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血のオーラが認識できない時点で、こいつの死霊術への知識はたかが知れている。

なのに妙な女だ。

こいつは初めから、俺のことを知っていたのかもしれない。

もしかしたら全て演技なのかもな。

この声の力も気になる。

クソが。頭に靄がかかっていて、上手く理解できんな。


それに異常なまでの蜘蛛の治癒力。

スケルトンから受けた傷をもう治している。

蜘蛛自身になにかあるのか、或いはオーラの影響か。


この体、術者もおらず、リッヂが再び復活するなど有りえん。

この体は本当にリッヂなのか。

ああ、無知とはもどかしい。


「準備はいいかマーラ」

「もちろん」

「鼠になったつもりで行動しろ」

「言われなくても分かってる。ど素人じゃないんだから」

「ならいい。イエナ」

「…………」

「イエナ」

「は、はい」

「行くぞ」

「はい…」

「お前にスケルトンを1体付ける。その分ちゃんと援護しろ」

イエナが静かに頷く。

「その子はあなたのお気に入り?」

「マミーは珍しいだろう」

「アンデッド自体珍しいけど。話せるのなら尚更。でも言われてみればそうね。マミーなんて初めて見た。でも私の知る限りマミーは大して強くないと思うけど。実際見ていて思うし」

「まあ…」

「あー!あなたの従属は一味違うのよね」

「まあこれからだ」

「そう」


出口付近へ着く。

「見事だったな。ここまで一度も迷わなかった。本当に詳しいとは」

壁に背をつけ、先の様子を伺うマーラ「疑う理由でもあったわけ? とういうか、良く出口だって分かったわね」

「無駄に長く生きていた訳じゃないからな」

「ふ~ん。取りあえず誰もいないみたい」

先へ進もうとするマーラ。

「待て」

マーラの腕を引く。

「つ、冷たっ」手を振り払うマーラ「なに?」

「よく見ろ。不可視化だ。あそこにいるだろう」

少し特殊だな。目を凝らす。

「装備と魔法の重ね掛けか〜。厄介ね」

「ああ、お前にとってはな。脇の物陰に人間の男が2人。奥の岩が見えるか? あの岩の高台に人間の女の弓兵が1人」

「流石リッヂね」


赤い᳀が装飾された白いサーコートに黒いインコネルの中装防具を全身に着け、共に同製のカイトシールドを装備している。

腰には黄色い輝きを放つ光輝魔力を帯びたロングソードを携えている。

鍛造は中々だが、エンチャントは雑だな。防具の隙間から生命力が漏れ出ている。これならスケルトンでも容易に視認できるだろう。

所詮は人間だが、人間がこれほど鍛造の施された装備を得ているとは。


「マーラ、お前は弓兵を殺れ。お前程度でも、近距離なら不可視化の歪みで判断できるだろう」

「任せて。朝飯前よ」短剣を取り出し剣捌き見せるマーラ「それで他の奴らはどうするの?」

「心配するな。お前が戻ってくる前に始末しておく」

「頼のもし」

「待て、もう1人いたぞ」

隠匿か。

「ん…見えないけど」

「弓兵のいる岩の影だ」

「あ〜、うっすらね。悪いけど2人は無理」

「俺の従属で何とかする。いいか、作戦はこうだ」


少し後……。


「塗りに塗った作戦ね」

「それを言うなら練りに練っただ」

「行きましょ」

マーラが身を屈め、前方の物陰へ静かに移動する。

「モート。あの狐が妙な真似をしたら殺せ」

「ガル」

「よし行け」

「ガルルルル」

作戦の指示通り出口へ四足で駆けていくモート。

生者の残響を放ち、共に戦況を伺う。


「まったく、いつまでこんな所で待機するんだ」

「お前、中に入りたいのか?」

「いいや」

「だったら出てくるのを待つしかないさ」

「そうだよな。あ〜、なあ本当に入り口は2つだけと思うか? 他にもあったら……」

「どうだろうな〜。待て、おい何か来るぞ」

「グアァァァ!」

「おい、くそっなんだあれは!」

盾を構える騎士ら。

モートが騎士目掛け突撃していく。

「吸血鬼か!?」

「いいや、アンデッドだ」

「あの動き、あぁ! こっちに来るぞ」

「くそっ、やるしかないな」


身を潜めていた2人の騎士が剣を抜き、岩陰から出てくる。

「あれは…モートだ!」

2人の騎士が後衛に叫んだ後、モートに魔法を放つ。

地面に複数の赤い魔法陣が現れ、次々と魔法陣から火柱が上がっていく。

だが敏捷なモートには当たらず、モートの駆けた抜けた後の地面を焼いているだけだった。

