに、刀の軌道を眺めながら魔術を詠唱する。

 当たっても怪我にならないような水球を、完全な真後ろに生成。温度のパラメータも低く、氷になるギリギリまで冷やした水滴を首元に垂らす。

 水滴が生成されて首元に落ちる瞬間、シキの姿が残像を残して反転し、水滴を斬った。

「なぜ分かった」

「なんとなく? 分かったものは分かったとしか言えない。それより今のどうやったの」

「魔術を知らないのか」

 一般的な魔術よりも圧倒的にやばい現象を起こしておきながら、魔術を知らないのか。つくづく常識はずれだな。

「魔術というのは」

 魔術の概要を端的に説明する。シキの首にはコンパイラの刻印がない。僕の魔術は使えないだろうから、魔術とは何か、教養的な話をした。

「そんな方法が」

 相変わらず感情が平坦で、関心しているのだか、何を思っているのか分からない。それで、次に出た言葉がこれ。

「ちょっと修行に協力して欲しい」

「なんですって?」

「水とか炎とか出せるんでしょ。炎斬ったことないから斬らせて欲しい」

 それは、こっちとしてもシキの起こす現象の手がかりを得られるチャンスだな。

「了解だ」

「んじゃ。何でもいつでもいいよ」

 十五メートルくらい離れて構える。位置は僕が森の側、シキが滝壺側。

 お望み通り炎を斬らせてやる。

 口で紡がれる呪文(コード)が現象へと変換されていく。

 まずは、拳大の大きさの炎を飛ばす。

 直線的な軌道で、飛んだ火球は難なく一刀両断され、消滅する。

 当然この程度はやってくる。

 次は段階を飛ばして、両手を広げても足りないくらいの大きさの、波のような炎を生成する。

 シキの集中の深さに応じて、空気に伝わるプレッシャーが濃くなる。

 これも一刀で、消失させられた。

 横に広がった炎を、横一文字で滝を斬ったときのように、斬り払ってしまった。

「こんな感じか」

 シキは刀を握り直して、今斬った感触を反芻しているみたいだった。うん、滝と同じ感じで斬れてしまうなら、これ以上規模を大きくしても無駄だな。

 じゃあ雷はどうだろうか。

 これは、金属に落ちやすい、だから、ただ刀で触れただけでは消失させられないだろう。

 こいつは制御が難しいので、真っ直ぐ一閃、小規模な雷を発生させて、水平方向に飛ばす(落とす)

「ん」

 ただ刀で受けただけでは消えないのが分かったのか、受け止めるのと同時に振って何かをする。

 そんな動作で消せるのか?

「今のはびっくりした。今のなに?」

「小さな雷だ」

「ふーむ」

 それから何か考え込んで、刀を振り直して想像の中でどう斬れば良いのか試しているようだった。何らかの形稽古(かたげいこ)に見えるが、現在進行形で雷を斬る形を試行錯誤しているのだろう。

「いけるかも」

 もう一度同じ魔術を出す。

「これじゃないのか」

 流石に、駄目だったみたいで、一太刀目で無効化することはできなかったようだ。

「これは今後の宿題にする」

 これは嬉しそうな声色に聞こえた。もっとも顔の方は笑ってないが。

「宿題が増えたら嬉しいか?」

「うん。まだまだ行けるんだって思う」

「そうかい」

 んじゃ、もうワンパターン試してみるか。

 例の骨の化け物に着想を得たやつを。

 集中を切らさないように気合を入れて、長い詠唱を紡ぐ。

 自分の上半身をすっぽり覆い隠すくらいの大きさの火炎を発生させて、一度目の前に留めつつ、構成要素である炎に行動を仕込んでいく。

 重いものが近づいた時に自然と避けて、その後また合流して一つになるような処理だ。これなら、物理的に斬る行為は意味がない。それだけでは炎を霧散させられない。

 果たして、もうすぐ射出できるはずの火炎が真っ二つに割れて消える。

 原因は分かっている、斬られたのだ。構築途中の魔術が。

「今の、完成していたら斬れない気がした」

「ふむぅ」

 もしそうなら僕の勝ちなわけだが。成立する前に対処されるとは思わなかった。魔術に造形のないシキが、今のを見て挙動を推測できたはずがない。未来予知にも近い直感で斬ることを決断させたのか。

 水上歩行や斬ることだけに飽き足らず、人知を超えた第六感のようなものまで備えているとは。

「お手上げだよ。お前は強い」

「それは、その通り」

 不貞腐れて大の字で寝っ転がった僕の顔をシキが覗き込んでくる。

 見透かしたような瞳しやがって。

「修行つけてあげようか」

「そう、だな。お試しなら」

 しかして、僕はつかの間の寄り道に、シキに刀について教えてもらうことになった。

 まぁ、対して身につかなかったんですけどね。だって無理でしょ、模擬戦とかやればなんか刀が増えたりするんだもん。次元がどこかネジ曲がってますよあれ。

 無論、元の目的であった遺跡(ラボ)の調査も平行して行っていたが、そっちも成果なし。

 ただこのような書き置きがあった。

 ゆえに、全は一、一は全。

 シキによると、ここでいう一は刀であるらしい。

 僕は魔術を使う魔術師であると思ったんだが、シキは反証として、こんなものを見せてきた。

 ああそれは、刀を透かして見るこの世の外の景色か。

 シキが刀に語りかけた後、精神統一を始めたかと思ったら、この世の闇という闇が刀に吸い込まれていった錯覚を覚え、そして、小さな星空が刀身に浮かび上がっていた。それもただの星空ではなく、ぼんやりした光の模様が脈動している星空であった。

 僕はその小さく深い窓に、神様のインタフェースを連想した。

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