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09 謎の黒い本と黒い魔力の幼馴染。



 500年前の建造物だから、この仕掛けは500年前のあとに出来たはず。

 つまり、500年前にも、私と同じ目の能力を持つ人間がいた。

 もしくは、その能力を持つ人間を待って、仕掛けだけを施したのかもしれない。



 そういうことで、答えを知るには、この本を開けるしかないのだが…………開かぬ。



 黒いモヤの魔力は、しっかりと本に宿っている。

 でも、普通の肉眼だと、黒光りする革の大きな本。

 開かないのは、やはり、魔法の施錠か。


 いや、でも。魔法らしい刻印はない。裏表と背表紙を見ても、それはなかった。


 あー、でも、そうだなぁ。また()()()()()いいのか。

 と、探っては見たけれど、どの目を見ても、刻印はなし。

 でも、魔法以外に、施錠は考えられない。


 この本の開け方は、何か。


 『魔力視』を持つ者にしか見付けられなかったもの。

 だから、何かしら、方法はあるはず。



 頬杖をついた私は、孤児院の裏にある野原の上に置いたその黒い本を凝視した。


 そばには、いつものように、ルジュとミリーが一緒に、座り込んでいる。


「なんなの、ソレ」

「まっくろー。おっきー」

「ヘンテコな字の本の次は、それ?」

「あれは古代文明の文字で、魔物図鑑だってば。ルジュ」


 そう言葉を返しつつ、私は黒い本への凝視をやめない。


「わかってるけど、そういう本って貴重なのに、外に持ち歩いていいわけ?」

「貴重だけど、新鮮な観点で、閃きが起きることもあるからね。ポカポカした陽だまりで、のーんびりと眺めてみれば……ヘンテコな文字も読めるかもしれない」

「……いや、それはないだろ」


 真顔で言ったことを、マジレスしてきた。冷たい。


 いや、確かに、ヘンテコな古代文字が、突然読めるわけがないのである。


 この世界には、異国の()()()()()という秘薬を飲めば、その異国の言葉が理解出来て、簡単に話せる仕組みになっているのだけど、文字の方は読み書きの勉強をしなければいけない。


 会話ならば脳内で翻訳してくれる秘薬。

 どこのネコ型ロボットの便利道具だ、とツッコミを入れた。

 それを聞いていたジェラールが、それこそ異国の言葉を聞いたみたいに、首を傾げてたわ。


 あと、文字の方も翻訳効能、入れて欲しかったなぁ。

 まぁ、文字も取得出来てしまう代物だとしても、()()()()()()()()()()でなくては、意味ないんだけどね。製造は各国で秘匿しては、販売も慎重らしいから、全然何が必要かは知らないけれども、古代文明の言語取得薬は作れないだろうなぁ。


「最近、何考えてるか、わからない。大丈夫か? お前」

「いや、そこまで不審に思ってたの? 酷くない?」


 私を異常者扱いか。

 母を亡くしたばかりで、行動が不審で、精神的不安定の心配?

 酷いわ~。お嬢様な幼馴染に対して、その雑過ぎる扱い酷いわぁ~。


 なんて思って顔を上げて見れば、あぐらをかいたルジュは、不貞腐れたみたいに唇を尖らせていた。


「……なんで、従兄に魔法を教えるのに、()()()()()()()()()()()()()()。おかしいだろ。わざとだろ」


 従兄?

