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XXVIII

メトゥスにデュラハンを担がせる。デュラハンを触手で絡らめメトゥスが宙に浮く。

有翼を放ち、飛び立ち街へと向かう。

「大丈夫か?」

「キュル」

飛行していると、遠くに見える山脈に隠れていた太陽が姿を見せ、光が視界を覆っていく。

「あまり無理するなよ。久しぶりの光は堪えるぞ」

「キュル」

飛行しながらロクスソルスを眺める。

「見えるかメトゥス。良い街だ」

「キュル~」


「だがデーモンに魂を握られている者で溢れている。それでなくとも、行き着く先は浅はかな欲深い連中の元だ」

抑圧された魂の深淵から漏れ出る意識が無意識に言葉として口から解き放たれるようだ。

「キュル」

「哀れだと思わんか。真実を知れば、誰もが神に祈りなどしなくなるだろう」

「キュ」

メトゥスが目線を左上へ向ける。

何故か湧き出る感情が抑え切れない。

「祈りなど必要ない。行き着く運命は決まっている……」

…………。

「キュル?」

メトゥスがじっとこちらを見つめてくる。

我に返る。気のせいか。

「降りるぞ」地上へ向け滑空する「止まれ。大した事のない兵士とバリスタだけだが、念は入れておこう」

不可視化、精霊のベールを放つ。

「キュル!」メトゥスも不可視化、精霊のベールを放ち、デュラハンを触手で覆い被せていく。

「ほお、流石だな」


地上へ降り立ち、念動を使い再びマンホールを合わせ地下へ戻る。

同様にレバーを引き、入り口を閉じる。

「メトゥス。お前のお陰で、この煩わしさからも一早く解放されそうだ」

「キュル」

「デーモンとて、お前を知る者は限られているはずだ。頼りにしているぞ」

「キュル」

ヘルの賑やかさはこの淡い希望にも拍車を掛けてくれる事だろう。

壁の前へと着く。

「警戒しろ」

「御意」

デュラハンが盾を構え、もう一方の手に持つ槍先で壁を軽く叩く。壁の奥から足音が聞こえ、レバーを引く音と共に壁がスライドしていき…………モートが出迎える。

「変わりないようだな」

「ガル!」

中へ入り、モートがレバーを引き壁を閉じる。

「デュラハン、お前はここで待機していろ」

モートがデュラハンの鎧をつつき、デュラハンがモートを見る。モートが手にトランプを持ちデュラハンに手渡している。

奥の粗末な寝床に足を伸ばし座っているデスフラワー達がトランプ片手にデュラハンに短い手を振っている。デュラハンとモートがデスフラワーの元へ向かっていった。

「トランプを楽しめ」

4体のアンデッドはトランプを始めた。


「メトゥス。俺の背に張り付き、荷物を支えろ」

「キュル」

運び入れた大きな布袋。剣が上部の結び目から出ている。メトゥスが触手を伸ばし持ち上げ、そのまま俺の背と布袋の間に身を潜めた。

「上出来だな。この指輪を持ってろ」

メトゥスが触手を伸ばし、指輪受け取り体の奥へしまい込んでいく。


さて、資金調達に取り掛かるか。

階段を上がり、廃れた小さな家屋を通り、外へ出る。

そのまま廃地区を抜ける為スラムを通り、中央街を目指す。

廃地区の寂れた家屋には同様のビラが多数貼られ、風が朽ちかけた大量のビラを靡かせていた。


避難民や浮浪者はまだ寝静まっていた。

「ギュル」

「こんな奴らをアンデッドにしたところで、無駄な浪費にしかならない」

「ギュル」

「喰いたいのか?」

「ギュル」

「抑えろと言っただろ」

「キュルル…」

心情とは裏腹に、メトゥスの行動に嫌悪感は不思議と抱かなかった。


スラムを抜け中心街へと近付く。


早朝だというのに、街にはもう活気が出つつあった。

種族の行き来が増え、すれ違う者達が増えてくる。


ドワーフ2人が立ち話をしていた。

「幼馴染の衛兵に聞いた話なんだが、あの事件解決したらしいぞ」

「本当か?」

「本当だ」

「あ〜、なら良かった。これで安心して仕事に専念できるな」

「まったくだ」

「詳しい話は聞いたか?」

「もちろんさ」

「聞かせてくれ」

「イカれた魔術師が廃鉱に籠もっていて、人体実験してたって話だ」

「おい、マジかよ。待て! 当ててやろうか。どうせそのイカれた奴はエルフだったんだろ?」

「ハッハッ、ああ。だがそれだけじゃないらしいんだ。どうやらその魔術師を殺したのが、ア・ン・デッ・ドだって噂だ」

「アンデッド!? じゃあ自分の実験物に殺されたってのか?」

「それがどうも違うらしい」

「一体どういう…まさか」

「ああ、そのまさかさ」

「なんだかヤバい感じがするな。まるでプルトーの贖罪日が近付いているみたいだ。神の存在を感じる」

「プルトーなんてマシな方さ。もしヴォイドが現れたら、俺達ドワーフは終わりだ」

「だ、大丈夫だろう…。俺らは無信仰だし。オートマトンも作っていない。きっと見逃してくれるさ」

「ヴォイドにとって糞か糞に集る蝿かの違い程度だろう。片付けるのに気にするとは思えない」

「じゃあ……どうする?」

「こんな街、さっさと出ていくしかない。幼馴染のあいつと明日一緒に出るんだ。お前も一緒に来るか?」

