21──戻らなかったもの、追いかけたいもの
前回までのあらすじ。
キャニーと逃げ出した。
キャニーが逃げ出した。
キャニーに追いついた。
キャニーがまた逃げた。
キャニーは酷いやつだ。
キャニーが泊まっていたらしい宿屋に着く。
そこにはキャニーはいなくて、手紙が一つあった。
コランが受付のおじさんを追い詰めて、わたしの名前を出すと、手紙が出てきた。コランはほんとにちょっとだけ、手紙を見てから、渡してくる。その手が震えていて、いつもなら乱暴にぐしゃっとしたいんだろうなって思った。そんなコランが大事なものみたいにシワクチャにならないように渡してきたから。なんだろうなって。
『オペラへ──』
大きな文字で書いてあるのに、太かったり細かったり。
「キャニー、こんな文字下手だっけ」
『キミを助けられなくて、ごめんなさい。
コランに会ってキミもこの町に来ていると聞いておどろいた。まさかボクのことを探しているなんて、てっきりキミに、. .. k嫌われているものだと
でも、ボクはキミに合わせるかおがないから、てがみをのこしておきます。
いちおう、キミが読めるように書こうと思うけど、ムリならコランに読んでもらって。
さて、単刀直入に、オペラ、もうボクのことは気にしないで、間違っても追って来ないで。ボクはもうキミに会えないです。会ってはいけない。
僕は人殺しだから。
間違って人を殺したとか、そんなんじゃなくて、
何人も、何人も、女も子供も、
殺した殺した殺しました。
でも、(文字がぼやけてる)、もう、何も思わないくらい殺した。
村一つ滅ぼしたりもしたし、これからも人を殺します。
ほんと、キミは僕と一緒にいてはいけないから。
僕のことを追いかけないで。
ほんとに、
僕は君のことなんか大事じゃないし、くだらない、くだらない欲求のために利用していただけで、軽蔑されるべきで(線が暴れていてよく読めない)
だからオペラ、君は僕といると不幸になるし、君は僕にとってお荷物だから、さようなら。もう二度と会わない。コランは怒ると思うから、迷惑かけるけど、ごめんね。
ああ、それから。
別の紙にオペラのお母さんたちの場所を書いておく。こんなことしかできなくてごめん。もちろん僕はそこにはいないけど、せめてこれくらいは。
それじゃあ今度こそさようなら。これで僕のことを嫌いになって、僕とは関係ない人生を歩んで欲しい。それからできれば、冒険者なんて危険な仕事はやめて欲しいし、コランとも縁を切って欲しい。もっと、安全で安定した仕事をして普通の幸せを掴んで欲しい。君はまだ幼いんだから。いくらでも良い人生を歩めるはずだから。
もう無関係のキャニーより』
手紙を読み終えて、
「あ、ぁぁぁぁぁぁぁあああああ」
もう何がなんだか分からなかった。
「────」
のどの底から、色の違う魔術のようなものが出てきそうになって、止める。周りがグシャグシャになるかもしれない。
服の袖全部使って目をこすって、顔を上げる。
「何て書いてあったの?」
どうせ下らないこと書いてあったんでしょと、コランが優しく言う。
「さようなら。って」
「オペラちゃんのこと嫌いって?」
「書いて…………ない。でも、もう会わないって、いっぱい人を殺しちゃったって、それから、それから、お母さんたちの場所も」
「は、──すぅはぁぁぁぁぁ。どうしようもないわね、あいつ。うん、流石に付き合いきれない。オペラちゃん、今日はもう休もっか。一日ぐっすり寝て、どうするか明日考えましょう」
なんだか頭が重くてぼんやりと熱くて、その日はコランの言う通り宿で一晩過ごした。
朝、窓を開けたら、お日さまがすっかり登ってた。青空と雲。いつもだったらコランに怒られそうな時間。
「お母さんに会える」
そうじゃなかったら。
「キャニーには、会えるのかな」
もう。
こんなお手紙だけ置いて、わたしは、わたしは。
「キャニーなんて知らないっ」
なんか、誰にも聞こえてない気がして、もっと大きな声を出す。
「キャニーなんか! より! おかーさんを、迎えに行くぞー」
「それじゃ、行きましょうか」
コランが扉を開けて待っていた。
「うんっ」
急いで着替えて荷物をまとめて部屋を出る。ずっとずっと、すぐに出発できるようにしてきたから、準備しなきゃいけないものはほとんどなかった。
道を外れて、手紙といっしょに入ってた、地図の指す方向へ。
