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蜘蛛の元へ戻ると、マーラとイエナが出迎えた。

マーラは満足げに笑みを浮かべている。

「デュラハン、ミート。周囲を警戒しろ。バジリスク、蜘蛛に挨拶してこい」各々のアンデッドが命令通りに行動する「さてマーラ。聞こうか?」

「シャラ~ン!」両手を広げ道を開けるマーラ。

緊張しているのか、隣でかしこまっているイエナ。

「繭?」複数の蜘蛛の繭が木の枝から吊り下げられている。

「そっ! イエナのアイディアで、待っている間、魔物を捕えておいたの。私とその蜘蛛ちゃんは手伝っただけ」

「ほお」

繭が動いている。

「生きたまま捕らえたのよ。ね?」

「はい」

「イエナ、良いアイディアだな。良くやった」

「ありがとうございます。2人のおかげです」

「さっそく見てみるか」

繭の前に向かう。

「やったね!」

「うん!」イエナとマーラがハイタッチを交わす。

「蜘蛛ちゃん、あんたも手伝ってくれたおかげで大成功よ」

「ギュルル」

「モート、剣を」

手を横に差し出す。

「ガル」

モートが蜘蛛の元まで駆け、くくりつけている布から剣を一本取り出し、すぐさま差し出した手に剣が届く。

繭に小さい切れ目を入れ、中身を確認する。

小さな切り口を開けると同時に、中にいる魔物が黄色い胞子を放ってきた。

辺りに舞う黄色い胞子を見る。

胞子が漂い、そしてゆっくりと舞い落ちていく。

手の平に少し積もった胞子を片手で嗜める。

麻痺性のある胞子か。

フングスだな。

フングスが続けて紫の胞子を放ってくる。

剣を構え、フングスの額に剣先をゆっくりと突き刺していく。

繭の中で激しく暴れるフングスを突き刺し、突き刺した剣に力を入れ抑制する。

そして次第に暴れるフングスの動きが収まり静かになった。

茶色の血が滴る剣を抜き、モートの方へと差し出す。

モートが剣を受け取る。

「モート、残りを頼む」

「ガル」

モートが繭を切り開いていく。

地面にフングスの死体が落ちる。

落ちた地面には茶色い血だまりができ広がっていく。

フングスにヴォイドの囁きを放つ。

ヴォイドの囁きをかけると、すぐさまフングスの両目に緑の輝きが宿り、アンデッドになったフングスが起き上がる。

フングスは右足で立ち左足を震わせ、今度は左足で立ち右足を震わせる。

「あ~! 元の姿のまま、ぷっくりキノコで可愛い。少し元より毒々しすぎる色になってるけど」

デスフラワーの傘を触ろうと手を伸ばすマーラ。

「触れない方がいい。生者にとっては危険だぞ」

そっと手を戻し、アンデッドフングスから距離を取るマーラ。

「どれくらい危険なの?」

尾を脚の間へしまうマーラ。

「耐性がなければ、吸い込んだ胞子で内蔵がじわじわ溶けていくだろうな。それから次第に意識を失い……まあそんなところだ」

「なんて恐ろしい子なの」

「そうだな」

手の平を曲げるマーラ。

「生者は私だけ。アンデッドはお気楽でいいわよね。まるで歩く時限爆弾」

「気を付けろよ」

「ねえ、あのキノコに命令する時は事前に私に言ってよね」

「それとなくな。忘れなければきっと」

「本気で言ってよね。生きたまま内臓溶けるなんて冗談じゃない!」

「分かっている。ジョークだ」

マーラが呆れた顔で首を左右に振る


モートが次の繭を切り開く。

こいつは……。

「マーラ、耳を塞げ」

「えっ」

耳を寝かせ、上から手で押さえるマーラ。

「ギャァァァァ!!」

周囲に高音の絶叫が響く。

強烈な音波に驚き、目を点にするマーラ。

絶叫したマンドレイクがこと切れる。

マンドレイクの体は縮小し、干からび萎んでいた。

「捕らえた時、マンドレイクだと知らなかったのか?」

「知らなかった。手当たり次第に捕らえたから。はぁ~、にしてもビックリした」

ヴォイドの囁きを干からびたマンドレイクに放つ。

マンドレイクがキメラへと変化する。

「ソースボムじゃないんだ」

「よく知ってるな。だがソースボムを生み出すには一手間がかかるんだ」

「どういう風に?」

「マンドレイクは死を悟ると、体内にある生命力と魔力を融合させて、今のような音波を放つんだ。それを発生させないようにする必要がある。眠らせたりして、口を塞いだりしてな」

