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「お前達はここで待っていろ」

目元以外をボロ布で覆い、物陰から出る。

「はっ!?」

こちらに驚き、すぐさまタクトを向けてくるマーラという獣人の女。

平静を装っているが、強張っている。本当に気づいていなかったのだな。

少し距離を保ち、立ち止まる。

「こんな所に何の用だ?」

「ここは散歩コースなの。あなたはどうして?」

「観光だ。丁度終わって出口を探していてな。知らないか?」

「さあ、知らない」

「お前とドワーフの会話は聞いていた」

「わ、私に案内して欲しいわけ?」

「いいや。まずはそれを下げろ」

人差し指と親指を立て、人差し指で地面を2度指す。

「フッ、冗談♪」

こちらに身構えたまま睨み付け、動こうとしないマーラ。

両手を広げる。

「こちらには戦う気がない。ただここから出たいだけだ」

「そう。なら私に両手を見せたまま、反対側を通って」

緊張しているのか、マーラの息が荒れている。

反対側へ向かうと、マーラもゆっくりと間合いを保つ。

「分かっているさ。お互い願いが同じでも、衝突を避けるのは難しい。ここへ来た目的は?」

「あなたには関係ない」

顔で行けと相槌を送ってくるマーラ。

「それはどうかな。何事も聞いてみなくては分からんだろう?」

「財宝目当てじゃないのは確かよ。ただ真実を知りたいだけってところかしら」

「はん。この奥には何もなかった。まあGスパイダーはいたが。他にもいるとして、お前に対処できるのか?」

「ご心配どうも」

「奴らは群れる。巣は遺跡中にあるぞ。1人で行くのは危険だ」

「いつまでこうして、あなたのお喋りに付き合えばいいわけ?」

「死霊術の類いが目当てなのか?」

「あなたも?」

作り笑いを浮かべるマーラ。

「どうだろうな」

少し沈黙の間が流れる。

「だったら私達、敵同士かもね」

笑顔を浮かべるマーラは言い終えるより先に、タクトからこちらへ魔法を放った。胴体へタクトから放たれた魔法が命中する。

魔法を吸収する。

「ど、どうして効かないの!?」

魔法が命中した場所に手を当てる。

「壊れてるんじゃないか?(挑発)」

「ば、化け物め」

「簡単な話だ。俺は生きていないからな。死霊術は効かん」

「なっ!?」

「気は済んで、互いに話は出来そうか? それともこの寂れた遺跡でアンデッドと戦いたいのか?」

「ま、まさかリッヂだったの!?」

「そんなところだ」

ボロ布を取る。

「ぬわんですって!?」力が抜けたようにタクトを下ろすマーラ「ごめんなさい。私は……あー…その〜…死霊術を崇拝するブ、ブラックハンドのメンバーの1人よ」片手を胸に当てるマーラ「名はマーラ。最近殉教騎士に追われて続けていたから…つい」

