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顔に浴びた返り血を腕で拭い、全身土で汚れたマーラが俺の元へ来る。

「マミーは貴重なんじゃなかったの?」

「差し当たり、な。だが鬱陶しさの方が勝ったんだ」

「でも最終的には許したと」

「チャンスを与えたんだ。失望した事実に変わりはない」

「まっ、いいけど。それにしても随分とやられたわね。スケルトンは全滅。デュラハンと蜘蛛はボッロボロ。今まで大切にしていた仲間が殺られて、少しは堪えたんじゃない?」

「皆会ったばかりだ」

「そうなの?」

「スケルトンは遺跡で朽ちていた者達。蜘蛛は襲ってきた後、利用しただけだ」

「結構ポジティブなのね」

「どうでもいいが、お前も一応は戦えるようだな」

「当たり前でしょ。私は一体何だと思ってたの? とううより、私以上に戦う前と変わりないのは貴方の方ね」

「俺は指揮していただけだからな」

「あとは~」両目を上に向け人差し指で唇を軽く触るマーラ「イエナかしら」

「マーラ、臭うぞ」

「それが、少し漏らしたかも。小さい方。もう少しで眼球に剣が突き刺さるところだったから」

「まあ、大抵はそうだろう」

「貴方も?」

「いいや。この体だと、生理的不和が生じない。蜘蛛にお前が殺した女の死体の場所を教えてやれ」

「オッケー、ボース」軽い敬礼をこちらに飛ばし、蜘蛛の元へ行く。


少し後。


しゃがみ、鎧を探るマーラ。

「ねえ、いくら器だからって、大勢殺して心が痛まない?」

「世の中を良くしているだけだ。お前は痛むのか?」

「戦っている最中は何とも思わないけど、寝付きが悪くなるのは確かね」

「鎧の方はどうだ?」

「良い鎧だけど、どのエンチャントも私達には不用ね。それにこんな鎧着て歩けないしね。溶かすしかなさそう」

「珠をよこせ」

「はいどうぞ」

「資金にはなる」

「リッヂの使い道って?」

「まあ、色々だ」

しまう。

「お前の言う通り着ては歩けん。装備は売るだけだな」

デュラハンに指示を出し、蜘蛛にくくりつけた布に装備をしまわせていく。

「デュラハン、それはお前が使え」指揮官が持っていた剣をデュラハンに装備させる。

剣を掲げるデュラハン

「あなたはいいの?」

「俺は身軽な方がいい。前衛に出ない以上不要だ」

指揮官のブーツをはく。

「なるほど。それで~? もちろん、彼らの死を無駄にしたりはしないんでしょ」

「当然だ。死した証として、羞恥の元、酷使してやる」

「最低ね。やりましょ♪」

「その事だが、お前の腕も是非見せてくれ」

「いいわよ~」マーラは両手を開き、突き出して目を瞑り、集中しているようだ

「ハッ!」

何も起きる気配はない。

「この出会いで、神秘的な劇的変化があると思ったんだけど」

「正直なところ、お前は信用できない。お前の言動を含め、騎士にそこまでの絶望も感じなかった。連中は戦争を交え、ネクロマンサーの組織など、興味が薄れているのだろう。 残党のお前にこの戦力だ」

「好き放題言ってくれるわね」

目を反らすマーラ。

「おかげで討伐は免れたが、そのブラックハンドとやらも嘘か?」

「それは本当。実在するし……いやしたと思う」

目を細める「思うだと?(威圧)」

「嘘じゃないって」

「もう存在しないのか?」

「あん……。私の知る限りでは。だからあなたがリッヂと分かった時」どこか懐かしむような表情を浮かべるマーラ「正直嬉しかった」

「いつからだ?」

首を横に振るマーラ。

「正確には分かんない。私の両親が殺された時かな」

「両親もブラックハンドに?」

「うん。ブラックハンドのある支部は父が率いていたのよ」少し俯くマーラ「両親に教えられたからじゃないけど、神や悪魔に魂を渡すことなく、自分の意志のあるなしに、この世界に留まり続けられる。そして役目を終えたらヴォイドの元へと行き、リッヂとしてこの世に復活する」俺を見つめるマーラ「ほんと、素晴らしいわよね。リッヂのあなたが心底羨ましい」

