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6 迷惑系魔法使い現る

 


 兄ゲオルクとアマーリエの婚約は、何とかそのまま継続することが決まった。 


 そして、今日も今日とてクラウディアとギルベルトは放課後の学園カフェで紅茶を飲みながらダベッている。

「いや~、俺も見てみたかったな~。君の兄さんの全力土下座」

 王太子ギルベルトが笑いながら言う。

「オホホ。私も見てみたかったですわ。でも、とにかくアマーリエ様が兄を許して下さってホッとしました」

 クラウディアも笑顔で語る。

「本当に良かったよ。アマーリエ嬢は器が大きいね」

「アマーリエ様が仰るには、全力土下座をする兄の情けない姿が『可愛かったから』と」

「う~ん。人間、何がツボにはまるか分からないものだね」

「オホホホホ」


「アードルング公爵家としても、ベスタ―侯爵家に正式に謝罪したんだってね?」

「そうです。もともと兄とアマーリエ様の婚約は、うちの父がベスタ―侯爵に頭を下げて頼み込んで結んでもらったのですもの。にもかかわらず、兄がアマーリエ様を蔑ろにして男爵家の庶子に現を抜かしていたと知って、父は大慌てでしたわ。心労のあまり頭頂部の砂漠化が加速してしまって……本当に兄は親不孝者です」

「(頭頂部の砂漠化か……)それはまた、公爵も気の毒なことだな」

「ええ。おまけに兄を殴ったら、殴った父の方が拳を骨折してしまいましたの。筋肉達磨の兄は無傷ですのに。まるでコントのようでしたわ。笑えませんけどね」

「それはまた……」

 

「とにかく、今回の件で父も相当懲りたのでしょう。二度と兄とリリーが関りを持たないようにと、リリーを退学に追い込みましたの。学園と男爵家に圧をかけたようですわ」

「まぁ、その対処は正解だろう。リリーという女が学園に残れば、新たな面倒事を起こす可能性も否定できないしね」

「私もそう思います。とにかく、これで兄の浮気事件は一件落着コンプリートですわ」

 クラウディアはそう言うと、ほうと息を吐き紅茶を啜った。


「ねぇ、クラウディア」

 ギルベルトが悪戯っぽい眼差しを向ける。

「はい?」

「もしも、俺が浮気したらどうする?」

「二度と笑えないようにして差し上げます(真顔)」

「……あ、うん。わかった(恐)」

「やだ、ギルベルト様。冗談ですわよ。ギルベルト様は王族なのですから、好き放題なさって良いのですよ?」

「何だよ『好き放題』って?」

「好き放題なさって構いません。好き放題なさればよろしいのでは? ええ、是非好き放題なさるべきですわ(ヤりたきゃヤれよ!)」

「……しません(恐)」

「オホホホホ」

「ハハハハハ」

 放課後の学園カフェに乾いた笑い声が響いた。




 ******




 週末、クラウディアは王宮を訪れていた。

 王太子の婚約者であるクラウディアは、学園の休日に王妃教育を受けているのだ。

 公爵家の侍女を連れ、いつものように講義室に向かうクラウディア。10歳の頃からもう3年間通っているのだ。勝手知ったる王宮の中を進んでいたクラウディアだが、何故か行けども行けども講義室に辿り着かない。それどころか、先程確かに通り過ぎたはずの場所にまた戻っていることに気が付いた。歩みを止めるクラウディア。


⦅これって魔法よね? 時戻りではないわね。幻影魔法かしら? マボロシ〜?⦆

 

 王宮魔法使いの悪戯だろうか?

 だとすれば随分とタチが悪い。クラウディアがもしも天才魔法使いではなく、ごく普通の貴族令嬢だったならパニックに陥ってもおかしくない状況だ。


「お、お嬢様。どうしましょう? 何が起きているのでしょうか?」

 狼狽える侍女。

「大丈夫よ。落ち着いて」

 クラウディアは、侍女にそう声を掛けると、とりあえずこの場に仕掛けられている全ての魔法を解くべく【何でもかんでも全解除魔法】を発動させようとした。相変わらず命名センスは無い。

 その時だ。


「おや? こんな所で立ち往生ですか?」

 薄ら笑いを浮かべた若い男が不意にクラウディアたちの前に現れた。15~16歳くらいだろうか? 13歳のクラウディアよりも少しだけ年上に見える。王宮魔法使いのマントを着用しているが、身体に馴染んでいない。おそらく、成人を迎えて王宮魔法使いに任用されたばかりなのだろう。


⦅感じワル! イケメンだけど性格歪んでそう⦆

 そう思ったが、クラウディアは彼に穏やかに声を掛けた。

「この魔法はアナタが?」

 魔法使いは得意気に答えた。

「ええ、そうです。凄いでしょう? 俺には出来ないことは無いんです。着飾っているだけの貴女のような貴族令嬢なんかより、俺の方がずっと価値がある人間なんですよ」

 何だ、コイツ? くっだらない。おまけにコイツはクラウディアをただの貴族令嬢だと思っているようだ。この国の貴族で王太子の婚約者を知らぬ者はいない。コイツは平民なのだろう。


「なるほど。つまりアナタは自分の承認欲求を満たす為に、王宮の中でこのような迷惑な魔法を展開したと。そういう事ですのね?」

 嫌味ったらしく言ってやる。この迷惑系魔法使いめ!

「何だ、その言い方は?! 俺はもの凄い魔法使いなんだぞ!」 

 粋がるバカ。


「あら、そうなんですか? それで? 着飾っているだけの未成年の貴族令嬢と供をしているアラサー侍女を驚かせて満足しましたの? なんてみみっちいんでしょう。それでも男なのかしら? アナタ、〇マが付いていないのではなくって?」

「は? え? た、タ〇?」

「付いていないに違いないわぁ~」

「そ、そんな事はない!」

「じゃあ、見せてみなさいよ!」

「セ、セクハラ!? お前、本当に貴族令嬢か? 平民の女でもそんな事言わないぞ!?」

 焦る阿呆。

「あら、そうなんですか? それでは、こういう台詞も平民女性は言わないのかしら?」

「へ?」

「これ以上ふざけたマネしやがるとケ〇の穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞ、ゴラぁ!!」

「ひぃぃぃっ~!?」

 悪い魔法使いは走って逃げて行きました、とさ。


 クラウディアは、自分が魔法を使うことなく勝利したことに少し驚いていた。

「人間、やっぱり大事なのは気迫なのね」

 しみじみ呟くクラウディア。

「さすがです。お嬢様」

 持ち上げる侍女。

「あれ? そう言えばアイツの名前、何て言ったっけ?」

「……名乗っていなかったと思います」

 承認欲求の塊のくせに?

「まぁ、あんな迷惑系魔法使いは他にいないだろうから、すぐに特定できるわね?」



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