「誰にでも事情はある。おい、出てきていいぞ」

アンデッド達が姿を見せ、蜘蛛が前方に降りてくる。

「わお」

蜘蛛の顎を撫でる。

「こいつはもう少しでお前を食いかけていた」

「全然気づかなかった。随分と…お仲間がいるのね。あなたはここにずっと身を隠していたわけ?」

「ああ。だが隠れるのに飽きてしまってな。少し外を見たくなった(適当)」

「フフ、なるほどね。気持ちは分かる。私達にとっては生き辛い時代だもんね」

「アンデッドには見えないが?」

「連中にとって崇拝者も同じなの」

「そのお前の言うブラックハンドとやらのメンバーは多いのか?」

「あまり。年々騎士団の締め付けが強くなってきたから。もう殆んど、というか全然見かけない」

「上手く身を隠しているだけだろう」

「そうかもね」

「さっきのドワーフらもそうなのか?」

「違う。先に言っておくと、ドワーフの国と帝国は無関係に等しいから」

「近くにドワーフの街があるのか?(興味)」

「ンフフ、あるわよ。知らなかったの? まあ、鉱脈が見つかって、住んで、枯渇したら離れる。という感じだけど、今のところはあるわね」

「できればそこに案内してもらいたい」

「いいけど、アンデッドは入れないと思う」

「何とかするさ。まずは出口だな」

「待って、案内してあげたいところだけど、私はここに探し物があってわざわざ遠くから来たの。だから手ぶらじゃ帰れない」

「構わないが、奥には本当に何もなかったぞ(嘘) お前は一体何を探している?」

「一言では言えない物」

マーラが遺跡の奥へ向かっていく。


マーラを静かに見つめるイエナ。

「知り合いなのか?」

「いいえ…。でも蜘蛛に襲われないか心配で」

「大丈夫だろう(適当)」

「あの…障壁があった壁の事は?」

「そうだな。少し語弊があったかもしれん。だが大した事じゃない。お互い様だ」

イエナが困惑した表情で見つめてくる。

「マーラは信用できますか?」

「信用できるかどうか判断するのはまだ早い。だが少なくとも、悪意はないだろう」

「そうですか…」

「問題はあの女ではなく、出口の方だ」

「出口、ですか?」

「ああ、ユースティティアの気配がする(警戒)」


「先に行きますか?」

「何だと?(呆れ)」

「いえ…その…」

「何が言いたいんだ(尖)」

「偵察をした方が良いかと思いまして……」

「ああ、なるほどな」

「ンフ」

笑顔で何度か頷くイエナ。

「だが必要ない」

「…………」

イエナの笑みが一瞬で消える。

「お前は生前、何をしていたんだ? 兵士には見えないな。狩人か?」

「……ドルイドです」

「ほお、経緯は?」

「語る程では…」

「興味がある。聞かせてくれ」

「私はウッドエルフでした。ウッドエルフは未だに慣習が根強く残っていて、両親もドルイドだったんです。はぁ、2人は熱心にディアーナを信奉していました。なので、そんな2人の子だった私は、必然的にドルイドになったんです」