 と、首を傾げたけれど、エドーズの魔力調整を手伝っていた時に、イチイチ邪魔してきたルジュを思い出す。


「わざとだよ」と、ケロッと答えると、眉間のシワが深くなった。

 子どもなのに。なんだ、そのしかめっ面は。


 ぐりっ、とその眉間を人差し指でこねる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「!」


 幼い子ども達ならともかく。

 魔法を十分に使用出来るエドーズなら、ちょっと導けば、すぐに基本魔法なんて身体が覚えたはず。

 でも、二週間近くかけたのは、本当に"()()()()()()()()()()()()()”、に見せたかった。


 触れれば、相手の魔力を自在に染められる。

 コントロールが可能な魔力操作。

 『魔力視』とともに、今はまだ秘匿すべきものだ。


 この世界での価値がわからない今、他言は無用。

 言い触らすなんて、不用心だろう。


 ジェラールが残念がるように、実力は明かさない方が賢明なのだ。


「……帰って、せいせいした」

「もうベラおねえちゃんを、おヨメにしない?」


 そっぽを向くルジュが安堵したように力を抜いたが、ミリーが余計な質問をするから、ギョッと顔を戻すルジュ。


「ヨ、ヨメには、しない、だろ……? アイツは、王都の貴族で、ベラはここの領主の娘だから……」

「ん? 結婚は出来るよ?」


 ルジュが青い顔で絶句するから、私も余計なことを言ったなぁ、と知る。

 まぁまぁ、と宥めるために、手を振って見せておく。

 落ち着け。


「エドーズお兄さまの家は、お母さまの実家のドルドミル伯爵家。領地は持たないけど、実績のある事業を抱えている力ある貴族。お兄さまの方はさして利益はないけど、まぁ強いて言えば、この広い地に栽培スペースを作るとか、そんなことを目的にして領地を望むなら、私と結婚してマラヴィータ子爵領を手に入れられる」

「なッ」

「エドーズお兄さまは、領地経営を新たに学ぶもよし。または、領主代理を立てて領地経営を誰かに任せて、自分は王都に居続ける手もある。まぁ、そういう領地経営は、現在のマラヴィータ子爵家の方針でお父さまは認めないだろうし、エドーズお兄さまとの縁談なんて断るから、実現しないけどね」


 マラヴィータ子爵領を、守るのは使命。

 そう重く感じている父が、こういう縁談を認めないはず。まぁ、そうじゃなくとも、母が私にも恋愛婚を目標に掲げていたので、政略結婚を押し付けるのは、先ずあり得ない。


 ()()()()()()とか、先ずあり得ないので、エドーズに望みはないのである。

 アハハ……早く新しい恋が見付かるといいねぇ、お兄さま。


「じ、実現はしない……けど…………え? 結婚したら、この領地はアイツの物になるのか? ドルドミル伯爵領に、名が変わるのか? マラヴィータ子爵は、どうなるんだ?」


 怒涛の疑問を沸かせるルジュ。


「必ずしも、結婚相手に領地が渡るわけじゃないよ。ね? ジェラール」

「さようでございます。現当主様が、ベラお嬢様を相続から外した場合、またはベラお嬢様が結婚相手に所有させないと拒んだ場合、相手の物にはなりません。基本的に、領名は国から認可されなければ、変えられません。また、ドルドミル伯爵家と、マラヴィータ子爵家の名前を遺すというのならば、それぞれの後継者を産めばいいのです」


 そばに控えていたジェラールはしっかり話を聞いていたようで、ルジュの質問に納得出来そうな答えを出してやった。


 というわけで、色々やり方はあれど、ドルドミル伯爵家との縁結びは、不可能ではないのだ。


 あっちはあっちで、こちらが頷くことを虎視眈々と待つ気でいる。


 今のところ、関わりのある貴族子息は、エドーズ。

 遅かれ早かれ、結婚相手は貴族じゃないといけない私の選択肢が、エドーズのみだと、安心している節があるのだろうな。


 領地に引きこもっている状態のお父さまには、伝手はないし。エドーズを通して関わりたいと思っている貴族の子どもに手紙を託したけれど、エドーズが阻止することは可能である。


 例えば、エドーズが私のことを”結婚相手候補”とか言って、牽制してしまえば、おしまいだ。

 流石に、婚約関係だと、嘘は吹聴しないだろうけど、エドーズに気持ちがあれば、叔母も息子を優先して、私に縁談を持って来ない。


「無用な縁談が来なくて助かるね。叔母さまも、出来ることなら、妹の娘を息子の嫁にもらいたいと考えるから、進んで他の縁談を送って来ない。元々、マラヴィータ子爵家の令嬢として、社交界に出たのは去年だけだから、全くもって知られてないようなもの。縁談が自然と来るわけもないからね」

「……お嬢様。来年は、王都へ行くと仰ったはずですが?」

()()()()()()とは、言ってない」


 ジェラールが懸念するみたいに言うけれど、しれっと返す。行かないとは言ってないでしょ、もう。


「来年は、オムコさん、見付けるの!?」

「いい人いればいいけれどね。別に貴族の付き合いをするだけだよ。貴族の子と仕方なく、遊ぶだけ」


 ミリーがショックを受けるけど、目的は違う。

 社交活動なんて、ついで。元はお母様の付き合いを頑張るつもりだっただけだし、最早、最低限の最低限でいい状態である。

 目的は魔法を学ぶことであって、貴族の伝手で優れた魔術師と繋がりを持って、古代文明の情報も得られるだけ得たい。


「お嬢様は、大変だな」


 フン、と小さく鼻を鳴らすルジュが、何気なく、黒い本の表紙をなぞった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 咄嗟に、その手を掴んだ。