「万物はいずれは朽ちる運命だ。アンデッドも例外ではない」

「でもまた蘇る。何度も何度も」悲しい表情だが、口元で笑みを浮かべてるマーラ。

「そうかもな。お前は死霊術は全く使えないのか?」

「そう全く。両親の遺した装備を持って、ネクロマンサー気取りよ。それもほとんど旅の途中で騎士と出くわして失ったけど。残った最後がこのタクトってわけ」

「見せてくれ」

「別にいいけど」

マーラからタクトを受け取る。

「ふむ。持つと自然と心地良さを感じるタクトだな」

「禍々しいでしょ」

これは特殊な木材だな。

「カース魔法か」

「うん。鍛練の低い殉教騎士なら一撃」

「魔力はあまり感じないな」

「そう……最近は不発が多くって。だからあまり使わないようにしていたの。もうすぐ完全に使えなくなるかも」

「だから知識を求めていたのか?」

「そうよ。とにかくなんでもいいから死霊術に関する知識が欲しかったの。修理とか、原因とか。諸々」

「充填の方法なら知ってる」

「本当に? 是非教えて」

「そう慌てるな。知ったところで現状はどうにもならん」

「勿体ぶっちゃって、何が望みなの?」

「お前に求めることなどない。これは非常に単純だ。充填するだけなら、同じ魔法を掛ければいい」

「本当に? 他の物はエンチャントのように充填するのよ」

「他の物の仕組みは知らんが、俺の知っている範囲ではそうだ」

「そっ、一歩前進ってことね」


さて、そろそろこいつらを処理せねば。

騎士の死体にヴォイドの囁きを放つ。

「あまり嬉しそうじゃないわね」

「こいつらは装備で誤魔化している類いだからな。死霊術では不味い餌だ。それに状態は悪い」

「そっか。殺し方も死霊術には大事なのね」

まず一体目は蜘蛛が潰した奴。

やはり意志のある者はコントロールこそ難が生まれるが柔軟性が高い。

だが後先考えずズタズタにしてしまう。

キメラか。

「肉と内臓でできてて、トッピングに1つの目玉。スライムみたいで可愛いわね」


次は首なし。

デュラハンがもう一体戦力として欲しいところだ。

ヴォイドの囁きを放ちアンデッドを生み出す。

首なしのグールか。

「イエナの友達が欲しいところよね。そうでしょ?」


今度は指揮官だ。

少しは期待できそうだが、上半身まで潰れているからな。これもキメラになるかもしれんな。

ヴォイドの囁きを放ちアンデッドを生み出す。

ミートスラッグか。

「太った巨人ね。蜘蛛よりは小さいけど、それでも威圧感がある。体の至る所から目玉が出てて愛らしいじゃない。でもピンク色の肉は、なんだか汚いイメージになる」

切り株サイズの岩に座り、足を組んで膝の上に置いた羊皮紙に何かを書き記しているマーラ。

「なぜメモしている?」

「私の唯一の生きた証」

「ほう、偉大なネクロマンサー、マーラーか」

「はいはい。いつ死ぬかわからないんだから、少しでもこういうの残しておきたいの。短命の生者にとってのささやかな願望なの」

「そうか。茶化して悪かったな。だがそう悲観するな。天性は己で生み出す事もできる」

「ふっ、まるで神みたい。あなたが教えてくれるってこと!?」

組んだ足を揺らし尻尾を立てるマーラ。

「そう聞こえたのなら、そうなんだろう」

「なんだかんだ信用してくれてんだ。まったく素直じゃないんだから。ンフフ♪」


「ガル」

マーラと話す傍ら、モートが血の付いた羊皮紙と書物を持ってくる。

モートから受け取り羊皮紙を読む。


──血糊の付いた羊皮紙。

もうすぐ我らが殉教騎士団の解体が議会で可決される見通しだ。

議員の連中はネクロマンサーの恐ろしさを完全に忘れてしまっている。

なんでもいい、お前にはネクロマンサーが依然脅威だという証拠を掴んでもらいたい。


しかし我が騎士団にはもう活動資金はあまり残されていない。

どんな手を使ってもいい。必ず議会を納得させる物を持ち返ってくるんだ。


まずはブラックハンドの残党とおぼしき例の獣人の女を追うんだ。