「その口振りだと、ドルイドになりたくなかったように聞こえるな」

「別に嫌ではなかったです。両親に似ていたので。でも…自分の人生は自分で決めたかったのが」肩をすくめるイエナ「ずっと心残りで」

「2人は元気なのか?」

思い詰めた表情で息を吐くイエナ。

「…戦争で殺されました」

「気分を害してしまったな」

「いえ平気です。もう…昔の事なので」

「2人の元に行きたかったんじゃないのか?」

「それは…そうです。でも、まだこの世界で生きたいんです。ふ~、あなたは私に機会を与えてくれた。今はそれに感謝しています」

「喜んでもらえてなによりだ」

「その…良ければ聞かせてもらえませんか?」

「別に構わないが、覚えてないんだ」

「えっ、名前もですか?」

「ああ」

「それは…辛いですね」

「いや、そうでもない」

「どうしてですか? 私だったら自分が誰か分からないなんて、耐えられないです」

「過去には興味がないからだ」

「少しも気にならないんですか?」

「今のところは、な」


少し後……。


「あら、もういなくなってるかと思ってた」

「お前に聞きたい事がある」

「はは~ん♪。当ててあげましょうか?」

人差し指を軽く立てるマーラ。

「いや、いい(不快)」

「実は臆病、とかね。ここで縮こまってた?」

「このにおいだ」

「すんすん。確かにじめっとしてるわよね」

「(流し) 遺跡の出口の方で、何者かが待ち構えている。それと真新しい血のにおいもな」

「だったらにおいを辿れば出れたんじゃ…。血ですって!?」

マーラは急いで来た道を戻っていく。

その知識はあったのか。

「行くぞ」

「はい」

マーラの後を追い、出口へ向かう。

「次、曲がります♪」

「楽しいのか?」

「ンフ♪ はい! その、自分でもよく分からないんですけど、何だか急に気分がふわふわとしてきて」

「漂う死霊魔力を吸い込んだからだろう」

「そうなんですか! ンフフ♪」

「ふー(面倒)」


地面にしゃがみ込んでいるマーラが見えた。

側には2つの死体が横たわっている。

マーラは目を瞑り、胸の前で手を合わせ祈っているようだ。

側まで着く。

「ヴォイドよ。どうかこの者達の魂を導きたまえ。ウルカヌスよ。献身なる信仰者の魂を救いたまえ」

「これはマーラ司祭。どうなさった?」

振り向き睨みつけてくるマーラ。

「友人が殺されたのよ。茶化さないで」

「見掛けより信心深いんだな」

「別に。2人がそうだったってだけ」

「心当たりは?」

「どう見ても殉教騎士。この傷と頭を潰しているからすぐ分かる。わざわざね」

「会話の阻止だな」

「ええ」

「親しかったのか?」

立ち上がるマーラ。

「済んだ。さっさと火葬して行きましょ」

「経験が少ないんだな」

「そりゃあなたに比べたらね」

「マーラ…」

悲しい声で囁くイエナ。

「そこをどけ」

ドワーフの死体に近づく。

「何するのよ! 邪魔しないで」

「戦力がいる」

手を構える。

立ち塞がるマーラ。

「ダメよ。ダメ!」

「なぜだ。もう魂はない。こいつらはただの空の器だ。それにこいつらを殺した連中が待ち構えているんだぞ」

「そんなことあなたに言われなくてもわかってる。アンデッドには分からないでしょうけど、私たちには弔いが必要なの。死霊術は使わせない」

「あ〜あ!(呆れ) なぜお前達ブラックハンドが、その騎士連中に追い詰められているのか分かる気がするな」

「何も知らない癖に、偉そうにしやがって!」

勢いよく迫り、睨み付けてくるマーラ。同時にスケルトン達が一斉にマーラに剣を向ける。

片手を開き、下に2度振る。

スケルトン達が剣を下げる。

離れ、興奮気味に息を切らしているマーラ。

「落ち着け。俺は敵じゃない」

「はぁ~、ここで怯えて隠れていたあんたなんかに、一体なにが分かるっていうの?」

「少なくとも、お前よりは冷静な判断ができている。それに後をつけられたのはお前の失態だ。おかげでこっちは巻き添えだ」

「その口を閉じないと、リッヂごとき倒せなくもないのよ。ハッタリじゃないわよ」

腰に差してある短剣に手を置くマーラ。

「嘘じゃなさそうだな。見事な短剣だ(感銘) だが周りを見ろ。共倒れだぞ。それにお前の友人を殺したのは、俺じゃあない。こんな事をして喜ぶのは、その騎士連中だ。奴らを喜ばせたいのか?」

睨み付けたまま微動だにしないマーラ「…………クッ!」不満げな表情を浮かべ更に離れる「そっちも冷静っていうのは、嘘じゃなさそうね。はんっ、負けた、負けた。口が上手いわね」

蜘蛛の足を両手で掴み身を隠しているイエナ。

イエナが歩み寄ってくる。

「き、緊張しました…」

「なぜだ?(困惑)」

「まだ…戦う覚悟ができていなくて…」

「は〜ん(哀) 覚悟を決めるんだな」

「待って下さい。その騎士の人たちには勝てるのですか?」

「素性の分からない相手に、優位も劣位もない」

「あなたがいてもですか?」

「それを確かめに行くんだ」

「…………」

静かに俯くイエナ。

「早く覚悟を決めておけよ」

「はい…」


弔っているマーラの元へ行く。

仰向けにし、ドワーフの両手を腹に揃え、目蓋を閉じさせている。

「心の整理とやらはついたか?」

「まったく」苛立っているマーラ「はぁ〜」大きくため息を吐く「何か別の方法があるはずよ」

「だといいが。その騎士連中の実力はどれぐらいだ?」

「連中はアンデッド狩りの専門家よ。こっちの手の内は簡単に読まれてしまう可能性が高いわね」

「程度によるだろう。だがどうも信用ならんな。奴らは何か対策を講じているのか?」

「ええ、もちよ。ムカつくほどにね。殉教騎士は全員、スケルトンの大群を一瞬で塵にできる力を訓練で得ているの」

「アンデッド退散か」

「はん、そっ。おかげで下級アンデッドはまったく役に立たない。あなたが大切そうに連れている連中とか、一瞬で塵ね。まっ、ブラックハンドはそれでごっそり戦力を削られたんだけど」