一日中歩けば着くくらいの遠さだと思う。
森の中で一泊して、日の登りはじめ、夕焼けのように真っ赤に染まった空といっしょに、また歩く。地図に描かれていた場所に近づくたびに、目を耳を鼻を気をつけて、ネズミの動く音にびっくりしたりして。ずんずん進んでいく。
もうそろそろ到着してもいいくらい。
地図の読み方もバッチリだけど、今は自身がない。
でもそのうち、遠くの方から煙の匂いがしてきたから、焚き火の明かりが見えたから、きっとあれだと思って、走っていく。
暗くなった森で走るのはいけないんだけど、この時は冒険者の心得なんて振り切って地面を蹴った。
そして、勢い余って飛び出しちゃって、
「あっぶない」
焚き火。
止まれなくって、ぐるっと地面に転がった。
「ぺぺっ」
土と腐った木の味がする。
じんじんする体を起こすと、懐かしいみんながいた。
「おいおい、大丈夫か?」
「……ファジンおじさん?」
「ん? もしかして、オペラか?」
「そうだよ! えーと、その、お母さんとお父さんいる?!」
「あ、ああ! いるよ! いるっ。すぐに呼んできてやるからな」
そう言って、今度はおじさんが走り出す。
わたしはその場にへたり込んで、村の人の人たち──話したことある人やあんまり話したことない人も──にたちまち囲まれてしまう。
「ちょっと、オペラちゃん」
コランは知らない間に人の壁の向こうだけど、そんな場合じゃなかった。
みんなどっかボロボロで、痩せてたり、汚れてたりしたけど、村のみんながここにいた。
知り合いみんなでキャンプしてる気持ちになりながら、少し待っていると、人の壁が分かれて、会いたかった人がやってくる。
「「オペラっ」」
ぐぐぐと喉のバネを押し込んで、わたしはこう言った。
「ただいま」
「「おかえり」なさい」
前の日常が戻ってきた。家の壁はないし、夜は寒いけど、村のみんなは生きていて、とっても嬉しかった。村に戻ってきてから二週間過ぎた。いつも遊んでたセンブラ、アル、マールもいて──忙しくてあんまり遊べないけど──おまけに、ガキ大将のクプまでいて、でも、楽しかった非日常は戻ってこない。
家の隅っこに寝っ転がって、ぼーっとして。
服の袖で汗を拭く。魚みたいな形の白い雲を見つける。
「どしたの? オペラ」
お母さんの声。
「ううん」
「色々あったみたいだから、疲れちゃったのかしら」
「うーん」
「疲れてないなら、また木の実集めを頼もうかしら。オペラったらちょっと見ない間に、森が得意になってるんだもの。助かるわ」
「うん。何とるの?」
「あおはと山の方で、ブドウを見かけたらしいから、そっちの方で色々集めてきてね」
「うんっ」
ジャンプするみたいに立ち上がる。今まで家の中だったのに、もう外だ。ドアを開けなくていい。
「今日のご飯は?」
「今日は確か、イノブタを狩るって行ってたかしら」
「お肉!」
「そうね。今日はおかわりもできるかも」
「行ってくるー」
お母さんに手を振って出発……の前に冒険者ポーチを腰につける。丸腰で山に入るのはバカってコランに言われちゃう。
「ほんと、しっかりしたねー」
そんな声が聞こえた気がする。
そのまま、三十分くらい歩いて山に着く。
さっととって、さっと戻らなきゃだね。お母さんに特製ソースも作ってもらわなきゃ。
森の中はいっぱいの葉っぱの中に、おんなじ緑の実があったり、たまに黒とか赤の実があった。道を進みながら手の届くやつは普通にちぎって、届かないのは木を揺さぶったり、登ってとったり。
頭がすっぽり入る麻袋の、半分くらいまで実が溜まってずっしりと重い。もっととったら、実が潰れるかもしれない。
「そろそろ、かえるー」
ご機嫌に凱旋の口笛を吹こうと思って方向転換したその時。
ざざっと、茂みの揺れる音がする。
口を閉じ、麻袋をそっと置いて、姿勢を低く、あたりを見回す。
道の前後には何もいない。音は、ゆっくりと右の茂みから近づいてくる。熊ほどじゃないけど、ウサギでもなさそう。
大人の背よりもさらに大きい。でもこのシルエットは。
「ぁ、ぁ」
バスンと、黒尽くめの巨大な人形と、その半分くらいの背の男の子が茂みから出て倒れる。ジャンゴ? だっけ。武闘大会のときに会った人だ。
「だ、だいじょうぶですか?」
「うぅ。みずをください」
たいへんっ。わたしはすぐに、革袋でできた水筒をジャンゴに渡す。前は、この人そっくりの人形もいたけど、今は本物みたいだ。