「ああ。だが何処にいくんだ?」

「南しかない。一先ず、修行僧の時代、世話になった司祭の元に行くつもりだ。いずれニザーム中アンデッドで溢れる事になる」

「やっぱりそうか……。だが妹を残してはいけない。俺にとって残された唯一の家族なんだ」

「好きにしろ。だが気が変わったら明日、東門に来い」

「あ、あぁ……」


「おーい! こっちだ!」

手を振り叫ぶソルス。

周囲を警戒し、ソルスの元へ行く。

「朝から元気だな」

「まあこれから寝るが。後は寝るだけっていうのは気が楽でな」

「そうか。この街に両替商はいるか?」

「もちろん。この先の……」ソルスから両替商の居場所を聞く「んな事より会えて良かった。あなたを探すのは大変だろうと思っていたところだったんだ。ほらこれ」

ソルスがポケットを探り、小さな布袋を手渡してくる。

「これは?」

「まあ見てくれ」

皮袋を受け取り紐を緩め開く。硬貨が数十枚入っていた。

「何の金だ?」

「少なくて悪いが受け取って欲しい。牢仲間で集めたんだ。あんたにどうしても礼をしておきたくてな」


〘⇄〙受け取る。受け取らない。


「そうか。ありがたく貰っておこう」ローブの内側へしまう「借りを作るのが嫌いなのか?」

「ハッハッ。そんな大したもんじゃないさ。ただ気が済まないだけだ」感傷気味なソルス「あー、眠い。じゃあな。救って貰ったあんたに言うのも変だが、気を付けろよ」

「ああ、お前もな」

ソルスが去っていく。

「キュル」

「悪くないだろう?」

「……キュ」


ソルスから聞いた両替商の場所を目指す。

街には既に多くの店が開き、種族達が買い物を楽しんでいた。

店だけでなく住居からも様々な料理の匂いが漂ってくる。

歩きながら店を見回す。


年老いているが、体格の良い人間の男が叫んでいる。

「射ったばかりの新鮮なプルの肉だー! 買ってってくれー!」


農婦にしては綺麗な身なりをしたドワーフの老女が叫んでいる。

「採れたての野菜ばかり! 歯応えはシャキシャキよー!」


丸々と太った白い巨猫が青いローブを羽織り、二足立ちで叫んでいる。

「大陸中から集めた摩訶不思議な品々。是非見てってくれ」

多くの者達が巨猫の商いテントの前へ集っていた。


猫が調和語を話せるのか。

ジャスミンを含め、今や珍しい光景ではないようだな。

だが家畜とは区別されている。棺で寛いでいる間に、随分と奇妙な世の中になったものだ。

昔はもっと…単純だったような気がする。


「キュル!」

「ふむ」

ここのようだな。

円形状の広場を囲うように建てられた建物。その一角に青い看板が立てられている。


──青い立て看板。

ドゥイリ銀行

──


装飾されたドアを開け建物の中へ入ると、中は洗練された格式のある内装になっていた。

立派な髭を生やし、青い服を着たドワーフの男が出迎えてくる。

「ようこそ、ドゥイリ銀行へ。オーナーのロレンツォです」ドワーフの男は両手を握り締め笑顔で接してくる。胸元にしまってある金のチェーンが付いた小さな羽ペン、折り畳まれていた青く光る羊皮紙を取り出す「んんっ、初めて見るお顔ですね。お名前を伺っても?」

妙だな。

「名は無い」

「おっと、それはそれは。複雑な事情がお有りのようで。ささ、まずは座って寛いで下さい」

部屋の中央。敷居で隔たれた先には黒い木材で作られた低いテーブル。テーブルの隅には新鮮な青いリンゴが2つ置かれ、側には白い頭蓋骨の置物があった。

金の縁に赤く染められたクッションが備わっている椅子が4つ置かれている。

ロレンツォが正面を避けるよう向かい側の椅子へ座わった。

「遠慮せず寛いで下さい」

「このままでいい。まずは貨幣の価値を尋ねたい」

「左様で。価値は多くの国と変わりありません。金貨は25銀貨。銀貨は16銅貨となっています。他の物同様、古代の質の良い硬貨に関しては相場の2倍です」

「硬貨のメッキを見分けるのは得意か?」

「ハッ、当然ですとも。心配なさらずとも、レプラコーンより腕はあります。保証しますよ。失礼ですが、そのお荷物は?」

「戦利品だ」

「では換金された硬貨を当銀行にそのまま投資して頂ければ、必ず硬貨を増やしてお返し致しますよ」

「儲かっているのか?」

「ハッハッハッ。もういい」ロレンツォが立ち上がり、先端に黒い棘が蠢くタクトを向けてくる「ここに来た事を後悔させてやる」

入り口のドアが勢いよく閉まり、ロレンツォがタクトと反対の手を緑に光らせ虚無の介入を放ってくる。透かさずロレンツォは不可視化を放ち姿を消すと、奧の階段へ走り去っていった。

カタカタカタ。

岩を砕く音と共に、周囲の地面から赤色のブラッドスケルトンが十体ほど姿を現す。緑の半透明の剣と盾を携え、取り囲むようにし盾を構えてきた。

テーブルの隅に置かれた頭蓋骨の両目が緑に光り、口を動かし始めた。

「いいか、協力的なら楽に逝かせてやる。答えによっては逃がしてやらんでもない。さあ、お前は何者だ?」


〘⇄〙戦うか、戒めるか。

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