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【1000文字小説】川上の先

昔書いてたのが出てきたんで投稿してみます

 

「桃から人間が生まれた?何を馬鹿なことを言っている?」


 山奥にある、某大学生物学部教授である川口は、部下が持ってきた資料を机にほっぽりながら、嘲笑するように言った。


 彼は近代生物学の発展に貢献した第一人者としてその名を世界に知らしめ、つい先日も遺伝子配列における革新的な発見をして、世間を騒がせたばかりだ。


 そんな天才と言われる彼の元へ、部下である山根は、冗談のような文言を拵えて尋ねてきたのである。


「本当なんです!嘘だと思うなら僕の研究室に来てみてください!」


 そのあまりの真剣さに、川口は首を捻りながら立ち上がった。私も暇ではないんだがなどと言いながら廊下を歩くことはや数分。彼らは揃って山根の研究室に入る。


 そこには長机があり、赤子と半分に割れた桃が、それが当然であるかのように居座っていた。


「……随分と珍しい取り合わせではあるが、お前が何処かから桃と赤子を掻っ払ってきたわけじゃないだろうな」


「そんなことするわけないじゃないですか!」


 川口はそんな冗談を言っていないと、焦燥が行動に現れてしまうような、嫌な感じを覚えた。


 なんだこれは。本当に桃から赤子が生まれたのか。それが本当ならこの赤子はどういう理屈で生まれたのか。どういう遺伝子配列をしているのか。人間としての器官に異常は見られないのか……さまざまな疑問符が彼の頭の中を縦横無尽に飛び回る。


 しかし、部下の前で動揺を前面に出すわけにはいかない。そう思った川口は、つとめて冷静に言葉を発した。


「何をしたらこうなったんだ。資料だけじゃ分からん」


 ご最もな疑問だった。しかし山根はその疑問に対し、口ごもる。数分経った頃だろうか、漸くその重い口から発せられたのは川口を激怒させるようなものだった。


「酔っ払った勢いで桃の遺伝子配列をいじって……特定のものに揃えたらできました」


「……!そんなことがあってたまるか!こんなものは……」


「あ、何をするんです!」


 川口は桃の中に赤子を戻し、二つに割れた桃を綺麗に接着して窓から外に放り投げた。


「……世紀の発見だったかもしれないのに」


「ほら、仕事に戻りたまえ山根君。私たちに暇はないぞ」




———「爺さんや、川で洗濯をしていたら川上からこんなものが流れてきたんじゃ」


 老婆が、不自然に接着された桃を両手に抱えて言った。

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