「ふぅ。生き──返る。ありがとうございます。っと、おや、君は確か」
「オペラです」
「久しぶり。こんなに早い再開になるとは、思わなかった。見たところ軽装のようだし、近くに拠点か町があるのかな?」
「わたしの村です」
「それは僥倖だ。申し訳ないが、少し世話になっても? 見ての通り行く宛のない身で、お腹と背中がくっつきそうなんだ。心配しなくてもいい。持ち合わせならある」
「じゃあ着いてきて、ください」
うーん。どうしよう。家に連れて帰ったら怒られるかなぁ。
振り返りながら後ろを見ると、疲れた顔だけど、危なげない足取りでジャンゴとその後ろに巨大な人形が着いてきている。怖い。人形の手はナイフよりも大きな爪が付いている。男の子の方に目を戻すと、わたしをジロジロ観察しているみたいだった。
「そういえば、村というのは何村だね?」
ジャンゴが落ち着いた口調で言う。前に会ったときは何も気にしなかったけど、ジャンゴって何歳なんだろう。身長はわたしより少し高いけど、なんだか大人びているし、魔術もすごいし、一人で旅をしてるみたいだし。
「えーと、質問に答えてもらっても大丈夫かな? そんなに見られると嫌な気持ちになる」
「すいません。スピム村です」
「ん、すぴむ? 別の名前があったりしないか? 村の外で呼ばれているような」
「……キャニーと話したときもスピム村だった、でした」
「ああいや、地図で名前を見てないなと思ったんだが。うーむ」
「あ! ないですよ」
「ないのか」
「はい」
「ぐぬぬ。じゃあ結局、何も分からないじゃないか。行きの反省で、ちゃんとした馬車を手配したにもかかわらずこれか。何が、何がいけなかった」
段々と声が小さくぶつくさと独り言がはじまる。キャニーもこんな風になってたなー。
「ジャンゴさんは何しに、ここに来たんですか?」
「来たんじゃない。普通に家に帰れるはずだったのに、馬車が動く木の化け物に襲われたんだ。信じられない。まさか動く植物がいるなんて。ましてや、こんなタイミングで襲われるなんて。騎士や動物ならともかく、木と戦う装備なんて持ってるわけないじゃないか。薄い鉄板なら貫通しても、木の幹なんて刺さりはしても効きやしない。うーん」
どうやら、ジャンゴの国に帰る途中で、動く木の化け物(前にキャニーが戦ってたやつ)に遭遇して、馬車がやられて、そこから森の中を迷っていたみたい。方向音痴で一週間以上、当てもなく山を歩いて無事なのはすごいなぁと思った。
そんな風に話しながら、村まで戻ってくる。
「なぁ、オペラ。この村は火事にでもあったのか?」
言われて気付いた。この村には壁がない。まだ家が完成してなくて、床は完成してきているけど、壁は何もないか、蔦や布をかけているくらいだった。
「そ、そんなかんじ~」
「詳しくは聞かないが、大変だろうこれは。そうだな。僕ならこいつを使って材木運びくらいはできる」
指さされて人形を見上げる。ちょっと頭を下げないと建物に入れないくらい大きい。これが力持ちなら、大工さんの代わりもできそう。
「食事はどうしてる?」
「どうって、山で採ったり、クランドさん……えーと、行商の人が色々持ってきてくれたり、です」
「なるほど。生活自体は普通にできているか。最後に、村の村長とか偉い人の家を教えてくれないか」
「どうして?」
「仕事をもらいたくてね。何日か世話になるだろうから」
「それだと、ジョンおじいさんの所だと思う。真ん中の道を東に真っ直ぐ進めば、ジョンおじいさんの家だよ」
「恩に着る。では」
「ちょっと待って!」
「何だ」
「そっちは北だよ」
「じゃあこっちか?」
「西……」
「ふむ。だめか」
「はぁ。案内しましょうか?」
「改めて、恩に着る。この借りは何らかの形で返そう」
「本当に方向音痴なんだ」
「レディ。口に出ているよ」
「すいません」
「……これは本格的にナビゲーション機能開発に着手すべきか」
またブツブツと独り言がはじまる。
わたしが目を離すと、フラッと別の方向に歩き出しそうなジャンゴを連れて、ジョンおじいさんの家に到着する。
元は二階建てで柵もあった大きな家だったけど、今は一階しかなくてロビー部分と最小限の生活スペースだけ。村で壁が完成しているのはこの建物しかない。
そんな建物の玄関に持たれ掛かって、あっ動いた。
何かを投げた?