「ふ~ん。ソースボムは手間に見合うの?」

「用途次第だろう」

「死霊術って思ってたより奥が深いのね」

「それを追い求めるのは楽しいだろう?」

「まあね。面白い。ネクロマンサーが少ない今なら特に」

「ふむ。モート次だ」

モートが次の繭を切り開く。

死んだゴブリンの頭が繭からどろりと垂れる。

ゴブリンの顎を掴み、上を向かせ、額を見る。

遺跡で見たのと同様の刻印が額に刻まれていた。

「なにこの変な模様」

「見た事ないのか?」

「うん。ゴブリンはよく戦化粧してるけど、これは何か違うかな」

「ふむ」烙印から覚えのある魔力の痕跡を感じるな「魔法の類いだろう」

「どんな魔法?」

「さあな」


モートが繭の切り口を広げ、ゴブリンの死体が地面に落ちる。

ヴォイドの囁きをゴブリンに放つ。

死霊術をかけるとゴブリンの体は塵と化した。

マーラはしゃがみ込み、ゴブリンの塵を手で掴む「何かに使えるって聞いた事がある」マーラが小指の方から塵を落としていく。

「食ってみろ」

「ンフフ、笑える。錬金材料になるらしいから、一応確保」

「確かに役立つかもな。錬金術に覚えがあるのか?」

「あるけど。大した程じゃない。あなたは?」

「俺もさ。だが強力な魔物なら分かるが、ゴブリンはどうだろうな」

「まあね」

マーラが布袋にゴブリンの塵を入れる。

ゴブリンの塵が入った布袋の底を軽く叩き、笑顔を見せるマーラ。

それとなく相槌を送る。


モートが次の繭を切り開く。

フングスが出てくる。

こいつはさっきの個体と違い、あまり元気がないな。

モートがフングスにとどめをさし、繭を切り開き地面に落とす。

ヴォイドの囁きをフングスに放つ。

アンデッドフングスに変化する。


次で最後か。

これは他よりもでかいな。用心しておかなければ。

「ミート」

ミートを繭の側につかせる

モートに頷き、モートが大きな繭に切り口を入れる。

「グァァァァ!!」

モートが繭を開くと同時に、魔物の咆哮が響き渡る。

鋭利な牙が多数生える大きな口が襲いかかってくる。

ミートが魔物の首を掴み、繭が吊るされていた巨木の幹へと激しく打ち付けた。力任せに打ち付けたミートの力の衝撃で巨木の幹に衝突痕ができた。

大きな口を持つ魔物は、自身の首に押し当てられたミートの手をどかそうと必死にミートの腕を引っ掻いている。

暴れる魔物の手から伸びる鋭利な爪には、ミートの肉とはまた違った真新しい別の獲物の肉が残っていた。

「大丈夫なの!?」

俺の背を押し、背後に隠れているマーラ。

「いいや、大丈夫ない。お前のせいで食われかけた」

「リッヂだから大丈夫じゃない?」

「リッヂも無敵じゃない」

「冗談でしょ」

マーラの方を向く。背後ではミートが抵抗する魔物を抑え続けている。

「いいや、正直な話、遺跡の騎士連中に塵にされていた可能性も十分あった」

背後のミートを気にしているマーラ。

「凄く冷静そうに見えるけど」

「そう見えるかもしれんが、いつ虚無に返されるか気が気じゃないんだ」

「凄く冷静そうに見えるけど」

「意外とキテると」

「そんなとこだ」

「オッケー、あ~、真面目な空気って私苦手」口角を上げ、肩を少し竦めるマーラ。

「俺もさ」

魔物の方を向く。