「えっ?」と、ルジュは困惑で驚いた顔で、私を見た。


「……今、何か、感じなかった?」

「? 何も」


 ルジュは、首を左右に振る。

 掴んだルジュの手に、黒い魔力は残っていない。

 確かに、微量ではあったけれど、黒い魔力が移ったはず。


 どういうことかと思ったけれど、()()()()()、と思い出す。



 ……()()()()()()()()()()()()()()()



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 他の人間の魔力は、うっすらと水色のラメがマーブル模様に揺らめくものだ。

 人それぞれ、色が微妙に異なる。基本的に、得意属性魔法に寄るのだと思う。


 ルジュだけが、()()()、ほんのりと黒色をまとっているのだ。

 黒い色をまとう魔力を持つ人間は、この領地で、他に視たことがない。


 ルジュの『魔力ポケット』を『魔力視』で、改めて視ても、黒を帯びた水色のラメのマーブル模様の魔力が貯まっていた。


 さながら、()()()()()

 その美しさのせいだろうか。だから、悪いものには思えない。黒の魔力。


 …………本に宿る黒の魔力が、ルジュに吸われた……?


 先程の魔力の行方は、そうとしか思えない。


 謎の黒の魔力。


 私の『魔力視』のように、ルジュもまた、特別な能力を持っているということ?

 赤子で捨てられたルジュの出生はわからないけれども、何か能力を持つ一族の末裔だった……?

 私は他の人と変わらない魔力なのに、ルジュの魔力の色だけが異質なのは、どうしてだ……?


 情報不足すぎて、わからないものはわからない。

 ただ、恐らく、本の中に手掛かりがあるはず。


「……」


 今、魔力を吸い取った。

 ……魔力の譲歩の方法は、見付かっていないけれど……吸い取ることは、可能?


 ルジュの魔力を試しに奪い取ってみようと、一瞬考えてしまったが、やめておくべきだと諫めた。


 魔力を操れるとはいえ、完全に奪うなど……。

 魔力切れを起こさせることもよくないし、やめておこう。


 ルジュの手を放して、両腕を組んでまた黒い本を見下ろした。


 もしかして、黒い魔力だけが、吸い取れる?

 あの地下の黒い魔力は、仕掛けに使われるために置かれていたようなもの。

 もしや、黒い魔力は操るための魔力?

 いや、それだと、ルジュの魔力が…………ううーん、わからん。


 とりあえず、ルジュについては、置いといて。


 黒の魔力が、黒い本に宿っている。

 魔法で施錠されていると仮定すれば、一度魔力を吸い取ってしまえばいいのかも。

 手を翳して、本に宿る魔力を、吸い上げて宙に浮かべた。


 一時保留で左手を上げたまま、右手で本を開いてみる。


「開いたっ!」と、ミリーが声を上げた。


 やった!

 と、私も声を上げたかったのだけれど、開いたのは、いいけれど、真っ白なページ。

 何も書かれていない見開きが、一ページのみ。


「なんでだよ!?」

「「!」」


 開いてみれば、何もないオチ。


 ふざけんなっ!


 と悪態をつくと、見ていたジェラールに貴族令嬢らしかぬ言動だと叱られ、行儀作法担当のカリーナにチクられ、さらには誰かが悪影響を与えたのかとルジュ達に疑いの目を向けられてしまい、言葉遣いの見直しを一同で受けることとなってしまった。


 ルジュ達、とばっちり……。

 ごめんよ……。


 イラッとすれば、口も悪くなるんだよ……前世での口の悪い言葉遣いを覚えてるから、つい出た……。


 マジごめんよ、幼馴染達よ。



 


異質な黒い魔力を持つ幼馴染。

謎を解明することに夢中なベラは、一応田舎だとしても令嬢として育てられたので、悪い言葉遣いをしません。基本的には。

……基本的には。


2023/05/26

(次回更新予定、5/28)

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