まっすぐと、それが隣にいたジャンゴに飛んできた。
「■■ ●」
わたしの魔術で小石を叩き落とす。
多分次は、
「正解。腕はなまってないわね」
すぐ目の前まで接近していたコランに向かって、構えていた両手を解除する。
「でしょー」
「抜くのが間に合わないナイフじゃなくて、投げの構えをとったのも良かったわ」
「体格で勝てない相手が走ってきたら投げ。でしょ」
「はいその通り。私たちは力比べ速さ比べをしちゃだめだからね」
ナイスといいながら、わたしとコランはハイタッチをする。
真っ赤で派手な赤いツインテール、わたし相手でも度々本気で組みかかって、生きる術を教えてくれる。コランとは村に着いた頃に物資の手配などをするために別れて、そのまま別行動になっていた。
「おい。なんでこいつかここにいる。それに、僕の見間違いじゃなければ今攻撃されたよな?」
「あら、ごきげんよう。お名前を頂戴しても?」
「そんなお嬢様キャラじゃなかっただろう。それに、僕の名前を忘れたとは言わせないぞ」
「フラスクくんだっけ?」
「ジャンゴだ」
「ああそうだったわね。私の名前は分かる?」
「コランだろう。君みたいな強烈なやつ忘れるわけがない」
「それは結構。それで、なんでいるの? ああいや違った。どうしてオペラちゃんと二人でいるの?」
「なんだよ。お前はこいつのママンか? まぁいいか。単に森の中でぶっ倒れたところを助けてもらったんだよ」
「それはそれは」
「二、三日はここに滞在して英気を養うつもりだよ」
「あらそう」
「それじゃ。僕は村長に仕事をもらいにいくから。オペラ助かったよ」
そう言って、ジャンゴと人形は家の方へと歩いていった。扉を開けたジョンおじいさんが腰を抜かしていて、面白かった。
「あちゃー。流石にあのデカい人形は目立つわよね」
「そうだね」
「それはさておき。オペラちゃん元気してた?」
「うん」
「そう、良かったわ。何か困ってることない?」
「家の壁がなくて夜寒いの」
「そうね。やっぱり建物の再建は時間がかかるかー。毛布とテント布の持ち込みを増やすように言っておくわ」
「でもね、それ以外は大丈夫。コランは?」
「こっちは慣れない仕事でしんどいわねー。んーまでも、今日見てる感じ、順調に復興は進んでるし、もうそろそろお役御免かなー。あっ、今日は一泊するからオペラちゃんの家に泊めてもらうかなと思って」
言いながらコランは、わたしの家の方向へと歩き始める。
「ほんと? やった! 何日でも泊まっていいよ」
「それは遠慮しておきます。私あんまり一箇所に長く留まってるの性に合わないのよね」
二人で歩きながら会話する。
途中コランが村の様子を見るために遠回りをする。村の端の方では木を切り出していたり、ボケ爺さんで有名だった人が目が覚めたみたいに働きはじめたり、常駐の医者の家にはちょっとした行列ができていたり。
まだまだ足りないものは多いけど、いずれ全部元通りになりそうな、そんな村の風景をコランと眺めながら話す。あれを手配したのは私だとか、もっとこれが必要だとか、平和だなぁとか、村の人の紹介をしたりとか。
コランと村の中で話をするなんて夢にも思わなかったなーって、昔のわたしからしたら村の外に出るのも考えられなかったことだ。
「どうかした?」
「なんでもないよ」
「ふーん。なんか物足りなさそうな顔してるわよ」
「そうかな」
どうなんだろう。お母さんもお父さんも帰ってきたんだから、大丈夫なはずなのに。
「ま、いいわ。今日は一晩中女子会できるわけだし、ね」
「何するつもりなの?」
「パジャマパーティーに恋バナ恋占とか」
「恋バナって、コラン知ってるでしょ」
「えー。でもでも村のみんなが戻ってきて、幼馴染との恋とかー、あるんじゃないの?」