命中率が低いな。あの狐め。

「ああくそ!」

殉教騎士の2人は盾の上に剣を置いて構え、モートに狙いを定めている。

不可視化で天井を這い、上手く忍び寄った蜘蛛が殉教騎士1人の元へ降下していく。

「あっ!?」

上手く身を躱す騎士。

避けるので精一杯か。

蜘蛛の鋭利な2つの牙が騎士兵をすぐさま捕らえ、兵士の腹肉を鎧ごと突き破る。

蜘蛛は騎士を捕らえるとすぐさま壁に何度も何度も激しく打ち付けた。

壁へ打ち付ける度に、粉々になった岩の破片が周囲へ舞い、衝撃が辺りへ響いていく。

今の所モートと蜘蛛は良い働きだな。

蜘蛛の打ち付けた影響で粉塵が舞う中、モートは姿を消し、もう1人の騎士の元へスケルトン3体が迫っていく。

その間に蜘蛛の胴体には既にいくつもの矢が突き刺さっていた。

目の前に飛んできた矢を避ける。

あの射手は俺が見えていたのか。

粉塵が濃くなり、次の矢は飛翔して来なかった。

交戦を背後に、スケルトン3体とマーラが弓兵の元へ迫っていく。

騎士の1人とスケルトンが剣を交え、交戦を始めた。


騎士の剣払いがスケルトンの骨に衝撃を与えている。

「クソッ! なんて硬さだ!」

騎士団兵士はスケルトンの攻撃に対して見事な剣さばきを見せ圧倒している。

魔法の練度は低いが、装いに反さず素人ではない。だが血のオーラを知らないのか。妙だな。

対するスケルトンの剣は騎士との交戦で折れ、使い物にならなくなっていた。

あぁ、あれでも良いやつなんだがな。

騎士がアンデッド退散を放とうと試みてはいる。だが3体のスケルトン相手に魔法を放つ余裕がないようだ。

いいぞ。そのまま奴の肉を切り裂け。

スケルトンの剣はついに根元まで折れ、リーチを失ったスケルトン一体が騎士の剣撃を受け、頭蓋骨が粉々に吹き飛んだ。

おっと。

頭蓋骨が吹き飛んだ後も、アンデッドらしくスケルトンは攻撃を止めず兵士に殴り掛かっていった。

「この化け物め!!」

殴り迫るスケルトンを足で蹴り、剣を振り捌きながら騎士が唸り叫んでいる。


弓兵の側にいた騎士の指揮官らしき男の元に別のスケルトン3体が迫る。

だがしかし、スケルトン達が最初の攻撃を浴びせるよりも前に、男は全身、そして自身の剣を瞬時に橙のオーラで包み、スケルトンの頭上から戦技の一刀両断を入れた。

一刀両断を受けたスケルトンは攻撃を受け止めようと剣を構えたが、受け止めるはずの剣が役目を果たさず砕け、そのまま体を縦に真っ2つに引き裂かれてしまった。

真っ2つにされたスケルトンの残骸は動くことはなく、そのまま地面に散らばっていく。

あいつは他より手強いな。

スケルトン一体を即座に葬った男はその勢いに乗じ、スケルトン2体を一瞬で横真っ2つに切り裂いた。

そして地面に転がったスケルトンの頭蓋骨を踏み潰す。

やられたか。


「隊長! ダメです! 蜘蛛を抑えられません!」

弓兵の女騎士が指揮官の男へ必死に叫んでいる。

男は地面に転がるもう1つのスケルトンの頭蓋骨を剣で砕いた

「もう諦めろ! あいつは手遅れだ! ウリクを援護し操っている者を射れ!」

「ですが視界が……了解!」

やはり見えていないか。

弓兵が中規模の赤い火球を蜘蛛へ放つ。

蜘蛛へ命中する。

胴体が燃え、蜘蛛の苦しむ悲鳴が響く。

蜘蛛は上半身の肉や内臓、骨が砕けた騎士の体を投げ捨て、弓兵の方を向いた。

「害虫め!」

弓兵が再び手の平に赤い火球を出現させ、力を込め大きくしていく。

ようやくマーラが弓兵の女に飛びかかる。だが抵抗した弓兵の影響で2人は高台から落ちていってしまった。

片手で両目を抑える「あぁ、まったく」


最初にスケルトンと交戦していた騎士は2体目のスケルトンを無力化していた。

思ったより戦況が好ましくないな。

「大丈夫か?」

指揮官の男が騎士へ呼びかけている。

「はい!すぐに片がつきます!」

「スパイダーめ。よくも俺の部下を……」

男の頭上へ槌の一振りが落ちる。だが男はすぐさま避けた。

見誤ったな、デュラハン。

槌の強い衝撃に地面は粉々にひび割れていた。

「デュラハンだと!? 一体どこから」

殺したドワーフだと悟っている様子だったが、デュラハンの槌での猛攻がすぐさま男を襲う。

男はデュラハンの攻撃を上手く剣で捌き、デュラハンの攻撃を受け流している。だがデュラハンの力量に圧倒されているようだ。

「グハッ!」

男が横目に部下を見ている。

