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起き上がった一体のミイラを見る。

「お前はどうだ。話せるか?」

「…………」

「俺の言っている事が分かるか?」

「分かる」

「おっと、まさか本当に話せるとは(期待)」運がいいな「お前の名は?」

「イエナ」

ミイラとして痩せ細り、話すのも辛そうな口を必死に開くイエナという哀れなミイラ。いや今はアンデッドのマミーか。


イエナの枯れた声は今にも掠れ消えそうだ。

「イエナ。お前はどうしてここに?」

静かに首を左右に振るイエナ。その後俯き、何か考えているようだ。

「魔物か?」

首を横に振るイエナ「ドワーフ」

「ほお、どこで殺された?」

イエナは再度首を左右に振る。

「全く覚えていないのか?」

「いいえ。知らない場所で」

「そうか。もう分かってると思うが、お前は一度死んだ。ミイラ化したお前をアンデッドのマミーとして俺が蘇らせたんだ。元の体には戻れないだろう」

「あぁ……」

少しうろたえるイエナ。

「俺が言うのもなんだが、苦しいのなら今すぐ楽にしてやることもできる」

「い、嫌! も、もう死にたくない!」

「ふむ(空虚)」

「お、お願いします。見逃がして下さい」

「落ち着け。望まぬなら、手出ししない」

「あ、ありがとうございます」

「礼を言うのは早い。俺の従属として仕える事になる。それが一種の代償だ。受けるか?」

「は、はい。死ぬよりは」

「よし。では俺の友人達を紹介しておこう。こいつらは無口なスケルトンだ。名もない。それと俺みたいに詮索好きじゃないからな。お前とも上手くやれるだろう」

「は、はい…」

「こいつらに意思はほぼない。向こうの蜘蛛はお前をミイラにした奴だ。干からびたのは奴のせいだが、お前がこうして状態良くアンデッドでも話せるのは奴のおかげだ。まあ感謝しておけ」