「それにしても、どうしてアリゲーターがこんな深い森のところにいると思う?」

アリゲーターか。太ったリザードンマンかと思ったが。

「近隣の魔物ではないのか?」

「うん。ここら辺じゃいない。沼とか、海とか、そういう感じ?」

「今いる場所は随分と内陸部なんだな」

マーラが軽く何度か頷く。

ミートが両手でアリゲーターの首を掴み、へし折った。

「おっと、大きな林檎」

「良い音だな」ミートの元へ行く「ミート良くやった」

地面に横たわるアリゲーターを眺める。

アリゲーターは腹が異様に肥え、全体的に太っている。

「こんな太ったアリゲーターがいるなんてね」


ヴォイドの囁きをアリゲーターに放つ。

アリゲーターの閉じていた両目が緑に輝き、光を取り戻す。

アリゲーターはゆっくりと重量のある自身の胴体を太い足で支え立ち上がった。

近くだと余計にでかいな。体格はミートと同じぐらいか。いや、尾を入れると全長は蜘蛛ほどはありそうだ。

本当にアリゲーターか。

「なんか今までで一番迫力がある」

「確かにな」

アリゲーターが大きな口を開く

ワーム同様に多数生えた牙が与える威圧はある。

「もし対峙したとして、こんなのどうやって倒せばいいわけ?」

アリゲーターの腹を指差す。

「意外と腹がガラ空きだろ。ここを狙えばいいんじゃないか?」

「接近して腕が食われなければね」

マーラがアリゲーターに近付く。その時アリゲーターが体を大きく動かした。

「ちょっと!?」

アリゲーターが腹を掻いている。

「怖いのか?」

「当たり前じゃん。この中で味があるのは私だけだろうしっ」

「鰐は苦手か」

「如何にも生者って感じでしょ?」

マーラがアリゲーターの腹に手を置く。

「ここを……うわっ、なにこれ堅っ」

擦り、そして軽くパンチするマーラ。

「刃は通りそうか?」

「折れるんじゃない。鈍器系じゃないと無理そう。生半可な剣じゃ、たぶん無理」アリゲーターの腹を何度も触り、アリゲーターの甲殻に感心している様子のマーラ「ドラゴンの鱗みたい」

「斬撃には抵抗があるが殴打には脆弱だからな」

「だからデュラハンじゃなくてミートにしたの?」

「今気付いたのか」

立ち上がり俺の方を向くマーラ。

「あなたって、生前は軍の指揮官だったとか?」

「かもな」

「倒れた兵士を裏で死霊術かけてたりしてた悪どい上官だったりして」

「いずれにしろこのアリゲーターは使える」


半端な炎や氷なら通さないだろう。

だがドワーフは殴打系統の武器を好む傾向が強い。街に着いてドワーフらと争いになった場合、あまり活躍は期待できないな。

「あ~あ! 図星だったり~?」

「マーラ、そろそろ出発だ。最後まで案内を頼むぞ」

「了解」

「イエナ」

イエナが急ぎこちらへ駆け寄る

「このキメラを受け取れ」

モートがイエナに剣を差し出す。

「…………」

躊躇しているイエナ。

「新しい事に挑戦すると、成長して強くなれる」

イエナは静かに剣の柄を握り、ゆっくりとキメラの前に剣を構える。

そして少しの沈黙の後、イエナは覚悟を決めたかのように剣を勢いよくキメラに振り下ろした。

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