「コランのバカ」
人のことをおちょくるくせに、コラン自身は特に恋とかしてないのが悪い。前に恋バナになったときは、恋バナじゃなくて今までコランに絡んできた男たちをどう撃退したかとか、そういう話ばっかりだった。
「ごめんねオペラちゃん」
「ふんっ」
ああでも、そうなんだ。村のみんなが帰ってきても、わたしの心はどこか上の空。だから、キャニーと過ごした日々が好きなんだなぁって、ひょっとしたら村のみんなよりもずっと、好きなのかもしれないって。
わたしって酷いなぁ。
その日の深夜。
積もる話もあるだろうって言ってたコランが、いつもの時間で先に寝てしまう。それで、こんな言葉を残していくものだから、わたしは眠れなくなってしまった。
「大丈夫よオペラちゃん。オペラちゃんが本当にやりたいことをやればいいのよ。私もそうやって生きてきたわ」
なんて、コランはそんな人だった。こんなワガママな大人もいていいのか。わたしも、そう、キャニーを捕まえるって決めたんだよね。
おどおどしてるけど大胆で、わたしを助けてくれて、でも頼りなくて、放っておけない人。
「好きって何なのかなぁ」
天井を眺めながら呟くと、隣の部屋にいたお母さんが話しかけてくる。
「オペラまだ起きてたのかい?」
「うん」
「恋の、悩みかい?」
「うん」
「オペラもそんな年になったのねぇ」
「お母さん、お母さん。もしわたしが旅に出たら寂しい?」
「そうねぇ。寂しいねぇ。せっかくまたこうやって暮らせるようになったんだから。でもね、オペラ。寂しいのは少しだけだから、オペラのしたいことをしたらいいと思うよ」
「したいことをしてもいいの」
「いいよぉ。お父さんは何か言うかもしれないけど、オペラの人生なんだ」
「でもね、村のみんなを、おいていっちゃうのは」
「うん。あのねオペラ。オペラは優しい子だけど、それは優しさじゃないんだよ。だいたいねオペラ、村のみんなはまた会えるようになったけど、その人は会えるか分からないんでしょう?」
確かに、キャニーは追いかけなければもう一生会うことはないかもしれない。そう思うと、本当に本当に胸のあたりがしんどくなった。
「お母さん思うの、オペラが素敵なお婿さん連れて帰ってきて、幸せそうな花嫁姿見せてくれたら、それはすっごくいいことだなぁって。だからね。追いかけなきゃダメなのよ」
「お母さん……、素敵な人じゃないかも」
「ふふっ、ええ! そうなの?」
「そうだよ。ダメダメだし、勝手にどっか行っちゃうの」
「それじゃあ、余計にガッシリ捕まえとかないとだねぇ」
「うん」
そうだった、そんな話を前にコランともした。
「いいかいオペラ、そんなに大事な人ならね。ふん縛ってでもここに連れてきなさい。そしてお話をするの。納得できるまで。分かった?」
「うん」
そうしてその日はキャニーのことを考えながら眠りに落ちた。
夢の中でキャニーが、すごくすごく一人ぼっちで、こっちを振り返ったから、それを追いかけなきゃいけないと誓ったんだよ。
正午、お母さんとお父さんとお別れを済ませて、コランと二人で行商人の荷馬車に乗り込む。村に物資を下ろした荷馬車はスカスカで快適に乗ることができた。
幌の布越しでも充分に明るい晴れの日。
「ねぇコラン。本当に一緒にきてくれるの?」
「もちろん! 私は恋する乙女の味方なのよ」
こうしてまた二人、キャニーを追いかける旅がはじまるのだった。
そんな訳で、最初に言ったモノローグは更新しますっ。
前回までのあらすじ(Ver. 2)。
キャニーと逃げ出した。
キャニーが逃げ出した。
キャニーに追いついた。
キャニーがまた逃げた。
キャニーは酷いやつだ。
だけど、追いかけるよ。