連中は裏で何か企んでいるかもしれない

詳細はユースティティア聖堂にいるルドという物乞いに話を聞けば分かる。


我らにユースティティアの加護があらんことを。

殉教騎士団・上級騎士団長。

ケム・ソーム。

──


書物を開き読む。


──血糊の付いた書物。

──ページ1。

この日をどれだけ待っていた事か。

ようやく騎士団に復帰できる。

──ページ2

報酬が渋い。

長く傭兵生活が続いていたせいか。

だが大した問題じゃない。騎士団では地位と名誉が手に入る。

──ページ3

騎士団再建の噂は本当なのか?

仲間が口々にそう言っている。

今まで裏で活動していたのだろうか?

──

残りのページは血が染みていて読めない。


「マーラ、ネクロマンサーの知り合いはいないのか?」

「いない。ねえ、それより意外と面倒見がいいのね」尻尾をゆっくりと左右に振るマーラ。

「そうか。飢えていただけかもな」

ネクロマンサーと今後会える可能性は分からんな。死霊術が埋もれた世界など退屈だな。

「ふ~ん」

いやらしい目付きで見つめ、口元で笑みを作るマーラ。

「お前が望むのならアンデッドにしてやる」

「待って、今すぐアンデッドになれって話じゃないよね?」

「安心しろ。お前の意思に従うさ」

「アンデッドというより、リッヂになるのが一種の夢だったから、嬉しい。その時が来たらお願い」

「ああ」

「で、もう出発する?」

「いいや、まだやる事がある。デュラハン」

攻撃の合図を送る。

デュラハンの一撃でキメラが真っ2つに。

「いっ!?」

マーラが思わず立ち上がった。

イエナは少し恐怖を覚えているようだ。

デュラハンは続けざまにグールもミンチにしていく。

「剣の切れ味も悪くないな」

「その為だけに?」

「昇格を知らないのか?」

「詳しくは知らない」

マーラがじっと見つめてくる。

「聞きたいのか?」

「もち」

「……昇格には一定の死霊魔力が必要なんだ。だから無駄のないよう、現状有用なデュラハンに与えたんだ」

「なるほどね〜」

イエナを少し見るマーラ。

「今は細かい部分は省く。対象が一定の死霊魔力を得たら、生命力を……この場合は活力を適量与え、特殊な死霊魔法で昇格させるんだ」

昇格儀式を放ち、活力をデュラハンに与える。

「生命力?」

「いいや。そこが肝だ。生者の場合は容易いことじゃないが、アンデッドの場合は大したリスクではない。低俗な場合は異なるが」

「回復魔法。毒を与えるのは?」

「純粋な活力でなくてはダメだ。それも新鮮な。確か陣の類いで他者を生け贄にする方法があったはずだ。生者にとってはそれが最もポピュラーだろう」

「なるほど」

デュラハンを覆っていた緑のオーラが消滅しデュラハン昇格し終える。

「さっきより体が大きくなって、気配の圧も増したかな。これが昇格なのね。確か……ワイトよね?」

思ったよりも消費したな。なにか、根本的な力が欠けている気もするが。

「ワイトだと? こいつに名付けたのか?」

「うんうーん。文献にあったの。昇格後のアンデッドに、それぞれ名前がつけられてた」

「分類する為にか?」

「たぶん。あんまり覚えてないけど」

「そうか。無意味だから必要ないだろう」

「でも、右も左も分からないネクロマンサーには、駆け出しの知識としては必要だと思うけど」

「もちろんだ。だが数字でいいと思わないか? 簡単で覚えやすい」

「まあね。デュラハン2だわ! デュラハンワイトだ!」

まるでアクトレスだな。

「う〜ん、やっぱり数字だとしっくりこないな」

「多くの生者を指導するのはお前の方が合っていそうだ」

「同じアンデッドには、昇格をどれくらい繰り返せるものなの?」

「話せば長くなる。もう出発だ。街まで案内しろよ」

「オッケー」

羊皮紙とペンを腰に付けたバッグへとしまうマーラ。

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