モートが騎士の1人へ飛び掛かり、首をもごうとしている。

「おのれぇ!!」

男は叫び声を上げ、神性なる戒めを放った。

光輝を帯びた突風が筒形上に放たれ、デュラハンと線上にいた蜘蛛の体を無数に斬りつけていく。

デュラハンが神性なる戒めの切り裂きに怯んでいる隙に、男が剣撃の横切りでデュラハンに一撃を入れた。

男はその隙に部下の元へ援護に向かおうとしているようだった。だが男が駆けつけるよりも先にモートが騎士の首をもぎ取った。

奴が部下に気を取られたのは良かった。

「はぁ……はぁ……」

男は息を荒げ、弓兵のいた場所を見た後、慌てて逃げ出していく。

腑抜けのように逃げた。恐怖に駆られての逃走だな。良い判断だが、潔く死ねば良かったものを。


〘⇄〙このまま見逃すか。始末するか。


「逃がすな」

従属に命令を下す。

生者の残響、生者感知を共に放ち、高台の岩場から落ちた騎士の女とマーラを透過で見る。

耳と尾の生えた光源が地面に横たわるもう一方の相手に馬乗りになり、相手は両腕を塞ごうと抗いでいた。騎士の女はマーラに抑え込まれまいと必死に抵抗を続けているようだ。

騎士の女から濃い生命の漏れが鼻と口から生じ、垂れ流れている。汚れある光源は顔が土埃で汚れているのだろう。

マーラは抑え込んだ一瞬の隙をつき、予備の短剣を抜き、騎士の女の喉に思いっきり突き刺した。

「ゴボゴボゴボ……ヒッ…ヒッ……」

狐の勝ちだな。

騎士の女は体を震わせ続け、そのまま事切れたようだ。

「ハァ…ハァ…」

息を切らしたマーラは喉に突き刺した短剣を抜き立ち上がった。


視線を戻す。

逃げようとした指揮官の男は、回り込んだモートと後方から迫るデュラハンに距離を保ったまま身構え、膠着状態に陥っていた。


焼けた炎を鎮火し終えた蜘蛛に男へ糸を浴びせるよう指示を出す。

放射線状に放たれた蜘蛛の糸が男に絡み付き、男は必死に糸を振りほどこうと剣で糸を切り裂いていく。

男の反撃で消滅を恐れ待機させていたデュラハンに攻撃の合図を送る。

デュラハンは切り裂き魔法の影響で鎧にダメージを負っているようだ。

だがさほど問題ないだろう。

男が輝きの導きを放ち、自身の周囲に黄色く輝く炎を立ち込めさせていく。

そして男は炎で蜘蛛の糸を完全に焼き切ると、決死の形相で再びデュラハンに斬りかかった。

降伏すると思ったんだがな。根性があるな。

しかしデュラハンが殺られるとこちらは終わりだ。

だが一度は逃げ出そうとした身、必ず効くはずだ。

手に力を込めて死の誘いを放ち、辺りに緑のショック波を駆け抜けさせる。

「うぐ!?」

恐らく男の脳裏には一瞬、おぞましい自身の死と、過去の酷いトラウマが駆け巡ったことだろう。

男が絶望の表情を浮かべる。

その隙をつき、デュラハンが男の頭部を槌で粉々に潰した。

周囲に男の血肉と脳みそが飛散する。

血、炎、衝撃で荒れ果てた戦いの場に静けさが戻る。


「蜘蛛、デュラハン、奴らの死体と装備を中へ運べ」

「ギュルル(肯定)」

勝利は心地良い気分だ。

「イエナ、話がある」

「は、はい……」


背後で蜘蛛やデュラハンが死体と装備を順調に運んでいる。

「撃たなきゃ当たらないだろ。なぜ手を貸さなかった?」

「す、すみません……」

「命令に背く従属に用はない。消えてもらうしかない」

イエナに手をかざす。

「ま、待って下さい! お、お願いします」

「なんだ?」

「誰かを殺すのは……」

「誰にでも初めてある。そこは認めよう。だがお前にとってそのチャンスはさっきだった。勝ったが、危うい勝利だ」

「わ、私はただ……初めに……」

「ねえ! 私の取り分はあるの?」

戻ってきたマーラがわざとらしく叫ぶ。

かざした手を戻す

「イエナ、次の戦いが最後のチャンスだ。行け」

「ありがとう……ございます」

蜘蛛とデュラハンの手伝いに行くイエナ。

地面に散らばるスケルトンの残骸を眺め、足元に転がる頭蓋骨を手に取る。

頭蓋骨を持った方の手に魔力を込める。

頭蓋骨の目が緑に発光するが、すぐさま手の平で頭蓋骨は塵に変わる。

やはりダメか。

長年この遺跡に放置され、辛うじて残っていた魔力の産物。使い果たしてしまったようだな。

僅かだが、この時まで魔力が残っていたということは、生前はさぞかし強力だった者かもしれん。

手の塵を払う。

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