「…はい」少し首を傾げるイエナ。特有の咆哮を上げながら体を震わせ唸る蜘蛛「あっ!?」

「冗談はさておき、今のところ話せるアンデッドはお前だけだ。役に立ってくれ(期待)」

「はい…」

顎でイエナに示す。

「向こうで装備を探しているスケルトン達がいる。手伝うんだ」

「分かりました」


残りのミイラ化した魔物。こいつは元が分からんな。

ヴォイドの囁きを放つが、立ち上がると同時にすぐに塵と化した。

塵の中を探り、硬貨と宝石を手に取る。


好きずきも大概にしないとな。

こんなものを食うとは。

まさか知らずに飲み込んだとはあるまい。


人差し指と親指で硬貨を持つ。

見た事のない硬貨だ。

硬貨の記憶は生きている。だが一致する物がない。

外の世界は随分と流れてしまったようだ。今更驚くべき事でもないが。


次は…ゴブリンか。

ゴブリンの顎を持ち、こちらに顔を向ける。

なんだこれは。額に妙な烙印の跡がある。それも精巧だな。

あまり良い予感はしないな。


こっちはリザードマン、いやエルフか。

洒落た指輪をしているな。指輪を拾う。


最後はレッドキャップ。

こいつを現状従属にできれば、多少良い戦力になるんだがな。


少し後……。


結局、イエナ以外はすべて塵になってしまった。あいつは特殊なのか。

少し出自気になるな。

他のはもうやるまでもないだろう。どれも状態が悪すぎる。

まったくこんなものじゃ、まともなのは生み出せそうにないな。

先行きは不安だ。


「イエナ、装備はあったか?」

「沢山ありました」

「ほお(興味)」装備の山を眺める「確かに数はあるな。だがどれも状態が悪く錆びていているな。革や布もボロボロか。あまり役に立ちそうではないな」

「そうですね……」

革の装備が丁度一式ある。まあ状態はこの中では上等だな。


古びた革装備一式を身につける。

着心地は悪いが、風が骨の隙間を抜けない分、多少は落ち着くな。

「ほら」剣をスケルトン達に投げ渡す「少しはマシだろう」錆びた剣を掲げる「これはすぐに折れそうだな」

掲げると同時に中心から折れた。


スケルトン達が状態がマシな剣や盾を装備していく。

「あの…私はどうすれば?」

「戦いの経験は?」

マシな剣を腰へ差す。

「す、少しならあります」

「生前はどうしていたんだ?」

「弓で狩りを」

「ほお(流し)」

「あ、あの…」

「ここに弓はない(呆れ) 」

「他は……まったくないです……」

「いいか、お前はアンデッドのマミーだ。毒系統の魔法が使えるはずだ。試しにやってみろ」

「はい…」両手を開き前方に突き出すイエナ「ん、んっ!」

「違う。手に魔力を集中させ、力を込めるようにするんだ。それと、落ち着いてやれ(軟)」

「はい」

イエナの手が緑に光る。

「いいぞ。意外と飲み込みが早いじゃないか」

小さな黄色い毒液が放射状に飛び、スケルトンの背に当たる。

両手で口を押さえるイエナ

「ご、ごめんなさい」

「飲み込みが早くて良い」

「でも…」

「アンデッドには毒は効かない。寧ろ活力を再生させるんだ」

「そ、そうだったんですか」

安堵からか、少し笑みが溢れるイエナ。

これは生前心得があったな。

「あ、あの…。これが繭の中に残っていました」

イエナから古びた羊皮紙を受け取る。


──色褪せた羊皮紙。

こんなことになってしまって本当にすまない。

俺はずっと君の事を愛していたんだ。

どんな時でも、ずっと。それは本当だ。

だが兄が亡くなってから、家を継ぐしか選択肢がなくなってしまったんだ。その事だけは分かってくれ。

もう知っているかもしれないが許嫁ができた。

彼女は良い人だけど、君を想うような気持ちになれない。君に嘘をつきたくはなかったから本心を書いた。

もう君に会う事はできない。

手紙で別れを言うなんて本当にすまないと思っている。

もうあの指輪は捨てて、俺の事は忘れて欲しい。

君には新しい人生を歩んで幸せになってもらいたいんだ。

君の故郷、ウッドエルフの国は美しい国だと聞いた。

故郷の自然が君を癒してくれる事を願うよ。

心から君の幸せを祈っている。

エリオット。

──


羊皮紙を地面に捨てる。


「イエナ、お前はスケルトン達の後方から魔法で援護しろ」

「分かりました」

スケルトンが剣で壁を叩き、合図を送ってくる。

「何かあったんでしょうか?」

「のようだな」

スケルトンの元まで向かう。

「これは一体何でしょう?」

「魔法障壁の跡だ」

焦げ後のように残る、障壁跡を指でなぞる。

「まだ魔力が?」

「いいや、風化して今や面影だけだ」

跡がこれほど鮮明に残っている。かなり強力な魔法だったようだ。

「スケルトン3、先行しろ。イエナ、俺の後に続け」

「はい」

通路の奥へ進んでいく。

狭い通路を抜け、開けたフロアへ出る。

「随分と広いですね」

「そうだな」

少し見覚えがあるな。

「これは像ですか?」

「ああ、種族や魔物の像だな」

えらく多いな。

スケルトン3がフロアの奥へ進んでいく。

その時、スケルトンの足元に魔法陣が現れ緑に輝いた。だが魔法陣はすぐに輝きを失い、消滅した。

「まだ罠が残っているんでしょうか?」

「可能性はある。足元に気をつけた方がいい」


フロアの奥へ向かう。

「ここは何の場所なんでしょうか?」

「恐らく宝物庫だろう」

「でも像以外、なにも見当たらないですね」

「誰かに持ち出された後か、それかどこかへ…」

あれは何だ。

台座へ向かう。

台座に巻き付いた蜘蛛の糸を千切り、積もった塵を念動で払う。

何かの手形が彫られた台座。


試してみるか。2度拳を作る。

台座の手形に手を置く。

何も起きないが、彫られた手形と型が合っていた。

