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10-3 強くない

はんちょ!

* ペトラ・クローディエ



 まさこんなに近くにいるとは。苦労して調べた割には最後はあっさりだ。

 私は彼女に了承を得て、その隣に腰掛けた。

 同じ碧選軍でも、彼女の名前と所在を知ることは容易ではなかった。なんとか先生が用意してくださった三日間に間に合ってよかった。

 とはいえ、いざ会ってみれば不思議な感覚に襲われた。普通の可憐な少女じゃないか。

 彼女を初めて見た、その瞬間を思い出す。

 あの時の私がどんな感情を抱いていたか、未だに自分でも理解できずにいる。

 関係ないか。それも今確かめればいい。


「私はずっと君に会いたかった」口説き文句みたいにそう言った。

「それは、どうしてですか?」彼女はベンチに両手をついて、恋バナでもするみたいに私の方を見る。

「強さが欲しいからだよ」

「強さですか」

「無粋かも知れないが、単刀直入に聞かせてくれ。君はどうやって、特務部隊に至るほどの強さを手に入れた」


 歳も階級も下である少女にするような訪ね方ではない。自分でも可笑しくなる。私はすでに恥じらいをどこかに置き去りにしてしまったらしい。

 彼女は「うーん」と二秒ほど考えて言う。


「私、別に強くないですよ」


 私は驚いた。その言葉を予想していなかったからではない。謙遜なら誰だって似たことを言う。だが彼女は本気だった。このペトラと言う人は知らないみたいだから教えてあげようというような、そんな目をしていた。

 彼女は「弱くもないですけど」と付け足して、正面をみた。さっきよりもリラックスしているように見えた。

 彼女について調べている時に耳にした噂を思い出す。それは、「シラノ軍司令が特務部隊に推薦した無覚醒が、仲間を殺したらしい」という話だった。

 彼女が今こうして拠点の中にいるということは懲罰を受けていないのだから、ただ「仲間を殺した」というのは誤りで、事情があるはずだ。その事情は、間違いなく彼女の自信を喪失させただろう。先の言葉がそれ故の言葉だとすれば、私の配慮は甘かったのかも知れない。


「特務部隊に選ばれた理由は、私もよくわかりません」


 彼女は笑ってそう言った。

 私は違和感を覚えた。彼女が強くないわけないと思っていたからだ。それは私の主観ではなくて、彼女の残した結果がそう言っている。特務部隊になって解決した任務もそうだが、彼女が陸上部隊の時代に残した成績を見た時、私は驚愕した。射撃や格闘の技能評価は最高レベル。作戦中の頭の回転も備考欄で高く評価されていた。

 それで「強くない」は、謙遜でないとしたらただの阿呆だ。阿呆ならばそもそも高く評価されない。

 そこで私は、自身の質問が曖昧だったことに気がついた。当然彼女にも上がいるのだから、自身を本気で強くないと断定していてもおかしくないではないか。


「なら、格闘や射撃の技術はどうやって習得したんだ?」

「ああそれなら、基本と教わり方を師匠に教わって、そこからは自分なりに勉強しました」

「師匠? 師匠がいたのか」であれば師に話を聞けば、何か掴めるかも知れない。

「ええ、まあ。ただ六年前に会ってそれ以来は音沙汰ないですし、今どこにいるのか見当もつきません」

「そうか……」


 その師匠に会いに行かなければならないのは確実だ。しかし今日が先生がくれた猶予の最終日だ。今日のうちにやれることをやって、仕事を兼ねながら調べるしか……いや、そんなの果たして可能なのか?

 もう一度彼女を見た。のほほんとしていた。


「その師匠について、覚えていることを教えてくれないか」

「いいですけど……どうしてそこまでするんですか?」


 どうしてそこまでして強くなりたいのか、ということだろう。言われてみれば、なぜ私は強さとこの少女にここまでこだわっているのだろう。

 彼女と同じようにベンチに両手をつき、少し力を抜いて考えた。考えるまでもないことだった。


「自分の力で守りたい奴がいるからだよ」

新しいのも連載してるのでそちらもぜひ

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