「まるで他人事だな」

「そ、そんな事ない。追い詰められてるから、情緒不安定なだけ。察してよね」

「他には?」

「そうね~。全身、対死霊魔法用の装備を着込んでいるとか」

「連中に随分と詳しいんだな。ただの間抜けな探検家ではないんだな」

「ええ、そうよー」

「お前達は少しでも抵抗したのか?」

「フッ、向こうは湯水のように金を注ぎ込めるのよ。でもこっちは? お察し。皮肉屋で偉大なリッヂなら分かるでしょ」

「お前を追っている奴は何人だ?」

「あんたヴァカなの? そんなの分かるわけないじゃん」

「よく考えろ。長年追われているのなら、大体の見当はつくだろ」

「偉そうに」頭をひねるマーラ「ここはドワーフ領だから、大勢は無理ね。でも敵地だから生半可な部隊ではないはずだし」

「ふむ」

「そんな目で見ないでよ。仕方ないでしょ」

「少数精鋭か?」

「恐らく」

「大体何人だ?(喝)」

「多くて4人ぐらいかな」

「4人か。それなら何とかなるかもな」

「それ以上いたらどうすんの?」

「何とか始末するさ」

「あなたは強いスケルトンとかじゃなくて、本物のリッヂなんでしょ? 何か凄い死のパワーとかで、どうにかできないわけ?」

「その騎士連中が幅を利かせている以上、リッヂなんて取るに足らない存在だろう。誇大な気がしてならないがな」

「それは、まあそうだろうけど。んんっ、文献ではもっとこう、偉大に見えたから。ヴォイドの加護を受けているらしいし」

「何にせよ、戦力が必要だ」

「つまり私の友人の遺体を差し出せって事よね」

「俺達が無事ここを出るには、それしかない」

「でも2人はヴォイドの信仰者じゃない。2人がウルカヌスに恨まれる事になる」

「ウルカヌスに恨まれるのは2人じゃなく俺達だろう。それにウルカヌスはドワーフには寛大だ」

「…………分かった。まったく。どうぞ。リッヂは皆口が上手いわけ?」

「お前がやるか?」

「あなたの方が私より精通してるでしょ。いいから早く済ませて」

地面に横たわるドワーフにヴォイドの囁きを放つ。

あぁ、やはりこの感覚は最高だな。しかし蜘蛛の時よりは満たされん。

槌を装備していたドワーフの体が大きく膨れ上がり、地面に手をつき、ゆっくりと起き上がる。

そのまま血肉が混ざり合った液体がドワーフを包み込み、その後すぐ流れ落ちた。

「デュラハン…」

「ふむ」

こっちはモートか。グールよりは使えるな。

「ゼン…」マーラは片膝をつき。モートの顔を手で優しく撫でる。

「こんなに素敵な体にされちゃって、でも見た目は少し吸血鬼みたいね」

ネクロマンサーの集団にいた奴だ。こんなものだろう。

「気に入ったか?」

「ええ。まあ。アンデッドを生み出す光景なんて…。わ、私ならやっぱりリッヂになりたいかな」

「騎士連中のせいで、リッヂも長居はできなくなったのにか?」

「それでもね。それよりも中級アンデッドが2体増えたところで、戦況が変わるとは思えないけど」

「お前が奴らを読み違えている可能性もあるんだ。それに本来死霊術というのは、対象の生命、魔力。そして他の魔法同様、術者の練度、信仰心に左右される。そんな単純で明確な基準など存在しない」

「つまりあなたの生み出すアンデッドは強いって意味?」

「それを早く確かめたい」

「そう」

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