偶然か。だがこれは特定の力が必要そうだ。今は何もできない。

「戻るぞ」

「はい。でも結局像だけでしたね」

「そうだな。だが高揚感が湧いて来ないか?」

「いいえ…わくわくしてたんですか?」

「少しな」

「ンフッ」

口元を手で隠し、顔を背けるイエナ。

「詮索好きだと言ったろ」

「確かに」笑みを溢しながら話すイエナ「あー…」

「何か可笑しいのか?」

「いえ、ただその…」

「何だ? はっきり言え」

「な、何でもないです…」

笑ったり、落ち込んだり。まったく。

「ふむ。最初、アンデッドを怖がっていたようだが、今は平気のようだな」

「不思議と…同じアンデッドだと、なんだか心が落ち着くような気がして」

「そうか。生前もアンデッドに恐怖があったのか?」

「はい。ありました。怖かったんです……。でも今は、自分でも分からないですけど、不思議と平気なんです」

「ふむ。良かったな」

イエナが軽く笑みを浮かべ、2度頷く。

元のフロアへ戻る。

「さて、先へ進むぞ。お前達は前衛につけ。お前は一番後ろだ。後方に注意しろ」アンデッド達に指示を出す「イエナ、お前は蜘蛛の前だ」

「はい」

出口を目指し先へ進む。

「外に向かうのですか?」

「ああ」

「…………」

「不安なのか?」

「正直……」

「体の事か?」

「はい…」

「いつまでもそんな体というわけではない。ある程度は、種族に…生前に近付ける事も可能だ」

「本当ですか?」

「信じろ。お前の事は気に入っている。何れマシにしてやる」

「ありがとうございます」

笑みが溢ぼすイエナ。


そして暫く遺跡の中を進み続ける。

左右に見えるどの通路も、瓦礫の影響で容易に行けない場所が多い。

「止まれ」

拳を作り片手を上げる。

「どうしたんですか?(小声)」

「身を隠せ」

十字路の角の壁に背を付ける。

他もそれぞれ身を隠した。

蜘蛛は不可視化で透明になった。

ほお。


金属の擦れる音が聞こえ、遠くにカンテラの灯りが見えてくる。

少し日焼けした男のドワーフ2人に、女の獣人1人が歩いて来ていた。


一方のドワーフは立派な髭を伸ばし、全身に重装の銀のラメラー防具を着込み、大きな槌を携えている。更に腰に2本のメイスを差している。


もう一方のドワーフは髭を綺麗に剃り、2本の短剣を腰に差し、背に弓を背負っている。あの軽装の茶色い防具は恐らくグリフィンのレザーだろう。


獣人の女はドワーフらとは異なり、頭に防具を身に着けていない。茶色く肩ほどまでの髪に、狐の耳と尾を生やしている。

獣人の女も軽装の茶色いグリフィンのレザー防具を全身に着けている。また先端に複数の緑の石が装飾されたタクトを腰に差している。

あのタクトは死霊を帯びているな。だがあの女からは何も感じない。

妙だな。初めて会った気がしない。


様子を伺うのをやめ魔法を放つ。

「何の魔法ですか?(小声)」

「これは生者の残響といって、死霊術の一種だ。近くの生者の声を聞く事を可能にする」

少し口を開けたまま静かに頷くイエナ。

再び様子を伺いながら会話を聞き取る。

3人が立ち止まり、話し始めた。


「それで、一体どこまで行くつもりなんだ? ここの空気の淀み具合はヤバイぞ。絶対何かいるぞ」

大きな槌を背負うドワーフが威勢よく話し始めた。

「ここまで来たんだから、一番奥まで行くに決まってるでしょ。もしかして怖いの?」

「ここへ来る時のあの落雷を見ただろ。一体何を隠してる?」

「別に何も隠してなんかいないわ。私も分からないからこうして調べに来てるんじゃない」

「全く信じられんな。おいゼン、お前が信用しろと言うから信用したが、もう無理だ。この女は絶対何か隠してる。それにもうここに鉱脈がない事も分かった。さっさとズラかるぞ」

「道に迷わず帰れるの?」

「これでもドワーフだ。地下は故郷みたいなもんさ」

「地下と遺跡じゃまったく違うのよ」

「知るか。俺は帰る。おいゼン行くぞ」

「なあマーラ。悪い事は言わない。もう引き返そう」

「ゼンまで。どうして?」

「ロルフの言う通り、ここは何か……変だ。こんな大きな遺跡があったのに、今まで誰も気づかなかったなんて。それに誰かが立ち入った形跡すら見当たらない」

「だから楽しいんじゃない」

「あぁ…」

「イカれてんな。魂を失う前に行くぞ」

「ゼン、ありがとう。もう話したけど、私はどうしても行かないとけないの」

「おいゼン、モタモタすんな! 髭が伸びちまうぞ」

「そうか…。じゃあ…気を付けてな」

「ええ」

ゼンというドワーフは少し歩いた後、思い詰めた表情を浮かべマーラという獣人の方へ振り返る

「やっぱり放っておけない!」

獣人の元へ駆け寄るゼン。

「ゼン、私は大丈夫だって。あの事なら気にしないで」

「道中、全然大丈夫には見えなかったけどな」

「それは…。んっ、リシアの事は気にしないで。あなたには家族がいるでしょ。無理しないで早く引き返して。私がリシアに恨まれるちゃう」

「リシアとそう歳も変わらないというのに、勇敢だな。必ず帰ってきて、また娘の話し相手になってくれよ」

「もちろんよ」

2人は悲しそうにハグを交わす。

ロルフの元へ向かう途中も悲しい表情を浮かべ振り返るゼン。

そんなゼンに笑顔を見せるマーラ。

そして2人のドワーフは去っていった。


「ふー…行くわよマーラ」

自らの頬を両手で叩き、覚悟を決めた様子でカンテラを拾い上げ、こちらへ向かってくるマーラ。


あいつはこちらに気付いていないのか。それとも装いか。

それにしてもあの女。何か引っ掛かるな。


〘⇄〙

気付かれる前に始末するか。

対話を試みるか。

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